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農大生の俺に、異世界の食料問題を解決しろだって?  作者: 有田 陶磁
第四章 大地の恵み 動き出した歯車
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第十一話【塩作り・前編】



 何事もなく夜明けを迎えることができた。


 最後の見張り役に身体を揺すり起こされ、ゲルの外に出ると一面に海が広がっており、子供の頃に家族と海水浴に行った記憶が鮮やかに蘇った。


「おはよう、異常は?」


「何も無かったぞ。静かなもんばい」


「そうか。んじゃ、涼しいうちに砂浜に降りようぜ」


 ゲルを片付けて荷車に積み込んで即座に出発した。


 キャンプ地から数百メートル進むと坂道があり、これで崖を下ることができる。


「おい、ハワル、ゾン、ナマル、ウウゥル! ここ懐かしいだろ?」


「そうだな。こっからおい達は斥候に出たっちゃもんな。あん時、ほんなごて湖が見つかって良かったばい。なぁ?」


「だな、ナマルとウゥゥルはずっと怖がってたからな」


「おいおい、そがん言うゾンだって木の枝が風ば切る音にビビっとったやろうが」


「いやでも、あん時は本当に生きた心地がせんかったよ」


 昔という程ではないが、斥候にでた四人が昔話に花を咲かせる。


 この場所は、レトリアから山沿いに進んで来て、崖へと続く上り坂と、森へと入る横道の分岐点となっている。


 この辺り一帯は、海が近く潮風があるため農地に適さない。そのため海からなるべく離れた場所に拠点を作りたかったのだ。


 しかし、森の中を進むのは野獣や魔獣に襲われるリスクが高い。そのため、崖側を進むことができれば御の字ということもあって、斥候に出てもらった。その結果、森へ降りれる緩やかな傾斜と、湖という好立地を見つけ出してくれた訳だ。


「ここからは、荷車から降りて進もう。四人は弓と槍で周囲を警戒。あぶれた奴は藪を切り開いたり、海までの道を作るのを手伝ってくれ」


 腕っぷしに自信がある者が武器を持ち、自信がない俺は早々に荷車を押す係へと回った。


 木は生えているが、その葉に日光を遮られているせいで背の高い草は生えておらず、どちらかと言えば落ち葉でできた腐葉土や木の根に車輪が取られてしまう。


 百メートル進むのに一時間かかることもあったが、どうにか昼前には砂浜に到着することができた。


「何とか無事に着いたな。早速で悪いけど、日陰に荷物を下ろして準備に取り掛かろう」


「「「おぅ!」」」


 皆が荷下ろしをしているうちに、浜辺に打ち上げられた適当な棒切れを拾って、砂浜に線を引く。半径二十メートル四方の正方形を描き、その中に一番大きな樽を設置する。


 それと同じものを六つ作り、皆をその内の一つの枠の中に集めて説明することにした。


「そんじゃ、今から塩作り始めんぞー!」


「おう!」


「暑かけん早うせろー」


 砂浜の熱気に既に彼らはバテ気味である。コロ丸に至ってはこちらに来ず、木陰で横になっていた。


「作り方の説明を聞いても解かんねえと思うから作りながら教えるよ。とりあえず全部の大ダルが海水で満杯になるまで手桶で汲む。あーでも、その前に海の水で濡れるから靴を脱いだ方が良いよなぁ・・・」


