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第8章ー8

 芳沢謙吉駐北京公使が、とりあえず天津にいる小泉六一中将や米内光政少将に連絡を取ったのは、基本的に情報提供のためだった。

 幾ら何でも芳沢公使には、軍部を動かす権限は全く無い。

 だが、「北京政変」という非常時である。

 現地情勢が急変しかねない以上、外交官として、現地の軍人の情勢把握を支援する必要があった。

 また、日本本国に対して、皇帝溥儀の保護に動くべきか、どうかの指示を仰いだ。

 芳沢公使からの連絡に、東京でも、天津でも大騒動になった。


 天津では、小泉中将が臍を噛んでいた。

「しまった。まさか、孫文率いる中国国民党と馮玉祥将軍が手を組むとは。旧安徽派と馮玉祥将軍が手を組むことは読んでいたが、日米を敵視している中国国民党が北京政府に入ることまでは読んでいなかった」

 小泉中将は、秘密工作に携わっていた何人かの部下を集めた席で半分ぼやいた。

 かといって、今更、馮将軍に対して行った現地の陸海軍の秘密工作を明かすことはできない。

 下手に秘密工作を明かしてしまうと、現地の陸海軍が馮将軍を介して中国国民党に味方したように日本の世論に見られかねない。

 そんなことになったら、日本の世論は、何で日本の敵の中国国民党に現地の陸海軍は味方したのだと激昂してしまうだろう。

 小泉中将は、とりあえず馮将軍に対する秘密工作を闇の中に葬ることに決めていた。

「それにしても、馮将軍は何故、中国国民党と手を組むことを決めたのだ?誰か推測できる者はいないか」

 小泉中将は、何人かの部下に問いかけた。


 その内の1人が全くの憶測ですが、と断ったうえで述べだした。

「馮将軍が単に奉天派に寝返っただけでは、奉天派の勝利の立役者にはなれますが、その後に不安があります。馮将軍は奉天派にとっては全くの外様ですから。狡兎死して走狗烹らる、の危険があります。ですから、段祺瑞率いる旧安徽派や孫文率いる中国国民党と馮将軍は手を組むことで、その危険を避けようとしたのでしょう」

「なるほどな。汚いが効果的な手だ」

 小泉中将は更に歯ぎしりするような思いに駆られた。

 その時、外で警備に当たらせていた部下が駆け付けてきて、小泉中将に報告した。

「米内少将が、今後の事について相談したいとお見えです」

「何だと」

 小泉中将は、慌てて米内少将との面会に向かった。


「全く、この度の「北京政変」は予想外の事でしたが、今後どうなるとお考えでしょうか。また、皇帝溥儀とその家族や側近が、日本の保護を求めているとか。最終的な判断は、当然、東京からの指示に従わねばなりませんが、現地の意見を東京から求められた際に備えて、陸軍と海兵隊の意見のすり合わせをしておきたいと思いまして、お伺いいたしました」

 米内少将は、丁寧に小泉中将に自らの訪問の意図を説明した。

「これは、ご丁寧に」

 小泉中将は、型通りの挨拶をした後、自分の考えを述べた。


「奉天派と旧安徽派、中国国民党、馮将軍の大連立政府が北京に誕生するでしょうな。ですが、船頭が多すぎます。中々まとまらず、内輪もめが起きるのではないでしょうか。それよりも皇帝溥儀を保護すべきかどうか、本当に悩ましい所です」

「ふむ。ところで、馮将軍と小泉中将が秘密連絡を取っていたという噂を聞きましたが事実ですか」

 米内少将は、さらっと機密情報をさらけ出した。

「何を馬鹿な」

 小泉中将は笑い飛ばしたが、背中に汗がにじむ気がした。


 米内少将は思った。

 何となく、カマを掛けただけなのに、本当だったようだな。

 小泉中将が笑い飛ばすところが、どうにも怪しい。

 どうやって、この「北京政変」の後始末をつけるべきか、いや、つけることになるかだな。

 米内少将は、小泉中将の顔を見ながら、考えを巡らせた。

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