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第2章ー1 ヴェルサイユ条約

第2章の始まりです

 世界大戦終結に伴い、独との講和条約について協議するために、パリに各国の外交団が集った。

 日本からは、当初は珍田捨巳駐英大使と松井慶四郎駐仏大使が1919年1月13日の非公式会議に参加することで、自国の権益を主張していたが、1月20日に牧野伸顕元外相が代表団次席として、日本から到着したことから、牧野元外相が主に実務を取り仕切り、各国との折衝に当たった。

 ちなみに代表団首席の西園寺公望元首相が、近衛文麿等を連れてパリに到着したのは3月2日であり、それまでに各国との折衝は、牧野元外相の下でそれなりに行われていた。


「何で私が外交団の一員として呼ばれたのです」

 1月21日、林忠崇元帥は、牧野元外相に問いただしていた。

 林元帥は、不機嫌そうな顔を隠そうともしなかった。

 戦争が終わり、日本に速やかに還ろう、勿論、部下達が全員、帰国の途についた後で、と自分が考えていたところに、牧野元外相から代表団に加わるようにとの声が掛かったのである。

 生粋の軍人である自分が、何で外交官の真似をしなければならないのか、林元帥はどうにも疑問を覚えざるを得ず、断ろうとしたが、山本元首相の書簡まで示されては、どうにもならなかった。

「西園寺元首相の仏語は覚束ないし、英語もダメになられている。それで、西園寺首席の通訳のために君を呼んだ」

 牧野元外相の一言に、さしもの林元帥もさらに微妙な表情を浮かべながら言った。

「確かに、私は4年にわたる欧州生活で英仏語共に堪能な身ですがね。元帥を通訳として呼びますか」

「というのは冗談で、代表首次席の参加する会議に、一般人の通訳が参加できないのは本当なのだが、君がいると各国との折衝を進めやすいのだ。何しろ、あの国がうるさくてな」

「そう言う事情ですか。血を流していないのにあの国は」

 林元帥は、思わず鼻を鳴らすような表情に更に変えながら言った。

「君がいると、英仏米伊、皆、日本の主張は最もだ、と言ってくれるし、小国群も日本の主張を受け入れやすい。あの国に、皆、振り回されたくないのだ」

 牧野元外相は、林元帥に頭を下げながら言った。


「我が国は独に宣戦布告した連合国の一員であります。そして、独が我が国と結んだ全ての条約は今や無効になりました。山東半島を始めとする独の全ての利権は我が国に帰属するのが当然であります」

 中華民国代表団は顧維鈞団長以下、懸命に各国代表団に訴えて回っていた。

 実際、中華民国の主張は、国際法上の根拠もあるので、完全に無視もできなかった。

 だが、英仏米伊の大国も、小国群も中華民国の主張を聞き流す一方だった。


「ガリポリに日本の軍旗はありましたが、中国の軍旗は見ませんでしたな」

 英国の外交官の1人はこういった。

「ヴェルダン要塞に、中国の軍旗は翻っていましたかな」

 仏国の外交官は問い返した。

「カポレット=チロルで日本軍に助けられたもので。中国軍はおられませんでしたな」

 伊国の外交官は皮肉な顔で言った。


 英仏伊はどうにもならない、と見た中華民国代表団は、米に的を絞ったが、米は満州利権を日本と分け取りしており、山東半島問題でも日本に味方したのを彼らは忘れていた。


 米国のウィルソン大統領は、顧代表団長に自ら面会してくれたが、開口一番に言った。

「山東半島で、米国の利権を日本と全く同様に認めるのなら構いません」

 顧代表団長は、その一言を聞いた瞬間に、席を立った。

 我が国は孤立無援だ、大国は全て日本に味方している。


 顧代表団長は、小国群に外交工作を試みたが、どの国も日本は血を流したのに、中国は血を流さずに何を言う、と言わんばかりの態度を執った。

 顧代表団長の腸は煮えくり返ったが、どうにもならなかった。 

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