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農大生の俺に、異世界の食料問題を解決しろだって?  作者: 有田 陶磁
第二章 樹海の大炎 開拓の狼煙
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第二話【試練は続くーよ♪ どーこまでーも♪】




 グレン辺境伯・・・・・・もとい、アンちゃんとの謁見を無事に終えて二日が経過し、いよいよカースド大森林への最後の移動が始まろうとしていた。


 この二日間でやったことは、帝都に居た時とさほど変わらず、道中で消費した白芋の補充や、数種類の野菜、生きた十羽の鶏。

 それらを購入しても、予想より少し予算が余ったため、落ち着いてから買い足そうと考えていたシャベルとツルハシを数点ずつ購入した。


 この世界でまともに見た都市が帝都だけであったため、レトリアという都市の雰囲気には、かなり驚かされることとなった。


 一つ目は、レトリアには獣人が定住していて、人と会話するどころか一緒に労働し、酒場では同じ卓を囲んで酒を飲みかわしていたこと。


 二つ目は、獣人の種類の多さ。確認しただけでも人鳥や、人猫、人爬、人兎が街を歩き、商店を経営している者さえ居たこと。


 三つ目は、商品の品ぞろえ。海運業を行っているだけあって、帝都で見かけない食べ物や道具なども充実な品揃えであった。


 これらを比べて、都市によって風習が違うのは、日本もこちらの世界も共通なのだなと感心する二日間になった。


 ここまでの道案内をしてくれたクリスは、ここでお別れになってしまうため、わざわざ出発の朝の早い時間に見送りに来てくれた。


「チノさん、この三週間の食事の面倒を見て頂き、本当にありがとうございました。羊のスープ、すごく美味しかったです」


「そがん言ってくれるぎ嬉しかたい。クリス君とお別れすっとは寂しかばってん、また来年会おうね?」


「もちろんです。僕はレトリアでチノさんをお待ちしてますよ」


「うん、約束ばい!」


 そう言葉を交わして、掌を固く結ぶ二人。その一連の様子を見ていた感想としては、大の役人嫌いであるチノを懐柔するクリスのコミュニケーション能力は本当にすごいというものだ。


 そんなことを考えていると、名残惜しそうにチノと掌を解き、別れを済ませたクリスがこちらへと歩み寄ってきた。


「カズヒサ君も、色々とお世話になったね」


 その眼差しはチノに向けていた優しい物ではなく、鋭い刃のように確かな殺意を孕んだ瞳だった。


「い、色々って何のことですかね? お、俺は何もしてないですよ?」


「それで良い。もしもあの事を誰かに話してみろ・・・・・・必ず君の喉元を斬り裂きに行くからな?」


「は、はい・・・・・・」


 そう耳元で囁き終えると、クリスは踵を返して立ち去ろうとした。

が、一歩目の脚を踏み出したところでぎこちなく立ち止まり、肩から上だけでこちらを向いて、鋭い眼光で睨みつけてくると場都合ばつが悪そうに口を開いた。


「その、何だ・・・・・・あの時、見張りをしてくれたことには感謝している・・・・・・それじゃ・・・・・・また」


 クリスはそう言い残して、今度こそ立ち止まらずに俺の元から去って行った。


 荷馬車に乗り込み、出発の準備が整った。

 チノは何度も振った手をもう一度上げて、再度クリスに手を振った。

 クリスはそれに答えて手を振り返したのを確認すると、チノはこれ以上言葉を交わすことなく手綱を振るい、立ち止まっていた馬を前へと進めたのだった。



 天候は晴れ。空気は良く乾燥し、風は時折吹くだけで過ごしやすい気候だった。


 グレン辺境伯の執事セガールから受け取った地図は非常に分かりやすい物だった。

 おそらく筆写師が書いたものではなく、アンフィビアン卿が自らフリーハンドで書いたのであろう。


 領都レトリアから見て西に聳え立つ山脈を中心に、下に円で囲まれたレトリアという文字が、左側に海、上には斜線が引かれ、カースド大森林と記されている。


「地図って言うより略図だな」


 渡された地図には推奨するルートと思しき、レトリアからカースド大森林までの線が引かれてあった。

 その引かれた線の横には、口紅で付けたキスマークと共に、ある一文が添えられていた。


『山脈の海側を通ると楽よ。それとカズヒサちゃん、チノちゃん、魔獣には十分気を付けてね』


 聖書で学んだこの世界の文字。それをようやく実践で使ったのに、さっそく物騒な単語を見つけたてしまった。


「なぁチノ、魔獣ってなんだ?」


 手綱を握り、馬を操っているチノに問いかけると、すぐに返事が返ってきた。


「いきなりやね、簡単に言うぎ野生の獣が野獣。その中で魔法を使える野獣が魔獣たい。そいがどがんかしたと?」


 特に何も考える様子もなく答えるチノに、恐る恐るもう一つの質問をぶつける。


「その・・・・・・魔獣って強いのか?」


「魔獣が強い? うーん、肉食だったり、草食だったり、いろんな種類がおるけど、出くわしたら死ぬかもしれんね。猪が魔獣になるぎ砕猪サイチョって言うとばってん、一匹出るだけで軍が動くこともあっとよ」


 チノの口から飛び出してくる内容に、戦慄を覚えずにはいられない。


「お、おう・・・・・・その、カースド大森林には・・・・・・魔獣が出るらしいです、はい」


「えっ・・・・・・? そいは本当ね?」


「・・・・・・ほら」


 問いかけてきたチノに、アンちゃんお手製の地図に書かれた一文を指さして見せると、チノの顔が一瞬にして強張った。


「ど、ど、どがんしよう、カズヒサ!」


「お、お、お、落ち着けチノ! ま、まだ、あわ、わ、わ、わてる時間じゃない!」


 大きな事件も無くレトリアを出発できたことで、ようやく本題の開拓が始められると思っていたが、どうやら神様はそこまで優しくはないらしい。

 

 どうあがこうとも、チノと潜りぬかねばならない試練と修羅場がまだまだ待ち受けていると悟った俺は、動揺している少女を横目に、隣で肩を落として溜息を吐き出すのであった。


 聳え立つ山脈を目指す荷馬車は、砂利や小石を踏み、ガタゴトと音を立てて不規則に揺れている。

 その旋律はまるで、不安定な俺達の未来を暗示しているかのようだった。







 カゾク ノ ミナサマ へ


 シキュウ ジイサン ノ リョウジュウ ヲ オクラレタシ


 シュリョウメンキョ? カンケイ ナイ ジタイ ハ カキュウ デアル

                        

                   カズヒサ




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