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幕間2-5

 欧州情勢の説明回です。

 実は、第二次世界大戦の超有名軍人も陰ながら姿を示しています。

「そういえば、欧州情勢は一応は安定していると見ていいのかな。ロカルノ条約も締結されたことだし」

 林忠崇元帥は、土方勇志提督に問いかけた。

「一応は、という前提を付けるべきでしょうが、そう言えると思います」

 土方提督はそう答えた。


 世界大戦終結からヴェルサイユ条約が締結されたとはいえ、すぐには欧州情勢は安定しなかった。

 ロシア内戦は、ポーランド等周辺諸国も巻き込み、なかなか決着はつかなかった。

 最終的にロシア内戦がほぼ終結するのは、1922年のことになる。

 また、独に多額の賠償金をヴェルサイユ条約で押しつけたことは、仏とベルギーによるルール占領から独国内にハイパーインフレを引き起こし、その経済的混乱が独以外の欧州諸国にも影響を与える程だった。

 この経済的混乱は、いわゆる「レンテンマルクの奇跡」で一時的に落ち着くものの、最終的な解決とは言えず、米国が介入し、ドーズ案が関係各国に承認されることでやっと一応の解決がなされた。

 また、ソ連もいわゆるネップ(新経済政策)の採用により、経済が安定しつつあった。

 こういった経済面の回復を背景に、欧州では国際協調主義が高まり、独外相シュトレーゼマンと仏外相ブリアンの努力により、英仏独伊にベルギー、ポーランド、チェコスロバキアの7か国が参加し、1925年10月にスイスのロカルノで地域的集団安全保障条約のロカルノ条約が締結されていた。

 こういった国際協調主義と経済の安定という相乗効果は、特に西欧では当分の間は国際平和が続くのではないかと言う幻想を抱かせる効果があった。


「だが、東欧は必ずしも安定しているとは言いにくいようだな。例えば、昨年5月にはポーランドでピウスツキ元帥によるクーデターが起き、ピウスツキ元帥が独裁体制を敷いたではないか」

 林元帥が指摘すると、土方提督は難しい顔をした。

 林元帥は口に出さなかったが、実は日本とポーランドとの軍事交流は密やかに行われていたのである。

 理由は言うまでもない。

 日本とポーランドにとって、共に事実上の敵国となっているソ連と独対策である。

 「汝の敵の敵は、汝の味方なり」の金言に従い、日本とポーランドの陸海軍部は軍事交流を密やかに行っていた。

 それに、日露戦争時に、日本がポーランドの独立運動を援助して以来、ポーランド人の多くが、日本に親近感を覚えており、多くの日本人もロシア人に弾圧された気の毒なポーランド人というイメージから、ポーランドに親近感を覚えていた。

 日本とポーランドが軍事交流を持つようになったのは、そういった親近感もあった。

 だから、ポーランドが政治的に混乱することは、日本にとって望ましくなかった。 


「とりあえず、ピウスツキ元帥はポーランド国内を安定させることに成功しました。ピウスツキ元帥は多民族主義者で、ポーランド国内のドイツ人やユダヤ人等の少数民族を保護しています。まずまず評価してもいいのではないでしょうか」

 土方提督は、林元帥に答えた。

「そういえば、そうだがな。ポーランド・ソヴィエト戦争でポーランドに味方したドイツ義勇軍の軍人の多くが、ポーランドの厚遇に感激したこともあり、そのままポーランド軍に入っているそうだ。その中には、ヒンデンブルク独大統領の身内までいるとか」

「ほう、祖国とは何か。考えたくなりますな。東プロイセンは、今やポーランド領です。故郷がポーランド領になった以上、ポーランド政府に忠誠を尽くすべきという考えがあるのかもしれませんが」

「全くだな。祖国への忠誠とは何か、だな」

 かつて、錦の御旗に銃弾を積極的にかつて放った林元帥は、その言葉の内に皮肉を込めていた。

 土方提督も、祖国とは何か、とふと思った。

 幕間の終わりです。

 次話から昭和金融恐慌、南京事件へと進みます。

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