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第2章ー4

「やってくれましたな。しかし、日本人の多くは後悔することになるでしょう」

 英のバルフォア外相や米のランシング国務長官は、国際連盟の前文に人種差別撤廃条項が入ったことについて、採決後に牧野元外相にそのように忠告した。

 実際、この人種差別撤廃条項は、時期尚早過ぎた、アジアの民族運動を活性化させて日本を苦しめるブーメランをもたらしたと、当時の日本国民の多くからも批判される結果となる。


「人種差別撤廃を訴えて国際連盟の前文に人種差別撤廃条項を入れながら、日本は、我々中国人を公然と差別している。このような二枚舌の日本人を我々は許せない。山東半島は我々の領土だ」

 1919年4月末、顧維鈞を団長とする中華民国代表団が、山東半島問題等からパリ講和会議から退出せざるを得なくなった、という報道が、5月4日に北京に確実な情報として届いたことから、上記の言葉をスローガンに学生を始めとする北京市民は大暴動を起こした。

 五四運動の始まりである。


 段祺瑞を中心とする北京政府は直ちに鎮圧に掛かったが、中国全土に暴動は広まる一方となった。

 二枚舌の日本を許すな、人種差別撤廃を訴えるなら、日本は、まず我々中国人を対等に扱い、山東半島や満州利権をすぐに無償で全て中国に返還せよ、と暴動参加者は訴え、国民の多くもその行動を支持した。

 このような状況から、6月28日、北京政府はヴェルサイユ条約調印は国辱であるとして拒否、国際連盟にも加入しないという決定を下すことになった。

 国際連盟による問題の平和解決は、中国では当分、望めないことになったのである。

 そして、五四運動の結果、日貨排斥等、排日運動が、中国全土に広まり、更にその運動は、排日米英運動へと拡大することになり、と悪循環を生み、南京事件、山東出兵、満州事変へと東アジアは悲劇の道を歩むことになる。

 もし、人種差別撤廃条項が国際連盟に入っていなかったら、ここまで排日運動が拡大しなかったという説が強いことからしても、時期尚早論は否定できないところだろう。


 中国ではそういった大きな動きがあったが、パリでは粛々と対独講和条約締結の動きが続いた。

 日伊は自国が関連する以外の問題については基本的に沈黙を守ったので、米英仏の思惑が基本的にぶつかり合うことになった。

 徹底的な対独復讐を叫ぶ仏、ある程度の力を独に遺すべきだとする英、世界大戦後の世界秩序の安定を優先して考えて理想主義を掲げる米と三国それぞれの考えがぶつかり合ったが、最終的には米英仏の間で妥協が成り、1919年5月7日、独政府の代表団に講和条約の草案が提示された。

 同月29日に、独から反対提案が出され、英は検討の余地を認めたが、米仏は断固拒否した。

 6月23日に独政府は講和条約の草案を受諾する旨の回答を行った。

 同月28日にヴェルサイユ条約に各国は署名し、対独講和条約は成立した。


「これは恒久的な平和をもたらさない、精々20年の平和をもたらすだけでしょうな」

 ヴェルサイユ条約締結後、仏のフォッシュ将軍は、林忠崇元帥とヴェルサイユ条約の内容について話し合った際に語った。

 その言葉に、林元帥も肯きながら言った。

「軍人として、祖国を守るために、軍備を整えねばなりませんな」

「全く5年に及ぶ戦争で、対独復讐を多くの国民が訴えるのは分かりますが、政治家までそれに呑まれるとは困ったものです」

 フォッシュ将軍はため息を吐きながら言った。

「国民の多くが親族、友人を失ったのです。復讐を叫ぶ気持ちも分からないではないですが、本当にそれによって更に戦争を招いてどうするのでしょうな」

 林元帥は遠い目をしながら、独り言を言い、フォッシュ将軍は黙って肯いた。 

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