「あ、そいもそうやな」


 そう言いながらハワルが革製の靴を脱ぎ始め、そして・・・。


「うわ熱っ! 何やこい!」


 一番早く脱ぎ終わったハワルが砂浜の上で靴を片方脱いだ状態で飛び跳ねる。


「まぁ、こんな感じで砂浜はすっげえ熱くなってる。だから、樽までの道のりに水を撒くことから始めるぞ。濡れてるとそんなに熱くないからな」


あぶなさぁー、もうちょいで脱ぐとこやったぞ・・・」


「そうけんコロ丸がこっちさ来んやったったいね」


 ハワルではなく、木陰で休んでいるコロ丸に目をむけたナマルがボソリと呟く。


「あっつさぁー・・・嵌めたやろカズヒサ?」


「いやいや、指示出す前にハワルが勝手に脱いだんだろ?」


「ちくしょー、覚えとけよ」


 ハワルは足に付いた砂を払い、毒づきながら靴を履き直す。


「あぁ、そうだ。砂浜を見渡す限り居ないと思うが、海にもワニがいるかもしれねえから海面に注意して汲んでくれよ?」


「ん? ワニって何や?」


「あれ、知らねえのか? まぁ、水辺に住むでっかいトカゲと思ってれば良い」


「でっかいって、どんくらいや?」


 どれくらいと聞かれたため、動物園で見たワニを思い浮かべる。


「あー、色々な種類が居るから一概に言えねえけど、元々俺が住んでた世界に居るのは、高さがコロ丸くらいで、頭から尾までの長さが牛二頭分くらいじゃねえかな」


「いや、もうトカゲじゃなかやろ」


「どがん考えても竜たいえ」


 皆の顔に緊張の色が見えたが、これは決して悪いことではない。チームで仕事をするからといて気を抜かれては困る。結局、自分の身を守るのは自分自身なのだから。 


「んじゃ、全員で手桶持って道作りから始めよう。大ダルに海水を満杯に汲み終わったら、次の作業の説明すっから手早く済ませようぜ」


「「「おう!」」」


 砂の色が変わっている場所で靴を脱ぎ、砂浜に水を撒いていく。


 十五人でやると流石に早いもので、あっという間に動線が出来上がり、樽の中の水も満杯になった。


「よーし、海水はこんなもんだろ。もう見えなくなっちまってるけど、樽を中心に溝がぐるりと走ってるだろ? 次の作業では、この枠の中に柄杓で海水を撒くんだ」


「何だ、簡単じゃねえか」


「そう、簡単だ。だけどただ撒くだけじゃないからよく見といてな」


 本来は、手桶で水を撒くのだがそれはとても難しい。何故なら数リットル入った海水を遠心力を利用して、薄く広範囲に撒かねばならないからだ。そんなことを素人が見本もなく何度も繰り返してれば肩や腰などを怪我をする可能性もある。


 それに、失敗して一カ所に大量の海水が撒かれれば、せっかく蒸発して結晶化していた塩分が、砂の奥深くに逃げてしまうのだ。だから今回は安全策をとって柄杓で撒くことにした。


「手桶に樽から海水を取って歩きながら、柄杓でこんな感じに・・・よっと! 撒いていくんだ」


 柄杓で海水を掬い、なるべく素早く振って水を細かい粒子にして飛ばす。こうすることで一カ所に降り注ぐ海水の量を少なくし、砂の持つ熱を殺さずに済む。さらに、表面の砂にだけ海水が浸透するため、それが蒸発した際に塩分が表面に残るという仕組みだ。


「注意して欲しいのは、まだ乾いていない場所になんどもかけないということくらいだ。とりあえず、この作業に入る前に一端休憩を取ろうか。休みながら役割を決めよう」


 こうして、ようやく塩作りが本格的に動き出した。


 皆が海水を運んでは撒くを繰り返している間、俺は別の作業に取り掛かった。


 塩作りには大量の燃料が必要となる。そのためにまずは流木を集めなくてはならない。


 海から砂浜に打ち上げられた流木は長い時間、太陽光と砂からの熱気に晒されて良く乾燥しているため、即効性のある高火力燃料となる。


 そのため、バーベキューで炭に火を着ける時なんかも、新聞紙から乾いた流木へ、そして炭といった順番でやると火が移りやすい。


 手付かずの浜辺という事だけあって、流木は大量に打ち上げられていた。


 だが、流木は一気に燃え上がりやすい一方、すぐに燃え尽きてしまうという欠点がある。そのため、これでも足りるのだろうかという不安が残るため、その他の燃料づくりを同時に行う必要がある。


 周囲にあった流木をあらかた集め終えたため、すぐ裏にある森の入り口付近に生えている木を伐採する。


 今回はそれほど時間がないため、細めの木を中心に切っていく。


 一時間近くかけて数本を伐採し、それを輪切りにしていくのだが、これがまたかなり時間がかかった。


 どうにか生木を薪状に切り終え、次は一メートルほどの広めの穴を掘っていく。この時点で夕刻になりかけていたため、皆に作業を中断させて手伝ってもらった。


 広い穴が掘れたため、その中心に伐採して薪にした物を地面と同じ高さまで重ねて並べ、その上から再び砂かけて埋めるとドーナツ状の穴が残る。その穴をさらに掘り下げて生木を並べて砂で埋め、その壁面にも同様に生木を埋め込んでいく。


