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第1章ー2

「新日本空軍創設の人事異動は順調にまとまりつつあるか」

 秋山好古大将の問いかけに、福田雅太郎中将は複雑な表情を浮かべながら答えた。

「正直に言って大変ですよ。欧州帰りの面々はともかく、日本にいた将官、佐官クラスは空軍そのものを理解していない。幾ら尉官、下士官クラスは実戦経験豊富でも上が知らないのでは大変です」

「だろうな」

 秋山大将は、福田中将の苦労を思いやった。


 福田中将が空軍本部長になるのは順当と言ってよかった。

 海軍からは欧州で海軍航空隊総司令官を務めた山下源太郎大将を空軍の軍人として異動させてもいい、という内々の話があったが、田中義一陸相と組んで秋山大将は丁重にお断りした。

 山下大将が海軍から派遣されては、大将である以上、空軍本部長に陸軍も就けざるを得ない。

 そうなっては、陸軍傘下にある空軍のトップが海軍によって占められることになる。

 幾ら陸海軍共闘の建前があるとはいえ、陸軍にも組織の論理がある以上、陸軍としては山下大将をお断りせざるを得なかった。


 そうなると福田中将が空軍本部長になるのは順当だったが、今度は参謀本部次長(空軍担当)になる適当な中将がいないという事態になった。

 井上幾太郎少将を抜擢するという案もあったが、海軍が伏見宮博恭中将を山下大将の代わりに空軍に異動させると言ってきたことから、更に陸軍首脳部は頭を痛めることになった。

 秋山大将は、その時の秘密会談を思い起こした。


「伏見宮博恭中将とは難しい人を海軍は異動してくれるものだ」

 田中陸相は、秋山参謀総長にこぼした。

「伏見宮貞愛元帥陸軍大将の息子ですからね。しかも、伏見宮家の跡取りでもある。既に山下大将をお断りしている以上、更に伏見宮中将までお断りと言うのは、陸軍としては言いづらい」

 秋山参謀総長も田中陸相に同意した。

「宮様にもかかわらず潮気溢れる海軍軍人とのことだ。艦隊を降りて、空軍に異動してくるのはやはり」

 田中陸相は、上目づかいに秋山参謀総長を見ながら、そこで言葉を切った。

 秋山参謀総長はその後を引き取った。

「海軍から空軍に異動してくる軍人をそれ相応に処遇しろ、という圧力だな」

 田中陸相より秋山参謀総長の方が、5歳年長であり士官学校の卒業期でも5期先輩になるが、長州閥の秘蔵っ子であり、軍政面に詳しい田中陸相は、秋山参謀総長と対等の口をきいていた。

 秋山参謀総長もそれを受け入れていた。

 参謀総長は陸相の下にあるべきだというのが、2人の一致した考えだったからだ。


「ともかく、伏見宮中将は、空軍本部次長の地位を用意して、それで納得いただくしかないだろう。航空隊の経験が全くないのに、海軍から異動されてすぐに参謀本部次長(空軍担当)というわけにはいかない」

 田中陸相は、人事構想を固めた。

「私がそれなりに空軍の事は分かるから、井上少将を参謀本部第5部長(空軍担当)に任命していただけるならば、空軍の素人でも構わんか」

 秋山参謀総長は、半分独り言を言った。

「となると誰がいいかな」

 田中陸相と秋山参謀総長は、考えに沈んだ。


「性質の悪い冗談でしょう」

 菊池慎之助中将は、田中陸相に呼び出されて、参謀本部次長(空軍担当)の内示を受けると思わず、口に出して言ってしまった。

「冗談ではない。ここに辞令を準備してある」

 田中陸相は、菊池中将に辞令を示した。

「はっきり言って、今、ずっと日本に居て航空隊の事が分かっている者は誰もいないと言っていい。欧州帰りの新知識を活用して、航空隊拡充に努めねばならない。菊池中将の奮闘を期待する」

 田中陸相は紋切り型の挨拶をした。

「分かりました」

 菊池中将は不承不承、辞令を受け取り、秋山参謀総長はそれを見届けた。

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