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第6章ー3

 史実と異なり、日本はシベリア出兵を行いませんでしたが、韓国がシベリア出兵を行いました。

 そのために尼港事件は史実と異なる結果をもたらします。

「中々良い提案ではないでしょうか」

 山梨半造陸相が、内田康哉外相の話に賛成の声を上げた。

「私は英国の提案に乗るべきだと考えます。中国をはじめとする大陸情勢は日本単独で対応するのは極めて困難だ」

 山梨陸相は、周囲に英国案に乗るように勧めた。

 加藤友三郎海相以下、閣僚の多くも山梨陸相の言葉に肯いた。


 さて、第一次世界大戦後、1921年秋現在の中国をはじめとする東アジア情勢だが、辛亥革命以来の混沌とした状況が完全には収まっていなかった。


 まず、シベリア等の北東アジア情勢だが、1918年から始まった韓国軍を主力とするシベリア出兵は、1919年末の反革命側のコルチャーク政権の崩壊等により混迷を極めだした。

 そのために、1920年1月には、まず米国がシベリアからの撤兵を表明した。

 それに続けて、韓国以外の英仏等もシベリアからの撤兵を決断した。

 韓国だけはせめてウラジオストック周辺を自国領なり、傀儡政権の領土なりにできないものか、と策謀を巡らせて、自国のシベリア出兵を続けようとしたが、そのことから、1920年春に起きたソ連軍と中国軍による尼港事件のために韓国人に加え、多くの日本人がその巻き添えを食って虐殺されるということが起きてしまう。

(当時、尼港には韓国軍1個中隊が保護のために展開しており、同盟国である韓国軍に日本政府からも在留日本人への保護を依頼していたことから、ソ連軍や中国軍は、日本の民間人にも攻撃を加えた。)


 そのことが、日本政府の激怒を招き、日本も報復のための派兵を検討するが、既に韓国のみがシベリアに派兵しているという状況や現地が流氷によって閉ざされているために、現実的には日本軍の派兵は不可能と言う状況から、中ソ両政府に対しては、日本は外交的交渉を選択せざるを得なかった。

 また、韓国政府に対しても、一刻も早くシベリアから撤兵するようにとの猛烈な圧力が(中ソ両政府との交渉の手段として)日本政府から掛けられるに及んで、韓国政府も渋々、シベリアからの撤兵を決断したことにより、1920年中にシベリアから韓国軍は完全撤兵した。

(なお、最終的に尼港事件で巻き添えを食った日本人犠牲者に対しては、日本政府の働き掛けにより、ソ連政府や中華民国政府それぞれから、日本人遺族に対する謝罪声明が出されると共に少額ではあったが弔慰金が正式に支払われている。さすがに完全に中立の姿勢を示し、シベリアに派兵をしていなかった日本人に対する虐殺行為は、中ソ両政府共に弁解できなかった。)


 こうして、シベリア出兵問題は完全に清算されたが、日本政府にとっては、尼港事件はいろいろな意味で痛手となった。

 まず、陸海軍部にとっては、流氷で閉ざされた土地への派兵能力が無いという現実を突きつけられる羽目になり、その対策として砕氷艦「大泊」が建造され、海軍に保有される端緒となった。

 また、田中義一陸相にとっても、尼港事件は、陸軍の軍縮を伴う改革に不満を募らせていた守旧派からの(難癖ともいえる)集中砲火のきっかけとなり、結果的に田中陸相は、山梨半造陸軍次官に陸相の地位を譲り、軍事参議官に退く羽目になった(そのために、第一次世界大戦直後のこの時期に行われた軍縮に伴う陸軍改革については、実際に計画した田中陸相の名を冠せずに、計画に従い実施した山梨陸相の名を冠して、山梨軍縮と呼ぶことが通常化している。)。

 原敬内閣にとっても、真相解明が1920年5月の総選挙の後だったために、総選挙を有利にしたという野党からの批判を浴びる羽目になった。

 更にこの後、日本政府がソ連や中国に対して、妥協的態度を執り辛くさせるという副産物まで起こしたのである。

 

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