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第2章ー2

 パリに集った日本の外交団には、今回、独との講和条約に際して、3つの目的があった。

 まず第一に、青島など山東省の独租借地等を日本に帰属させることであった。

 第二に、独領南洋諸島を日本に帰属させることであった。

 第三に、人種差別撤廃問題の処理だった。

 他に独からの賠償金の獲得もあったが、これは他の国と協調して行おうと考えられていた。

 

 第一の問題は、前述のように中華民国代表団がごねまくっていたが、英仏米伊全ての大国が日本に味方しており、何とかなる様相を示しつつあった。

「どっちにしても中華民国に返すことにしているのだから、そこまでごねなくてもいいのにな」

 林忠崇元帥は、床の間の置物として自らが扱われる現状に皮肉を覚えつつ、独白した。

 そもそも、日本は対独参戦時に、山東半島については中華民国に返すことにしている。

 参戦の代償として、独の資産や鉄道敷設権を日本が獲得するのは当然だが、山東半島自体については中華民国に返すのは決まっているのだ。

 だが、日本の国民感情と言う厄介なものがある。

 まずは、独から日本が譲り受け、日本は大国の風格を持って、日本に中国に恩恵として山東半島は還付する、という態度を示さないと、世界大戦で大量の血を流した日本の国民が納得しまい。

 中華民国の代表団が主張するように、独から中国に直接返しますでは、日本の面子が保てないのだ。

 だが、中国の国民が、日本のこの行動に納得しないのが皮肉だった。

「我々も参戦し、独と戦ったのだ。それなのに、中国本来の領土である山東半島の直接還付を受けられない等、国辱極まりない話ではないか」

 中国の国内では、そう主張する者が増大しているらしい。

 林元帥に言わせれば、参戦したと言っても中国国民は血を流してはいないのに何を言っているのだ、としか思えない話だった。


 第二の問題については、米国の議会や新聞が理想主義的な傾向を示すことから、国際連盟の委任を受けて日本が旧独領南洋諸島を統治するという形で話がまとまりそうだった。

 日本としては、実質的な統治権が得られるのならば問題が無い。

 ただ、その内のヤップ島については、グアム等の海底電線の中継基地があることから、米国政府としては何らかの保障を求めていた。

 それについては、ヤップ島に米国人の出入国の自由を認め、海底電線の管理への参加を認めるという案を日本から打診しており、日米関係が基本的に良好なことから米国も受け入れの意向で話が進んでいた。


 第三の問題が、一番厄介だった。

 そもそもの発端が、日本人の米国への移民問題だった。

 日露戦争以前からくすぶってはいたが、日露戦争後、満鉄を日米が共同経営したことと日本が移民制限の紳士協定を打ち出したことにより一時的に表面上は収まっていた。

 だが、皮肉にも第一次世界大戦の西部戦線で、日本が奮戦したことが、米国内の下層市民層に黄禍論を再燃させ、民衆レベルでの排日運動を多発させた。

 そういったことから、この国際会議の場で、人種差別撤廃を日本は訴えようとしていたのである。

「幸か不幸か、国際連盟を結成しようという動きがある。この中で何とかならないだろうか」

 実質的には日本の代表の地位を占めている牧野元外相は、林元帥と話をしたが、林元帥は悲観的だった。

「前文の中に入れられればいいですが、それもかなり難しいと思います。何しろ、米国でさえ、日本人どころか、アジア系、黒人まで民衆レベルで差別しているのは公知の事実ですからね。英国内もかなり難しそうだ」

「全くその通りだが」

 牧野外相は肯いた後で、更に言葉をつないだ。

「しかし、この国際会議の場で訴えるだけでも効果があると私は思う」

「確かに」

 林元帥も肯いた。

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