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第8章ー15

 結局、鄭孝胥やレジナルド・ジョンストンは、日本へ亡命するかどうかの判断を、皇帝溥儀の判断に任せることにした。

 皇帝溥儀自身も、大いに迷ったが、実際問題として、馮将軍によって、清室優待条件が破棄されてしまい、自らが紫禁城から追い出されたばかりである。

 日本自身が、天津の日本租界でも皇帝溥儀の身の安全を保障できる自信が無い、と言っているのに、天津に自分は住むので、日本に護ってほしいということはできない。

 そして、日本の保障無しに、中国国内に残っていては、自分から死地に残るようなものである。

 いろいろ考えれば考える程、元皇帝の誇りを守り抜くために天津に残って死の危険を甘受するか、元皇帝の誇りをある程度は捨てても日本に亡命して生きるか、どちらかの路しかないことが、皇帝溥儀やその側近達の頭の中に染み通ってきた。


「鄭、朕は生き恥を晒してでも生きたいと決めた。日本へ亡命しよう。朕の供をそなたはしてくれぬか」

 皇帝溥儀は、数日に渡り、逡巡した末にそう決断して、鄭に伝えた。

 その言葉の中に含まれた、共に日本で生きようではないか、という自らへの温情を察した瞬間に、鄭は思わず号泣した。

 無理無体な馮将軍やそれに味方する諸勢力が悪いのだ、本来なら、この若き元皇帝は紫禁城で崩御するまで安楽に暮らせたはずなのに。

 何が悪かったのか、時代の流れが悪かったのか、自分達の力が足りなかったのか。

 その果てに、自分は理不尽極まりない決断を主君にさせてしまった。

 その想いが、鄭を号泣させていた。

「泣くな。朕をますます辛くさせる」

 皇帝溥儀のその言葉がますます、鄭の心をえぐってしまい、鄭の号泣はしばし止まなかった。


 鄭を介して、皇帝溥儀の決断を聞いた海兵隊の米内光政少将の行動は迅速だった。

「サムライの名に懸けて、皇帝溥儀らを無事に日本に連れ帰らねば」

 そう言って、米内少将は部下を督励した。

 米内少将は、即座に日本政府に対して、皇帝溥儀が日本への亡命を希望している旨を知らせるとともに、皇帝溥儀やその家族、側近に対して万全の警備体制を維持するように努めた。

 その警備体制は、周囲をさすがは「新選組」と唸らせる程だった。


 日本政府、加藤高明首相らは、皇帝溥儀の日本への亡命申請を聞いて驚愕したが、宇垣一成陸相や財部彪海相が、皇帝溥儀を日本で受け入れることに積極的に賛成したことで、それに閣議の進行も引っ張られてしまい、皇帝溥儀の日本への亡命を受け入れることに正式に決まった。


 最終的に1924年12月、北京周辺の情勢がある程度、落ち着いたことから、天津へ派遣された日本海兵隊の本国への帰還が決定、それに護衛されての皇帝溥儀の日本への亡命ということが執り行われた。

 佐世保港にたどり着いた皇帝溥儀やその家族、側近を、日本政府は大歓迎した。


「ここを自らの第二の故郷と思って下さって構いません。できる限りの便宜を図りましょう。関東大震災の際の御厚情を、日本政府は決して忘れません」

 加藤首相自ら、皇帝溥儀を訪問し、そのように伝える程だった。

 皇帝溥儀とその家族、側近は日本国内に安住することになった。


 後に、皇帝溥儀の供をして日本に亡命した皇帝溥儀の弟、溥傑は、日本政府の仲介により、日本の皇室と縁のある嵯峨侯爵家の長女、浩と結婚する。

 皇帝溥儀には生涯、子どもが生まれず、溥傑にも浩との間に、娘二人しか生まれなかったこともあり、ここに皇帝溥儀の男系の子孫は、日本の地で事実上絶えることになる。

 それでも、溥傑の娘2人は、それぞれ日本人と成人後に結婚し、事実上、清王朝の血を日本で伝えていくことになるのだが、それは昭和の御代、第二次世界大戦が終わった後の事だった。 

 第8章の終わりです。

 次から幕間(1927年初頭におけるこの世界の状況説明)を5話投稿した後で、第9章を投稿する予定です。

 

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