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農大生の俺に、異世界の食料問題を解決しろだって?  作者: 有田 陶磁
第一章 草原の月 狼の少女
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プロローグ【ちょっと用水路見てくる】

農業×異世界

散々やり尽された題材だと思いますが、新しい物を書くことができたらと思っています。

書き溜めは無いので、短い話を刻みながら書いて行こうと思います。

どうぞよろしくお願いします。

おじいちゃんの訛りは、九州の上の方の喋りかたです。

プロローグ【ちょっと用水路見てくる】


 大学二年の夏休み。県外で大学生をしている俺は、農業をやっている実家に里帰りし、炎天下の中で農作業に従事していた。


 子供の頃は、スーツを着るかっこいい仕事に憧れ、実家が農家であることを恥ずかしいと思っていた。


 しかし、高校生の頃、とある企業の過労死問題をニュースで見て、憧れていた世界がどのようなものなのか不安に感じた俺は、ネットを駆使して調べまくった。


 その結果、世の中にはブラック企業というものが蔓延しているのだと知ったのだった。


 それから程なくして、自分の家がやっている農業の規模がかなり大きい部類であることを知り、旨みを感じた俺は農家を継ぐこと決意する。


 米の他、大きく力を入れているビニールハウス栽培を始め、果樹園、しいたけ栽培、他にも小規模ながら祖父さんが趣味で始めた牛舎、養豚、養鶏と手広くやっていたため、うちの一族は百姓ならぬ百商と地元では呼ばれていた。


 現状ではこの環境を全て、長男である俺が受け継ぐ予定になっている。

 そこで、家業のさらなる発展を実現するため、大学は農学部のある学校に進学した。


 夏は農家が仕事をする季節。うちは有機栽培をやっているため、堆肥作りから、所有している山では木の手入れ、狩猟免許の罠・銃を両方持ち合わせる祖父と共に害獣駆除、そして極め付けが、冬に使う燃料のため、炭焼小屋に籠るなどと忙しなく働かされた。


 これも全て、農家を継ぎ人生を悠々自適に過ごすため。


 俺は若い労働力として黙々と指示に従った。


 そんな夏休みも終わりに近づいたある日、日本列島に大型の台風が接近した。


「台風対策も万全だし、今日と明日は休むことができそうだなぁ······」


 久しぶりの休日。


 夜の内から台風に備えて作業を続け、先程ようやく仕事から解放された。


 居間の方では台風情報を神妙な面持ちで睨み続ける、親父と祖父さんの姿があり、その空気に耐えかねた俺は、自室へと逃げ込んだのだった。


 晴れていた空は巨大な雲に飲み込まれ、風は徐々に強く吹き始める。そして堰を切ったように大粒の雨が降り注ぎ、忙しない雨音が家の中にまで響いていた。


 いつの間にか眠っていたのか、寝ぼけ眼で窓の外を見る。まだ十九時にも関わらず、夏の空は不気味なほどに薄暗い。


「おい、和久ぁ! 寝とっとかぁ!」


 外を眺めていると、ドアの外から俺を呼ぶ祖父さんの怒鳴り声が轟いた。


 嫌な予感がしながらも、起きていることがバレると後々面倒なことになると判断し、数秒遅れで返事をする。


「······どうしたんだよ祖父さん?」


 ドアを開けて、階段の下に居る祖父さんと顔を合わせる。


「起きとるとやったら、さっさと返事ばせんかっ!······仕事たい、用水路の水門と田んぼの様子ば見て来い!」


「はぁ? 水門ば開け忘れたとや?」


 唐突な死亡フラグに、標準語に慣れていた口調に訛りが戻る。


「そいば確認して来いって言いよっとたい。おいは最近、物忘れが激しかけん確認が必要かとさ。それに用水路だけじゃなか。田んぼに土嚢が必要じゃなかか、はよ確認してこい!」


 はっきり言って危険だ。視界の悪い夜に濡れて滑りやすい畦道を歩くのは自殺行為に等しい。


 だが、俺が断って祖父さんに行かせるのはさらに悪い判断だ。


 ここで祖父さんを死なせてしまえば、遺産目当ての親戚の思う壺。


 行かないという選択は、当然ながら無い。田んぼが壊れれば、修理を含めて収入の多くを失うことを意味するのだから。


「わかったよ······行けば良いんだろ?」


「始めから渋らんで、そがん返事すれば良かったい。そいと、見回りにはコロ丸ば連れて行け。今日は散歩しとらんけん丁度よか」


 人が行くと言った途端に、祖父さんは思い出したように更なる厄介ごとを押し付けてきやがる。


「へいへい、じゃあ行って来るよ」


 面倒くさい仕事を押し付けられ、気持ちが沈んだ俺は、祖父さんの目を盗んで購入したブーツ風のオシャレ長靴を箱から出し、これを履いて落ち込んだ気分を紛らわせることにした。


 水を弾くオシャレ長靴はなんと、走れる機能設計となっており、歩く分には履き心地は最高だった。


 祖父さんと別れ、雨合羽と懐中電灯を手にコロ丸の待つ農機具小屋に向かった。


 コロ丸は祖父さんが番犬用に貰って来た犬だ。子犬の頃は片手で抱けるほど小さく、とても可愛らしかったのだが、見た目の愛らしさで俺が付けたその名に反し、子犬はあっと言う間に成長した。そして、歴戦の狩人である祖父さんの訓練の下で忠実な狼犬へと成長したのだった。


「コロ丸、散歩に行くぞ」


『はっ、はっ』


 俺が声をかけると同時に立ち上がり、散歩という単語に反応したコロ丸は、激しく尻尾を振っている。


「お座り、リード付けるから大人しくしな」


 俺は壁に掛けてある散歩用の太いリードを取り、コロ丸の首輪から伸びる鎖を外して付け替える。


「ほら、行くぞ」


 リードを軽く引くと、コロ丸は俺の僅か後ろを追うように歩き始めた。


「お、見えたな」

 懐中電灯の光の先には、水の轟音を響かせる水門が照らし出される。


 水門が流す水量を調整する青いハンドルを確認し、全開になっていることを確認した俺は、田んぼの畦道の確認に向かうため、身を翻す。


 その時だった。


『ズルッ―――』


 うちの水門は、整備点検を行うため足元には穴が開いており、その上に鉄板を敷いて穴を塞ぐ構造となっている。


「えっ?」


 たとえ滑り止めの凹凸が付けられていようとも、濡れた鉄板の上は摩擦係数が低く、雪道のように滑るのだ。


「うわぁ―――」


 叫び声を上げる暇も与えられることなく、激しい水の濁流の中に俺は飲み込まれ、俺は何も見えない闇と共に、意識を失ったのだった。



次回からは、和久の冒険スタートです。

よろしくお願いします。

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