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第10章ー7

 蒋介石は、上海にいる日英米以下の軍隊の様子を見て、日本本国等からの増援を待って、彼らは攻勢に転じてくるものと判断した。

 こちらが少しでも有利に戦おうとするならば、今すぐ国民党軍は攻撃を掛けるべきだったが、蒋介石は軍事的、政治的理由から動こうとしなかった。


「将軍。何故、上海に攻撃を掛けないのですか」

 部下から突き上げを受けても、蒋介石は首を横に振って、偵察も兼ねて、上海を遠巻きに包囲させつつ、南京方面への縦深確保に部隊を配備することに徹することにした。

「上海を攻撃するのは、二重に事情が悪い。上海で市街戦を展開しては、量の優位を十二分に生かせない上に、部隊を日英米等の軍艦の艦砲射撃の的にされてしまう。むしろ、こちらが陣地を構えて防御に徹したところに、日英米軍が攻撃を加えざるを得ないようにし、それによって損耗させて勝利を掴むのだ」

 蒋介石は、そのように部下に説明していたが、内心では政治的なことを考えていた。


「日本は英国の同盟国であり、事実上の宣戦布告も受けた以上、国民党軍と戦わざるを得ないが、できる限り戦争の規模を大きくしたくない。蒋介石殿もよくよく考えられたい」

 日本の幣原喜重郎外相は、そのように蒋介石に極秘裏に人を介して伝えていた。


 蒋介石もひとかどの政治家兼軍人である。

 幣原外相の言わんとする内意は伝わっていた。

「要するに、日本も国内の金融制度が混乱している状況下で、本格的な戦争まで行いたくはないのだ。日英米連合軍の主力となる日本が乗り気でないのなら、こちらも戦争の火の手を大きくすることは無い。共産党と国民党左派の謀略で、自分がやりたくもない戦争をする羽目になったのだ。これくらい許されて当然だ」

 蒋介石は、自分の命を護るために、戦争後に日本へ亡命することまでも、この時に策していた。


 3月26日に通常の帝国議会は終わっていたが、3月末に武漢に置かれた中国国民党(左派)政府が、南京事件を受けて、日本に宣戦布告したことや三井銀行等への取り付け騒動が起きた事から、若槻礼次郎首相は、4月上旬に急きょ臨時議会を招集し、予算の手当てやモラトリアムの実施等々を行うことにした。

 そして、若槻は自分が文民であり、戦争指導に不安があることを表向きの理由に、併せて三井銀行の取り付け騒動等への対処の為、田中義一立憲政友会総裁と会談し、元老の西園寺公望と山本権兵衛の了解を取り付けた上で、自らは内閣総辞職をし、事実上、田中立憲政友会総裁に政権を禅譲することにした。

 そして、4月20日に田中内閣が成立した。


 表向きは、国内の金融恐慌に対処し、中国との戦争遂行のための内閣だったが、田中新首相も日本の実情をわきまえていた。

「一撃膺懲、南京近郊まで日英米連合軍を進めて、そこで停戦する辺りが限界だな。武漢まで進軍せよと英米等が言いだしたら、日本は諌めねば」

 陸軍出身の田中首相は、そのように決断して、自らが外相を兼任することで、万が一の軍部と外務省の暴走を抑えることにした。


 それでは、日本の派兵兵力をどうするのか?

「海兵隊を全面動員して上海に派遣し、南京攻略を目指す姿勢を示す。海軍本体と空軍もこれに積極的に協力させる。陸軍は国内で動員準備命令を掛けるだけにしておく」

 田中首相は閣議の席で、そう明言し、閣内の意見を一致させた。


 それにしても、海兵隊全面動員となると、4個師団体制になる。

 自動車等の重装備化が進んでいるため、輸送、補給を整えるのに海軍は大わらわになった。

 また、海軍本体も、連合艦隊主力を対中戦に動員することになり、空母「伊勢」、戦艦「金剛」「榛名」を主力とする遣中艦隊が臨時編成され、上海沖へと出撃した。


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