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第8章ー14

 荷物の積み込みが無事に終わると、皇帝溥儀とその家族、側近を連れて、土方歳一大尉は部下と共に北京から天津へ向けて出発した。

 天津に残置される他の部隊から借りた燃料は、天津と北京との往復する分には充分に足りていたが、移動する際に自動車の故障が起きるのはどうしようもないことで、万全の整備をしたうえで天津から出発したはずなのに、行きは30台の内1台が故障するだけで済んだが、帰りは延べ5台が故障した。

 幸いなことに全て応急修理で何とかなる故障(プラグの交換等)だったが、このことは海兵隊や陸軍の上層部に、車両故障に対する対策(戦闘が無くとも移動するだけで故障が起こるのだ)が、必要不可欠なことを再認識させる効果があった。


「皇帝溥儀陛下を無事にお連れしました」

 天津に無事に到着し、土方大尉が、支那駐屯軍司令部に上記のように報告すると、司令部内では歓声が沸いた。

 充分に根回し等をしていたとはいえ、北京では政変が起き、一部の部隊が暴発する可能性が完全には否定できない状況だったのだ。

 そうした中で、皇帝溥儀が無事に北京から脱出し、天津へたどり着けたのは喜ぶべきことだった。

 小泉六一中将と米内光政少将は連れだって、皇帝溥儀を出迎え、一しきり歓迎した。


「この後、どうされるおつもりですか」

 歓迎の宴が終わった後、皇帝溥儀とその家族を休ませ、小泉中将と米内少将は、皇帝溥儀の側近の鄭孝胥やレジナルド・ジョンストンらと、今後の皇帝溥儀の身の振り方について話し合っていた。

「天津の日本の租界に皇帝溥儀陛下とその家族が住むという訳には行きませんか」

 鄭はそのように提案したが、小泉中将や米内少将は渋面を浮かべた。


「申し上げにくいのですが、今回の北京からの脱出の際に、思い切り馮将軍や中国国民党を我々は挑発しています。馮将軍や中国国民党が何とか自重しても、末端まで自重するとは限りません」

 米内少将は口ごもりながら述べ、小泉中将はその言葉に更に付け加えた。

「海兵隊も中国情勢が落ち着いたと見極めがついたら撤退する予定です。そうなると本来の支那駐屯軍だけで、皇帝溥儀を守ることになります。しかも、我々本来の任務である在留邦人保護という任務がある。皇帝溥儀の警護が万全にできるか、と言われると」

 小泉中将はそこで言葉を切ったが、言わんとすることは鄭やジョンストン等に伝わった。

 鄭とジョンストンは顔を見合わせた。


「一つ、提案があります。皇帝溥儀を日本に亡命させてはいかがでしょう」

 米内少将は、鄭とジョンストンに提案した。

 皇帝溥儀が天津に到着する以前、米内少将は、鈴木貫太郎海兵本部長らに、皇帝溥儀を日本に亡命させることを提議していた。

 天津に派遣される直前、鈴木海兵本部長と米内少将が話し合う中で、皇帝溥儀を日本に亡命させるのも一案だという考えが出て、その後、その考えを折に触れ、煮詰めたのである。


 皇帝溥儀が天津の日本租界に残っては、この後、中国国内に与える政治的影響が大きく、日本としても完全に保護するとなるとそれなりの覚悟がいる。

 かといって、天津の日本租界以外で中国国内に、皇帝溥儀の安住の地があるか、というと誰にも見当もつかないというのが実情だった。

 皇帝溥儀が日本に亡命すれば、祖国、中国を見捨てたということで、皇帝溥儀の政治的影響力の低下は避けられないが、少なくとも皇帝溥儀を日本の力で万全の警備体制を敷いて守ることができる。

 この際、皇帝溥儀の命を護ることを最優先に考えるべきと鈴木海兵本部長と米内少将の考えが一致し、鈴木海兵本部長の説得により、財部彪海相や宇垣一成陸相らも、その考えに同意したのである。

 鄭とジョンストンは考え込んだ。

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