 残ったドーナッツ状の穴には、拾ってきた流木を入れて火をつければ準備は完了だ。


 火はすぐに燃え広がって火花が空へと舞った。一晩火を焚き続ければ、大量の炭ができていることだろう。


 炭は燃焼する時間が長く、流木と組み合わせることで火力を調節しやすくなる。


「うっし、今日の作業はこれで終わりにしよう。暗くなる前に身体洗いに行こうぜ」


「お、流石カズヒサ。近くで川ば見つけたと?」


 ウウゥルが嬉しそうに問いを投げてきたため、残念な返答をしなくてはならない。


「ねーよ。塩で多少べたつくだろうが海で身体と服を洗う。臭くなるよりましだろ?」


「あぁ、やっぱいねぇ・・・」


 期待外れと言わんばかりに声のトーンを落としたウウゥルには申し訳ないが、背に腹は代えられないのだ。


「ほらウウゥル、ブー垂れてねえでさっさと行くぞ」


「はぁーい」


 荷車から手ぬぐいを出し、全員にそれを配布して海へと向かう。


 何度も往復して大型の生き物がいないと判断したのだろうか、躊躇なく海へと飛び込んでいく。


「かっはー!あぁ、気持ちんよさぁ!」


「暑かったけんなぁ」


「はぁ・・・しばらく出とうなかぜ」


「おいは、あん時の温泉にまた入りたかにゃあ」


 一通り身体を洗い終わったのか、皆は思い思いに波に浸っていた。


 最初は冷たく感じていた海水も、暫く入っているとほんのり温かく感じて気持ち良い。


「そろそろ出来てるはずだから、飯にしようぜ?」

いい

「おぉ、準備の良かにゃ!」


「いつの間に作っとったとや?」


「焼いた石と芋を一緒に埋めといたんだ。今頃、良い感じに火が通ってるはずだから、干し肉を齧りながら塩とウルムで食おうぜ」


 飯という言葉に反応したのか、皆は続々と海から上がっていく。


 身体を吹き上げた綿布を洗い、服と一緒に火の傍で乾かす。


 地面にそのまま置く者も居れば、拾ってきた流木を使って服をかける者も居て、服の扱い一つにそれぞれの性格が見て取れて面白い。


 ハワルは砂が付こうが、乾いて叩けば同じと地面にそのまま置いて乾かす豪快な気質で、力自慢のゾンは二股に分かれた枝を二つ持ってきて地面に突き刺し、その間に棒を通して服をかけるという意外にも神経質な面が見て取れた。


 ナマルは丸太を持ってきてその上に広げて置いていたが、裾の部分が砂に付いていてなんとも中途半端。


 ウウゥルに至っては、燃たら嫌だからと森の入り口まで行って木に引っ掛けていた。


 しばらく火の傍で体に付いた水気を飛ばし、替えの服に着替えて食事の時間となった。


 

 蒸かし立ての白芋は、塩とウルムを混ぜた物を塗りたくって食うとマジで美味い。日中の作業で汗を大量にかいているため、塩分が欠乏した体との相乗効果でさらに美味く感じてしまう。


