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農大生の俺に、異世界の食料問題を解決しろだって?  作者: 有田 陶磁
第四章 大地の恵み 動き出した歯車
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第十四話【浴場造り 〜石拾え、草毟れ〜】

よろしくお願いします。




「で、おい達はなんばすっと?」


 そう聞いてきたのは、ウウゥルだった。


「そうだな・・・とりあえず焼き煉瓦がほしいから、まずは日干し煉瓦レンガを作りからだな。大きさを揃えたいから、そのための木枠作りを最初にやろう」


「日干し煉瓦って、建物でも建てる気や? あいは乾燥しとるとこのもんやけん、こがん雨の降るとこやっぎすぐに溶けっぞ?」


「お、ナマル詳しいな?」


「はは、おいたちは伊達に帝国の遣い走りはしとらん。草原の西の方は雨の降らんで乾燥しとっけん、日干し煉瓦で作ったっていう家ば見たぞ」


 よくよく考えてみると、車や汽車がないこの時代では、遠方への移動を繰り返す遊牧民こそが、世界初の運送業者のようなものである。そのため、地域の特色などに博識であっても不思議ではない。


「俺たちが作るのは建物じゃない。登り窯っていう窯を作るんだ」


「登り窯? パン窯みたいなもんや?」


「そそ。マジでパン窯みたいなものを三つくらいくっ付けた物を煉瓦で作る」


「そいば使って何ば作るとや?」


「色々作れるけど、今回はタイルだな。お湯を張る浴槽でも使うし、浴場の床や壁にも使う」


 先程まで不貞腐れていた割に、ナマルは興味津々といった様子で会話を続ける。


「わざわざタイルば使わんでも、木で作ればよかっちゃなかや?」


「作れねえことはねえけど、水漏れしないように木材を加工するのが大変なんだ。それに、排水だったりカビの問題も出てくるしな」


「はぁー、風呂って意外と大変かったいにゃあ」


「作れば良いってもんじゃないからな。作った後の維持も考えねぇとな」

 

 そんなことを話しているうちに工房に到着した。まだ仕事の時間ではないはずなのだが、

人影がある。


「あれ? ユムのばっちゃん、もう起きてんの?」


「やっぱい来たねカズ坊。昨日、チノちゃんがうちんとこに来て、男衆が何か企んどるけんが、手伝ってやってくれんやろうかぁって頼まれたとよ」


 どうやら、チノが先回りして根回しをしてくれていたらしい。


「おぉ! ユムばぁが手伝ってくれるなら百人力だよ!」


「そがん煽てても何も出らんばい。で、ばあちゃんは何ばすっぎよかとね?」


「縦が九セン、横二十三セン、幅が十三センの木枠がとりあえず二十個くらい欲しい。あと、横幅が三倍の長さの木枠が二つかな」


 ユムのばっちゃんは、その辺にあった板に炭で俺からのオーダーを走り書きする。


「こいは、今すぐ必要かとね?」


「うんにゃ、明日三つあれば良いかなってところだな」


「そいぎ、作っとくけんが明日取りに来んしゃい」


「助かるよ! じゃ、よろしく!」


 木枠作りをせずに済んだため、次の作業にるために水車の近くに戻ってきた。


 向かったのは、切り立った崖と平地との間にある傾斜だ。この森と崖の間だったこの空間ではイネ科の植物が生えており、羊たちの食料にもなっている。


「木枠作りをしなくて済んだから、今日はこの辺の整地をやろうと思う」


「ここに風呂ば作るとや?」


「いや、ここには登り窯を作る。風呂の材料作りの拠点だな」

                            

 草が生え、崖の近くであるため礫も多くある。このような場所で何かを建造するのであれば、まずはそういった障害物を排除しなくてはならない。


「ここで煉瓦を組むから、邪魔にならないように草むしりして石とか岩を取り除く必要がある。そんなに広い範囲じゃないから一時間もしないで終わるはずだ」


 三人で草をむしり、石を拾っては一カ所に集める。


「草ば集めてどがんすっとや?」


「それはあとで羊にやるんだよ」


 ナマルの問いに返答すると、すぐにウウゥルが質問してきた。


「じゃあ石は?」


「こいつは石灰岩だから水車の粉砕機にかけて粉にする」


「ふーん。そういえば前から聞きたかったとばってんさ、あいってどがんやって作ったと?」


「あれって?」


「あのすり鉢んごた石臼。岩ばあがん奇麗にくり抜くとか難しかやろ?」


 ウウゥルが指さしたのは、石を砕く杵を受ける石臼だった。


「あぁ、あれか。あの石臼はセメントっていう固まる泥で作ったんだよ」


「セメント?」


「そそ、この石灰岩を粉にして火で温めると、生石灰しょうせっかいっていうもんができるんだ。それとさっき説明した陶石の粉を混ぜる。そこに水を入れてできる泥がセメントだ。この時は馬鹿みたいに熱くなるから火傷(火傷)に注意だな」


