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第7章ー9

 こうして、軍用機の開発、製造については、官民一体となって日本は努力したが、人材面の育成、確保に関しては、そううまく行くものではなかった。

 特にこの時代は軍縮の時代である。

 後世から見ると、笑い話に近い実話が転がりまくる。


「私は仙台便ですが、大尉、今日は大阪便ですか」

「わしを大尉と呼ぶな」

 ある日、立川飛行場の一角で、寺岡謹平予備役空軍大尉は、不機嫌そうに部下に返答した。

「嫌味を言われたように聞こえてかなわん」

「いいじゃないですか。皆、予備役の軍人ばかりなのですから」

 部下は平然としている。

 実際にその場に居るのは整備員も含めて、予備役の軍人ばかりだった。


 1920年に逓信省が、日本国内や韓国や満州との郵便物を航空機でも扱うことを検討したのが、そもそもの発端だった。

 設立されたばかりの空軍は、それを聞くとその航空郵便で必要な航空機関係の人員を、全て空軍の予備役軍人で賄うことを逓信省に提案し、逓信省はそれに同意した。

 これによって、事実上、航空便の取り扱いは、空軍が請け負うことになったのだ。

 逓信省は、新たに航空便を取り扱う人員養成の手間を省けるし、機材は空軍からもらえる。

 空軍はその間の人員や機材確保にかかる経費を、逓信省に任せることで削減できる。

 お互いの利益は、見事に一致した。


 かくして、逓信省は航空便を取り扱うことになり、そのサービスが始まった。

 だが、民間でそんな高いサービスが必要な需要は限られている。

 航空便保護のために政府関係はできる限り、航空便を利用することになった。

 そのために、一部の新聞から税金の無駄遣いではないか、と叩かれたが、政府関係の郵便が、航空便の多くを占めるという事態が起きるのは当然のことだった。

 実際、今日も今日とて、大阪向けの航空便の荷物は、半分も埋まってはいなかった。


「航空機の操縦、整備を実際に行うことが出来るのだから、余り大きな文句は言えんにしても」

 寺岡大尉は、ため息を吐かざるを得なかった。

「何で、郵便配達の仕事を事実上、空軍が請け負う羽目になるのだ。全く」

「そりゃ、日本が貧乏だから仕方ないですよ。米国でさえ、金が無いので、表立って陸軍航空隊が郵便配達を請け負う時代ですよ。日本の場合は、米国よりも貧乏だから、もっと仕方ない」

 寺岡大尉を、大尉と呼んだ部下は、諧謔に満ちた声を上げた。

「だから、空軍の看板を隠して、逓信省の看板を掛けて、郵便配達の仕事をするという訳か」

 部下の返答を聞いた寺岡大尉は、鼻でも鳴らしそうな声を上げた。

「そういうことです。大尉」

「いい加減にしろ。青木喬中尉」

 とうとう、寺岡大尉は部下を叱責した。


「さっさと青木は、仙台に飛んで行け。全く」

 寺岡大尉はぶつぶつ言った。

「そうは言われても、今日は寺岡さんが先に飛ぶことになっています」

 さっきからの2人の会話に口を挟めなかった整備員が、半分おそるおそる寺岡大尉に声を掛けた。

「何だと」

「いえ、寺岡さんが、今日は先に飛ぶことになっていますので。仙台空港近辺は、雨が降っているので、出発を暫く待て、ということになっています」

「それを早く言え」

 寺岡大尉は、積荷の郵便物の確認を行うと、大阪空港を目指して飛び立った。


「さてと、それじゃ、仙台に飛ぶかな。天候は晴れたのか」

「晴れたそうですが、今から飛ぶと、夜間着陸になりますね」

 寺岡大尉を見送った後、青木中尉は天候回復との連絡を受け、仙台へ飛ぼうとしたが、夜間着陸と言う事態になった。

「仕方ないか。仙台空港に今から飛ぶ旨、連絡しておいてくれ」

「了解しました」

 青木中尉は、仙台へ向けて飛び立った。


 こんな日常を逓信省職員として、予備役空軍軍人の一部は送っていた。

 大嘘と思われそうですが、米陸軍航空隊と航空郵便の逸話は史実に準じています。

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