第7章ー3
吉良俊一大尉は、三菱重工の航空機部門にいるジョルダン元英海軍大尉を訪ねて、空母着艦についての教えを乞うことにした。
吉良大尉は、三菱重工の担当部局と連絡を取り、ジョルダン大尉に教えを乞う日取りを決めて、約束の日にジョルダン大尉を訪問した。
吉良大尉にジョルダン大尉の姿が目に入るか、入らないかの瞬間、ジョルダン大尉が慌てて立ち上がり、敬礼する姿が、吉良大尉の目に入った。
はて、ジョルダン大尉とは初対面の筈だが、と吉良大尉は疑問を覚えたが、ジョルダン大尉の言葉に疑問は氷解した。
「あのレッドバロンことリヒトホーフェン大尉と空中戦を行い、見事に撃墜を果たされた日本の撃墜王に、空母着艦についての教えを乞われるとは、光栄の極みであります」
そういうことか、吉良大尉は、ジョルダン大尉に答礼しながら、内心で苦笑した。
あの撃墜は、私自身、自分の戦果か、疑問があるのだがな。
一しきり、ジョルダン大尉にせがまれたことから、リヒトホーフェン大尉との空中戦の際の話を吉良大尉はした後で、あらためて、ジョルダン大尉に空母着艦についての質問を行った。
「私の教え等、吉良大尉には不要では」
ジョルダン大尉は、そう吉良大尉に言って恐縮したが、吉良大尉は言った。
「聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥という言葉が、私の国にはあります。どうか、私に空母着艦の極意を教えてください」
ジョルダン大尉が答えやすいようにと、英語で行った吉良大尉の微に入り細に入った質問に対して、ジョルダン大尉は丁寧に答えた。
吉良大尉が、ジョルダン大尉の答えに満足して、お礼を述べた後、ジョルダン大尉は本音を述べた。
「本当を言うと、私は「鳳翔」に着艦しろと言われても不安を覚えてしまいます。艦上機による空母への着艦は、先程言ったように、飛行機が制御された墜落を行うようなものです。「鳳翔」の大きさでは」
そこで、ジョルダン大尉は言葉を切ったが、話の経緯から、吉良大尉には、その続きが分かった。
「それくらい「鳳翔」の大きさでは、着艦が難しいことなのですか」
「ええ」
吉良大尉の問いかけに、ジョルダン大尉は言った後で続けた。
「私自身、テストパイロットを務めていますから、10式艦上戦闘機や10式艦上攻撃機で「鳳翔」に着艦できないことは無いと思います。ですが、本当に難しいと思ってください。私としては、1万円の報奨金がもらえないと「鳳翔」への初着艦はやりたくない」
吉良大尉は、その言葉を噛みしめて、「鳳翔」のいる横須賀に戻った。
横須賀飛行場の滑走路の上に、「鳳翔」の飛行甲板の大きさに合わせた長さと幅の白墨の線を引き、その中に着陸できるように、吉良大尉は何度も訓練を積み重ね、ようやく自信がついたことから、「鳳翔」の艦長、豊島二郎大佐に、吉良大尉は、「鳳翔」での初着艦試験を行いたい旨を報告した。
「よし、見事にやって見せろ」
豊島大佐は、そう吉良大尉を激励すると共に、軍令部に「鳳翔」で初着艦試験を行う旨を上申した。
軍令部は、吉良大尉にとっては迷惑なことをした。
海軍内に止まらず、空軍本部や参謀本部にまで、「鳳翔」で初着艦試験が行われる旨を伝えたのだ。
海軍としては、今後の艦上機の開発、生産については海軍に任せられたい旨を、空軍にアピールする絶好の機会だったからだ。
当然、元海軍航空隊所属の空軍の軍人にまで、吉良大尉が「鳳翔」で初着艦試験が行うことが伝わった。
「何だと。是非とも見に行かねば」
その日、いろいろと口実をこしらえて、山本五十六中佐以下、ぞろぞろと元海軍航空隊所属の空軍軍人は、「鳳翔」に向かうことになった。
その中には、大西瀧治郎大尉や草鹿龍之介大尉の姿もあった。
ジョルダン大尉の態度が史実と違い過ぎだ、と言われそうですが。
この世界では、吉良大尉はレッドバロンことリヒトホーフェン大尉を含む60機以上を空中戦で撃墜した世界でも指折りの撃墜王に(表向きは)なっていますので。
史実と違う態度も当然と思うのですが、おかしいでしょうか。
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