表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
農大生の俺に、異世界の食料問題を解決しろだって?  作者: 有田 陶磁
第一章 草原の月 狼の少女
11/99

第十話【帝都での買い物Ⅴ ~産業革命万歳!YES!!大量生産 YES!!大量消費~】

第十話【帝都での買い物Ⅴ ~産業革命万歳!YES!!大量生産 YES!!大量消費~】


 料理を扱う露店街を抜けると、高い煙突を構えた建物が目立つようになった。

 道を行き交う人々の男女比率もガラリと変わり、歩く男達の体格も筋肉質でがっちりとした印象を受けた。


 周囲から耳に入るのは、金属同士が激しくぶつかり合う甲高い音や、野太い男の怒鳴り声と、それに続く若い男の短く歯切れのいい返事。


 ウルスラと別れた俺とチノは今、日夜、様々な商品を生み出し続けている工房が並ぶ、職人街へと足を踏み入れていた。


「さっきのおっさんの話だと、スミス・鍛冶商工組合の建物がこの辺にあるって話だったんだが······見ればわかるって言われてもなぁ」


 字が読めない俺にとって、この世界で探し物を見つけるのは至難の業だった。


「あ、あったばいカズヒサ! スミス・鍛冶商工組合って書いてある!」


 チノが指差した方へと目を向けると、大きな黒いフライパンに、金でこの世界の文字を刻み込んだデザインの看板が、そこには掲げられていた。


「はは、確かに見れば分かるだが、日本生まれの俺の感覚だと、これは小洒落な洋食屋だな」


「うわぁ! うち、こがん大きか焼鍋見たこと無かばい! これだけ大きかったら、羊三頭は一度に焼けるっちゃなかかな?」


 建物の無い、草原で生まれ育ったチノにとって、帝都の中にあるもの全てが目新しい物ばかりなのだろう。道を歩く少女の瞳は常にキラキラと輝いているのを見ると、大学進学を機に地元から上京した頃の自分を思い出し、感慨深いものがある。


「さて、中に入ってさっさと用事を済ませようぜ。まだ他に回るところは沢山あるんだからな」


「うん!」


 厚い木の扉を開けて中を覗くと、壁一面に金属製品が展示されており、その夥しい数に思わず息を飲む。

 扉の向こうには、規則正しく長机と椅子が並んでいることから、おそらく職人達の寄合所なのだろうと推測することができた。

 そして建物の中に数歩入り込んだ所で、カウンターに座る野太い声の男に呼び止められた。


「おう、いらっしゃい。 ん? 兄ちゃん、ここらで見ねえ顔だな。まぁ良い、用件はなんだ?」


「商品の買い付けをしたいんだが、一見客でも大丈夫だろうか?」


「金さえ払ってくれれば構いやしねえよ。うちの客の八割が帝都の外から来た行商人が相手だからな」


 男はカウンターから立ち上がると、こちらへと歩み寄り、手を差し出して来た。


「ゴルダン・ブラックだ。スミス鍛冶商工組合の取り仕切らせてもらってる」


 即座に、その大きくゴツゴツと硬い印象の掌を握り返し、名乗り返す。


「俺はカズヒサです。こっちは連れのチノ。今日は鉄器の買い付けで足を運ばせてもらいました」


互いに手を離すと、ゴルダンは手慣れた様子で椅子に座るよう促してきたので、チノと共に席に着いた。


「茶も出せなくて悪いな。今、うちの嫁さん、職人の飯の準備で買い出しに行ってんだ」


「いえ、お構いなく」


「そうかい? それじゃ、一服もさせずに悪いが、商売の話を始めるとしよう。それにしても兄ちゃん、その若さで元値の張る鉄器を取り扱うたぁすげえやり手だな。それで、今日は何をお探してるんだ?」


「取り合えず斧と―――」


 斧と言う単語を出した途端に、ゴルダンは事情を察したように口を割り込んできた。


「ははーん分かったぞ兄ちゃん! お前さんが探してるのは鉄製の武器だな? 確か今は、西の国境で面してるぺルシールって国と戦争してるからな。そこで戦斧を売りさばこうって訳だ! そうだろ?」


「いや、木の伐採用の斧を頼みたいんだが······」


 その予想を即座に否定するが、ゴルダンは再び事情を察した様子で口を開いた。


「なるほど、戦地で燃料になる木材が必要だからなぁ! そこでうちの斧を売りさばこうって訳だ!」


 何となく最初に割り込まれた時から感じてはいたが、このおっさん悪い奴ではないが、ほぼ確実にめんどくさい人種だ。


「それで、伐採用の斧は何本くらい持っていくつもりなんだ? いくつか種類があるが、うちだと二十五シルから三十五シルが相場だぜ?」


「取り合えず六十本だな」


「あいよ、六十本だな······って、おい! 兄ちゃん、桁が一つ多いんじゃねえか? 一つ三十シルだとしても千八百シル、十八ゴル必要なんだぜ? 悪いがうちの組合は高額の分割払いは、信用がある相手じゃねえと受けてねえんだ」


 ゴルダンは、冷やかし客だと決めつけるように声色を変え、大きなジェスチャー交えて断りをいれてきた。


「全て一括払いで購入する。俺が聞きたいのは商品を用意できるかだ。······チノ、財布の中身を主人に見せてやってくれ」


「え、良かと? 危なくない?」


「たぶん大丈夫だろ。組合の主人が金に目をくらませて、信用を失う真似はしないだろうさ。まぁ、危なくなったら走って逃げろ」


「うん······分かった」


 チノは不服ながらも了承した様子で、革製の鞄から良く膨らんだ革袋の財布を取り出して口を広げて、ゴルダンに中身を見せた。


「これは······まさか」


「えぇ、全て金貨です。これは、ベスティメンタ商会さんとの取引で得たお金なので、出所が不安でしたら問い合わせして頂いても構いません」


 チノが革袋を鞄に仕舞ったのを見計らって、こちらから口を開くことにした。


「これで僕たちの話を聞いて頂けますか?」


「あ、あぁ、もちろんだ」


 こうして、ようやく商談が始まった。

 交渉は円滑に進み、こちらが頼んだ全ての商品は、三日後までに集めることが可能との事で、市壁の外まで届けに来てくれると確約してくれた。


 以下がスミス鍛冶商工組合から買い付けた品の一覧である。


 伐採用の斧、  六十本······十八ゴル。


 (クワ)   百五十本······十九ゴル半。


 (ノコ)    十五本······三ゴル。


 (ノミ)三種、十本ずつ······二ゴルと十シル。


 金槌(大・小) 十本ずつ······一ゴルと七十シル。


 釘       一万本······五ゴル。


 上記を締めて、お買い上げ金額は、四十九ゴルと三十シル、と大きく膨らんだ。

 つまり日本円換算にすると四千九百三十万となり、これだけの大金があれば、都内でマンションを購入することが出来る額だ。

 全てハンドメイドのため、生産量が乏しく価格設定が高くなるのは理解できるのだが······。

 やはり、産業革命による大量生産と大量消費は、大変偉大なものなのだと痛感させられたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