「え、水ば入れたとけ熱くなっと?」


「化学反応つってな、まぁ、そのへんもおいおい教えてやるよ。んで、セメントってのは冷めて時間が経つとカチコチに固まるんだ。だから、固くなる前にある程度練って水分量を均一にして、地面に掘った穴に十五センチくらい流し込む。そいつが固まったら壊れた桶を真中に置いて、外側にセメントを流し込めば、すり鉢状の穴ができる。あとは、三日くらい放置して桶を外せば完成だ」


「説明されても、泥が崩れんで石んごとかとうなるってのがようわからん」


「まぁ、実際に見てみないとわからんだろうな。まぁ、これから嫌ってほど見るぞ」


 整地を終えた後、資材置き場では畑を耕したときに出た石を、その後に畑で土を積んで水車の近くまで戻ってきた。


「で、この土と石で何ばすっと?」


「こいつは、煉瓦を焼く時の竈作りにつかうんだよ。まずは石を円形上に並べるぞ」


 高さを出すために、石を数段積み上げながら円形状に並べる。

 本来ならば、穴を掘って空気の通り道を作ればよいのだが、崖の近くになると軽く掘るだけで岩盤に到達してしまうため、こうする他にない。


「あ、ナマル。そこは穴を開けよう」


 円に五十センチ程の穴を数カ所開けることで空気の通り道ができ、燃焼力の上昇が見込める。


「そんで、こいつの上から土を盛って叩いて固めれば完成だ」


 周囲に漏れる熱を石と土の壁が受けることで、効率よく煉瓦に火が通すことができる。


 かまどが出来上がる頃には、朝からもう何度も往復しているエレルヘグたちが運んできた陶石が積み上げられていた。



「こんなもんだろ。向こうの奴らも昼飯食いに行ったみたいだし、俺たちも行こうぜ」


「ほんなごてぞ。腹減った」


「今日の昼飯は何やろか? 塩の効いた猪肉がよかにゃあ」


 食堂に行くと、昼飯時ということもあって大勢で賑わっていた。


 三人で配膳を待つ列の最後尾に並ぶ。この長蛇の列では十分くらいかかるだろうか? と考えていたところで、唐突に後ろから肩を指先でつつかれたため振り返る。


「どうしぶっ・・・」


 頬に刺さる人差し指。その細い指の持ち主は、いたずらっ子のような笑みを浮かべている。


「ったく、なーにやってんだ。お前はガキか?」


 と、言って思い出したが、チノは十分まだ子供である。


「えへへ。調子はどがんね、順調に進みよる?」


「まだ今日始めたばっかりだっつーの」


 先ほどのお返しに、おでこに軽くでこピンをくらわせる。


「あいたっ、もう何ばすっとさー!」


「先にやったのはチノだろ? あ、おい、後ろが来てんぞ。ほら、横にはみ出てないでさっさと並べ」


 後ろからチノの肩を掴んでこちらへと引き寄せる。


「あ、ごめん。ありがと・・・」


「そういや、チノ一人か? 誰かと食うんじゃないなら、俺たちと一緒に食おうぜ?」


 今日も役場で仕事をしていたのか、チノは独りで食堂に来た様子だった。


「いや、でも・・・」


 二人に気を使っているのか、チノは返答を濁す。


「なーに気を使ってんだよ? 別に良いよな?」


「あ、あぁ。別に良かっちゃなかや? なぁ、ウウゥル?」


「う、うん」


 二人の了承も得たため、もう一度チノを誘おうとしたところで、チノが先に口を開いた。


「ち、違うとよ。今日は書き物の溜まっとるけん、役場で昼は食べようって話になっとると。そうけん、うちは二人のご飯ば持って役場に戻らんぎいかんとよ」


 チノは明るく話している。しかし、それが取り繕われたものだとすぐに分かった。だから、これ以上誘うのは止めておくことにした。


「そうなのか、じゃあ今度一緒に食おうぜ」


「うん。誘ってくれて、ありがとね」


 食事を受け取った俺たちは、三人分の食事が入った手提げを持つチノを見送って席に着いた。


「ごめん、カズヒサ・・・」


 それぞれが無言で食べ始めた中、最初に口を開いたのはウウゥルだった。


「何がだ?」


「その、おい達が族長のことばさ、その・・・」


「別にいいよ。理由は知らねえけど、皆がチノと距離を置いてるのは知ってる」


「そいやぎ、カズヒサは族長やゲレルのおやっさんから何も聞かされとらんとや?」


 俺の言葉にナマルは驚きを隠せない様子で問いかけた。


「あぁ。だからって別に何も言わなくて良いぞ。いつか、チノの口から話してくれるだろ。それまで俺は待つよ」


