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第8章ー4

 天津へ海兵隊を派遣する旨の閣議決定を受けて、海兵本部では、海兵隊のトップの2人、鈴木貫太郎海兵本部長と土方勇志軍令部次長が話し合っていた。


「財部彪海相は、佐世保を出せ、と言っているわけですか」

 土方軍令部次長は渋い顔をしながら言った。

「ああ」

 鈴木海兵本部長も同様の顔をしながら、言葉をつないだ。

「確かに佐世保が一番近いと言えば近い。すぐに天津へ向けるのには相当だ」

「しかし、名前が強すぎませんかね。佐世保は、海兵隊の中でも最精鋭の令名が高い部隊ではありますが」

 土方軍令部次長は言葉を濁した。

「確かにな」

 鈴木海兵本部長は、古巣でもある佐世保海兵隊の事を想った。


 佐世保海兵隊、有事の際に最大動員されたら第3海兵師団に改編されるこの部隊は、源流を西南戦争の際に編制された第3海兵大隊とする部隊である。

「新選組」という異名を持ち、土方歳三や斎藤一が実際に部隊の長を務めたことがある等、実際の新選組との縁も深い。

 ちなみに第一次世界大戦のヴェルダン要塞攻防戦の際に第3海兵師団は勇戦敢闘し、ドイツ皇太子から

「我が国の近衛師団よりも、日本の海兵師団が増援としてほしい」

 と嘆かせ、それをドイツ皇太子から逆感状を賜ったとして直接の誇りにした部隊でもある。

 だが、その一方で、中国や朝鮮の民衆に与える印象も最も強い部隊でもあった。


 日清戦争の際の東学党の乱の鎮圧、義和団事件の際の奮闘、と佐世保海兵隊は、容赦のない戦いぶりでその名を轟かせた。

 実際には降った敵に対しては治療を施す等、そんなに残虐なことはしていないのだが、東学党の乱の鎮圧からその後の朝鮮の治安維持、義和団事件からその後の北京での治安維持等の任務に当たった際、その異名も相まって、強権極まりない治安維持に当たったという誤ったイメージが中国や朝鮮の民衆に植え付けられていた。

 土方軍令部次長や鈴木海兵本部長は、そういったことから佐世保海兵隊を単独で派兵するリスクを慮ったのである。


「見せ金と割り切り、戦車や砲兵はつけずに、海兵連隊単独で派遣しますか」

 土方軍令部次長は、散々悩んだ末に、鈴木海兵本部長に提案した。

「見せ金か」

 鈴木海兵本部長は考え込んだ。

「ええ。わざわざ、財部海相が佐世保を至急、送るべきだと言っているのに、佐世保以外の横須賀等を送るのも、財部海相へのあてつけに思われます。それに、佐世保も面子を潰されたと思うでしょう」

 土方軍令部次長の言葉に、鈴木海兵本部長は肯いた。

「だから、佐世保を送るのは止むを得ませんが、戦車や砲兵を付けず、軽装備の海兵連隊だけで天津に送り込みます。あくまでも、不測の事態に備えて在留邦人の保護等のために派兵したということにするのです」

 土方軍令部次長は、言葉をつないだ。

「確かに、戦車や砲兵までも連れて行っては、どう見ても本格的な軍事介入の準備に見られるな」

 鈴木海兵本部長は、自分で自分の言葉に肯いたが、疑問も呈した。

「しかし、現地に赴く海兵隊員が不安に思わないか」

「それくらいは、止むを得ないと割り切りましょう。それに戦車や砲兵を連れて行っては、兵站が大変なことになります」

 土方軍令部次長は、そう言いながら、内心で思った。


 息子の土方歳一は、佐世保の海兵連隊の海兵中隊長だ。

 佐世保以外の部隊を選んでは、息子可愛さから佐世保を送らなかったと思われかねない。


 鈴木海兵本部長は、土方軍令部次長の内心に気づかないまま、少し考えた後で言った。

「よし、佐世保から海兵連隊のみを天津に派遣するように財部海相に進言しよう。その準備に取り掛かってくれ。また、米内光政少将を天津への派遣部隊の長にしよう」

「分かりました」

 土方軍令部次長は答えた。

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