 お湯で戻した干し肉にウルムを塗って、軽く火で炙るとこれがまた脂ギッシュになって美味い。


 食べ終わる頃には空は真っ暗に染まっていて火の明かりが俺たちを照らしていた。


 海の方からは波音が絶えず、目を向けると黒い海の水面が月明りを不気味に反射していた。


 昼の海と夜の海の姿は大きく異なる。夜の海を目の当たりにすると、巨大な何かが目の前に迫っているような畏怖の念を抱かずにはいられない。


 あまり見つめていると吸い込まれそうな気がして、無理やり視線を火に戻す。


「明日も重労働だから、もう寝ようぜ。見張りは昨日の順で良いか?」


 異議を唱える者が居なかったため、すんなり見張りの順番は決まった。


 一応、拠点を囲むように枝を立てて、上中下に毛糸を三週張って簡易のバリケードを築く。


 バリケードとはいったものの、侵入を防ぐのではなく、外敵の接近に気づくことが目的の物である。


 見張りの間は火が絶えぬよう焚き木をくべ続けたが、暗闇に目を慣らすためになるべく火の明かりを見ないようにした。


 最初は目を凝らしていたのだが、徐々に遠くまで見えるようになった。


「ちょっと小便行ってくるわ」


「付いていかんでよかや?」


「コロ丸を連れてくから一人で良いや」


 寝ていたコロ丸の尻を撫でて起こし、一緒に森の方へと向かった。


 ズボンを軽くおろして息子を出す。

 ちなみに効果音はボロンである。決してポロンではない。決してだ。


 炎からなるべく目を離してはいたが、森の中は依然として暗闇に閉ざされている。だが、ゆっくりと瞳の動向が開き、微かな光を捉え始めているのが分かる。


「ふぃー、けっこう我慢してたからなぁ、めっちゃ出るわ」


 用を足しつつ森の中を警戒する。とは言ったものの、コロ丸が何かに反応しない限り安全と言っていいだろう。


「チノ、ちゃんとできてっかなぁ・・・」


 小便も終盤に差し掛かり、気が緩んだのか欠伸あくびが出た。


 その時、眼が闇になれたのか、森の中にうずくまる巨大な白い塊が目に入った気がした。


 一瞬捉えた異物が、脳を一気に覚醒させる。涙でぼやけた視界を腕で拭って明瞭にする。


 目を開けるとほぼ同時に、森の中から風が優しく吹き抜けた。素早く目を凝らして森の中を凝視するもそこには木々が立ち並ぶだけだった。


「気のせいだろうか?」


 欠伸で出た涙を勘違いしただけなのだろうか?まぁ、自分の目よりも信用できるコロ丸が吠えてないということは、そういうことなのだろう。


 自分が目にした光景が気のせいであることに安堵し、思わず溜息が出た。もし、あれが生き物であれば優に天虎より巨大なはずだったからだ。


「コロ丸、戻ろう」


 砂の上に寝っ転がっていたコロ丸が立ち上がり、パタパタと尻尾を揺らす。


 森から吹く風が気持ちいい。おそらく山からの吹きおろしだろう。


 月がないおかげか、空を見上げるといつも以上に星が瞬いている。


 でも、それをいつまでも眺めようとは思えなかった。

 疲労はピークになっしている。さっさと寝るとよう。

 

 戻ると、丁度交代の時間になっていたのか、入れ替わりの引継ぎが行われていた。


 一声かけてテントにはいり、ようやく眠りにつくことができたのだった。



***



 森の中で眠っていると、足音に目が覚める。


 油断していたせいか、すぐそこにまでその足跡は迫っていた。


 匂いからしてカズヒサであることは間違いない。この巨体だ。身動きの一つでも立てれば木々が鳴いてしまうだろう。


 火を見つめていただろうし、われらモングールと比べても目はそれほど良くないと聞いているため、どうにかやり過ごすことができるかもしれない。


(よりによって、こがんとこでせんでもよかろうもん・・・!)


 チノは、心の中でそう叫ぶ。


 水音が耳に入ってくるが、そんなことを気にしている暇はないのだが、夜目が効くチノは、全てをばっちりと目が捉えていた。


 上げそうになる声を必死に抑え、身動きしないことに集中する。


「チノ、ちゃんとできてっかなぁ・・・」


 呼ばれた自分の名前に、暑くなっていた耳が反応してピンっと立ってしまう。


 その時、欠伸をしていたカズヒサの表情が突然険しいものになり、思わずばれてしまったと悟った。


 即座にこの姿を解き、人の姿へと戻る。風がいくらか吹くがこの際仕方ない。


 チノはすぐに木の裏に隠れた。

 少しだけ頭を出し、カズヒサの様子を伺ったが、すぐに目をこすって森の中を注意深くのぞき込んでいるのが分かる。


 だが、声を上げるでも慌てるでもないため、 その様子から決定打になるようなものは目に入っていないのだと判断した。


 安堵のため息がチノの口から零れ落ちる。


 一難去るも、すぐさまチノは心の中で早く立ち去るように強く願う。

 そう、なぜなら、このまま森の中で裸でいては、虫に刺されてしまうからだ。


 すでに耳元では、虫の羽音が聞こえている。


 カズヒサたちが去り、すぐに獣の姿に戻ったチノはため息交じりに呟いた。


「あぁ、びっくいした・・・あがんなっとったいねぇ・・・」


 そう言って、自分でも顔が熱くなっているのが分かる。

 何を口にしてるんだかと、自らにツッコミをいれつつ、チノは森の奥へと入っていたのだった。




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