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第9章ー9

 急きょ、改稿しました。

 そのために投稿が遅くなり、すみません。

「いかん。三井銀行を切り捨てて、三井グループを守る。この非常手段しかない」

 1927年、5月下旬、池田成彬は、三井財閥の幹部を集めた緊急会合で、そう発言した。

「しかし、三井財閥の本体ともいえる三井銀行を切り捨てるというのはどうか」

 団琢磨が、池田に思いとどまるように言ったが、池田は頭を振って、発言した。

「政府が三井銀行救済に動かない以上、どうにもなりません。三井銀行に対する信用不安は一向に収まる気配がありません。大蔵省の緊急査察を無条件で受け入れても、信用不安は解消されないでしょう。かといって三井銀行を国有化してくれと政府に頼むわけにもいかないでしょう。幸い三井銀行は、本当は優良銀行です。どこかに買収救済してもらいましょう」

「どこが買収してくれる。天下の三井銀行だぞ」

 団の反問に、池田は答えた。

「米国の財閥に買ってもらいますよ。既に打診が来ています」


 3月末に三井銀行の信用不安から起こった取り付け騒ぎは、結果的に全国の銀行に飛び火した。

 これに対して、臨時議会を招集して、若槻礼次郎内閣は対処し、与野党共同でモラトリアム実施の緊急法を制定する等の対策を講じたが、対中戦争の勃発も相まって、若槻内閣は混乱を鎮めるためという大義名分からモラトリアム実施の緊急法制定を機に、4月20日、終に総辞職した。

 そして、元老の西園寺公望や山本権兵衛の仲介により、田中義一内閣が成立した。


 こういった日本国内の混乱の最中、3月24日に発生した南京事件をきっかけに勃発した日英米の対中戦争は、日英米側が優勢裡に進んでいたが、日本国内の金融恐慌のために、速やかな停戦交渉が行われている状況だった。


 4月下旬から5月半ばに掛けて、日本国内でモラトリアムが3週間にわたって、実施されることにより、表面上の金融恐慌は収まったが、三井銀行に対する信用不安は解消されていなかった。

 一応、表面上は、伏見宮家の預金関係トラブルは収まり、三井銀行の軍部との取引停止も解けてはいた。

 だが、それを理由に、三井銀行からの預金流出は未だに止まらない上、三井物産の米国での取引先が三井銀行を介しての取引を断り、更に三井物産の欧州の取引先にも三井銀行を介しての取引拒否が広まった。

 このまま行くと、三井系の海外取引全てに三井銀行は関われなくなる。

 今や、こうなっては、三井銀行は、三井財閥の重荷になる一方、と池田は判断した。

 それならば、と池田は従前から関係の深い第一銀行を三井財閥のメインバンクに切り替え、三井銀行を切り捨てるまでだ、と非情の手段を講じることを決断したのである。


「三井財閥の大本ともいえる三井銀行を、米国資本に売却するのか」

 団は、衝撃の大きさの余り、平板な声で言った。

 池田は黙って肯いた。

「何とか、それを避ける方法は無いのか」

 団の問いかけに、池田は答えた。

「今や三井銀行を見捨てるか、三井財閥全体が三井銀行と心中するか、という段階が迫っています」

「そうか。三井家の説得は、わしがやろう。三井家がそれを呑めばいいがな」

 団は肩を落としながら、緊急会合の席を立った。


 そして、団は、その説得に成功した。


 三井銀行の米国資本への売却が決まったという情報は、日本の政財界に激震を走らせた。

 天下の三井が、三井銀行を手放す、と言う事態が起こるとは、誰も予測していなかったのである。


「まさか、ここまでの事態が起こるとは」

 元老の山本権兵衛元首相らも、昭和金融恐慌の影響がもたらした結末に衝撃を受けた。


 だが、幸いなことに日本経済への影響は最小限で済んだ。

 三井から譲渡された三井銀行は、米国資本の投入により、信用不安を無事解消し、経営自体は好転したからである。 

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