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第6章ー4

 また、1921年秋現在の中国情勢の混乱も深刻なものがあった。

 

 1919年の五四運動以降も、北京では段祺瑞をトップとする安徽派が政権を掌握していたが、そのことは曹錕率いる直隷派と張作霖率いる奉天派の反発を招いていた。

 袁世凱から後継指名を受けたこともあり、安徽派が正統政府の主張をしていたのに対し、自国の権益を守ろうとした英米両政府により、直隷派は英国政府の、奉天派は米国政府の秘密裏の支援を受けていた。


 ちなみに、この当時の原敬首相率いる日本政府は表向きは中立を保っている。

 第一次世界大戦の欧州派兵により疲弊し、世論が内向きになっていた日本政府にしてみれば、五四運動により排日運動が高まっていた中国国内の軍閥勢力のどれかを支援することは、排日運動を高める逆効果を生むのではないか、という懸念を拭えなかったのである。

 なお、孫文率いる中国国民党は日米の南満州鉄道を始めとする中国利権完全放棄を党是としており、そんな中国国民党を、日本国内の世論の猛反発を考えれば、日本政府が支援することは不可能だった。

 だが、尼港事件で日本人虐殺に加担した中国軍が安徽派系の軍人だったことから、安徽派に対して非好意的中立の態度を、尼港事件後に日本政府は執ることを決めた。


 1920年7月、英米両政府の仲介により、直隷派と奉天派は連合して、安徽派に対する総攻撃を敢行、数日の内に安徽派を崩壊させて、北京で連合政権を樹立する。

 そして、このことが、中国政府に関する尼港事件の解決を日本にもたらすことになる。

 英米両政府の仲介と圧力により、新しく樹立された連合政権は、日本に対する謝罪と賠償を決断したからである。


 だが、そのまま安定した連合政権を築くには、直隷派も奉天派も権力独占欲が共に強過ぎた。

 1921年秋、北京では連合政権内の直隷派と奉天派は事実上、お互いに敵視を強め始めていた。

 そして、この状況に呆れ果てたことから、英国政府は直隷派に、米国政府は奉天派にそろそろ愛想を尽かせつつあった。

(もっとも、米国政府は日米共同経営の南満州鉄道等の問題から、この頃、奉天派を完全に切ることは不可能だった。)


 そして、この頃、孫文率いる中国国民党は上海に本拠を置いて仮政府を築くと共に、ソ連との共闘を模索していた。

 その一方で、アジア民族の連帯を訴えることにより、日本国内の民間人との連携を、中国国民党は模索もしている。

 孫文にしてみれば、中国の漢民族独立の為なら、手を組める者は誰とでも手を組むという姿勢だった。


 また、1921年7月には、陳独秀らによって、上海で中国共産党第一次全国代表大会が開かれ、中国共産党の結党が宣言されてもいる(ちなみに陳独秀自身は不参加だったが。)。

 これに対し、中国国民党は、直ちに民族主義的立場から猛反発したが、ソ連との関係もあり、色々とどのような関係を中国共産党と結ぶのが妥当か、検討することになる。


 そして、こういった混迷に満ちた中国に対し、ワシントン会議には政治的正当性から、北京政府に対し、米国から代表団が招かれているが、直隷派からも奉天派からも代表団をワシントンに送り込もうとしているという現状があった。

 一応、北京政府で外交を握っているのは、直隷派なのだが、奉天派も米国とのつながりから、独自の外交団をワシントンに送り込もうとしており、米国政府も表向きは困惑しつつも、内心では歓迎しているという複雑な状況があった。


 こういった複雑怪奇ともいえる中国情勢への対処を、原首相率いる当時の日本政府は行わねばならず、ワシントン会議で何らかの有効な解決策を講ぜざるを得ない状況に半分追い込まれ、苦悩を高めつつあったのである。

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