「そうや・・・そいぎ、おいは何も言わんたい。いらんことば言うて、すまんかったにゃ」


 ナマルは苦虫を噛んだような表情でそう言うと、静かに食事に戻っていった

 それから昼食を食べている間、会話が弾むことはなかった。


 昼食を終え、水を飲んで一服したらすぐに労働が再開される。


 明日と言っていたはずなのだが、午後の作業を再開してすぐに完成品の確認をしろと、ユムのばっちゃんが人数分の木枠を届けてくれた。そのおかげで、予定より早く煉瓦造りに取り掛かることができた。


 しかし、まずは材料の運搬から始めなくてはならない。

 材料は濡れてはならないため、樽に詰められた陶石の粉末は、樽に詰められて馬小屋の一角に収められている。


 これらの樽の数々は当然、エレルヘグと子供たちがやってくれたわけだが、樽で運ぶことができるわけがないため、タライに粉を入れてこの馬小屋まで何往復も運ぶ作業を繰り返したということだ。


 つまり、遊びたい気持ちを堪えてやってくれたのだから大切に使わなくてはならない。

 そう考えながら荷車に樽を乗せ、水車へと向かった。


「そんじゃ、さっそく煉瓦作り始めっか!」


「「おぉー!」」


 どうやら二人は、ようやく本題に入れたのが嬉しい様子だ。


「まずは日干し煉瓦からだけど、作り方くらいわかるだろ?」


「わかるわけなかろうもん。見たことはあっばってん、作り方まで知るかて」


「そ、そうなんだな。じゃあ、俺がまず作るからよく見ててくれ」


 まずは木箱の中に陶石の粉を入れ、棒で混ぜながら水を加えて粘土にする。


「この時に水を入れすぎたら、ただの泥になるから注意な」


 水分量は粘土に微かなつやが出たら加水を止める。粉と水が均等になるように良く練り上げ、出来上がったものをユムのばっちゃんに作ってもらった型枠に入れる。その際に予め型の内側に粉をまぶしておく。


「型からはみ出るくらいまで入れて、最後は糸で上にはみ出た所をなぞると奇麗に型に納まる。あとはひっくり返して底板を押して出してやる」


 型枠から押し出される長方形に成形された粘土の塊。


「これを乾燥させたものが日干し煉瓦だ」

 

「こがんやって作るったいなぁ」


「ようできとるなぁ。こいやぎ全部同じ大きさに揃うたい」


 奇麗に成形された粘土に感動したのか、さっそく型枠を手に取って作り始めた。


「じゃあ、俺は粘土練ってるから、じゃんじゃん煉瓦作ってくれ」


「あいよー!」


「おう!」


 ようやく本題に入れたことが嬉しいのか、二人は楽しそうに煉瓦造りに取り組んでいる。しかし、こいつらはまだ気づいていない。陶石の回収が終わるまで、俺たち三人で煉瓦を作り続けなくてはならないということに。


 とは思ったものの、体を動かすことが好きなハワルやゾン等とは違い、ナマルとウウゥルは工芸や芸術が好きな、言わばインドア派である。特に音を上げることは無いかもしれないと二人の姿を見て感じた。


 ある程度の粘土を練り上げが終わったら、煉瓦を干すスペースを確保するためにある程度の整地を行わなくてはならない。大き目の石や岩は取り除かなくてはならない。


 木の板に並べない理由はシンプルで、目下建設中の建物があるからこっちにまで手が回らないのである。


 本来であれば一ヵ月は乾燥させたいところではあるが、今回はそれほど奇麗な形にこだわっていないため、多少の崩れや割れには目をつぶるつもりだ。明日になれば当分の間必要な陶石や石灰岩が十分な調達されるはずであるため、木材の確保や石を砕く班に分かれることができそうでだ。


 なんやかんやと今後のスケジュールなどを考え、石拾いや粘土の補充をしているうちに一日が終わってしまった。


 東の空に浮かぶ星と共に、ここからは見ることができない、山脈の向こう側にあるはずの地平線に沈む太陽の気配を見送る。


 一日目を終えた俺たちは、石の回収に当たっていた別班と合流し、明日の工程の説明や作業の割り振りをしてから解散した。


 水車前から自宅への短い帰路の途中、夜空をに目を向けると奇麗な星空が広がっていた。しばらく雨が降らないことを願いながらチノが待つ家に帰りついたのだった。

 

コロナが流行ってます。

私は、一日ニ玄米四合ト肉ト少シノ野菜ヲ食べていますのでおそらく大丈夫です。

皆さんの健康を祈ってます。

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