第三話【希望は箱の中へ】
ボウブラ。それは、煮ても、焼いても、菓子にしても美味いという高性能な野菜だ。
しかも、家畜の餌にできる上、種も食べられるという優秀さは折り紙付き。これは育てない訳がない。
ということで、現在進行形でせっせとボウブラもとい、カボチャの種を植えているのだが、皆は慣れない仕事が続いたせいで疲労のピークに達しているようで、あまり活気は無い。
特に男衆に至っては、あまり細かな作業が好きではないらしく、夏休みの宿題が終らない小学生のような顔をしている。
この作業が終れば、急いでやることは殆どないので休日を取るとしよう。
いや本当は沢山あるのだけれども、直接的に餓死につながるような事はないので良しとする。
ただ、これが終った所で、さらに過酷な力仕事が待っているだけなのだが、筋肉質な男衆のことなので喜んでやってくれるだろう······たぶん。
カボチャは、種を播く間隔が広くなくてはならない。そのため、早朝から始まった今回の種蒔きも、昼食を取って夕方前には終了することができた。
これで、税と俺を含めたモングール族全員で必要となる、カロリー分の作物は出来上がるだろう。
本来ならば、もっと多くの種類の作物を同時に育てたかったのだが、雨水が生命線の天水農業を行う上で、まだ気候を把握できてない土地でも、どうにかなるだろうと判断した作物がこの三種類だったのだ。
他にも育てる作物の候補がいくつかあったのだが、肥料を与えずに略奪農法のままで連作できるのは、あと一回であるため、使用する地力は必要最低限にしておきたい。
また、この広大な農地を賄う堆肥作りや、天水に頼らない水回りなど、農業のド素人であるモングール族の皆に、教えながらやらなくてはならない事が山程あることも断念した理由の一つだ。
そこまで思考を巡らせていたところで、拠点から少し離れた場所にいくつかある内の一つの、木の板で塞がれた洞穴に辿り着く。
入り口は崩落していて人一人通るのがやっとではあるが、中は平らで広い空間になっている。
中に入ると、あらかじめ準備しておいた道具が並べられているが、今回使うのは湿った土の入った平べったい木箱だ。
俺は首からかけているお守りの袋を外し、その中身を一度別の容器を使い、水で湿らせてから均等になるようにばら撒く。
その上に薄く土をかけ、柄杓に穴を開けたもので均等にたっぷりと水を与えたら、乾燥しないように、光を通すほど薄い布を黒く染めた物で木箱を覆う。
そして最後に、帝都で購入した中品質の光石を木箱の真上に設置して、全ての準備が終了した。
「······上手く行ってくれると良いんだけどな」
全ては食糧不足が悪いのだ。食料が無いから争いが生まれ、弱者は強者に蹂躙され奪われる。
だから俺は願う。これが弱肉強食の世界に差し込む希望の光となる日が来ることを。
そして、族長という重圧を一身に背負う、チノを救う鍵となりますようにと。
小さい溜息を吐き出して立ち上がり、使用した道具を簡単に片付けて洞穴の中から出た俺は、小動物が入り込まないように、木の板で入り口の穴を厳重に塞ぐ。
ふと、夕日で染まっているはずの西の空に目を向けると、そこに橙色の光は無く、厚い雲が迫って来ていた。
「今夜辺りに降りそうだな······」
恵みの雨とはこのことだ。これで一気に播いた種たちの発芽が進むことだろう。
それは良い事なのだが、心配なのは、できたての新しい家が雨漏りしないか。ただそれだけだった。
明日は休みだ。チノと何をしよう。やっぱり雨漏りの修理になるのか? そう考えた時、二人で一緒に居ることが当然になっている自分に気が付いて、クスリと笑ってしまった。
あまり遅くなる前に帰らなくては。きっとチノは心配してしまうだろうから。
俺は足早に来た道を引き返す。
誇り高き、寂しがり屋の狼が待つ、我が家を目指して。




