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第6章ー2

 加藤友三郎海相の発言に肯いて、原敬首相は次の議題に移った。

「日英同盟存続について、内田外相の意見を伺いたい」

「正直に言って、悩んでいます。英国政府からは日英同盟存続を望む声が高いのですが」

 内田は、そこで言葉を濁した。

 周囲も内田の内心の苦悩を察した。


 今、日英同盟は危機にあった。

 理由は日本の国内世論と中国の世論とにある。

 日本は、世界大戦で欧州派兵を行った結果、7万人近い戦死ないし戦病死者を出していた。

 ちなみに日露戦争の戦死ないし戦病死者が9万人近かったことを考えると、そんなに劣らない死者を出したと言える。

 日英同盟の義理を果たすためとはいえ、そこまでの犠牲を欧州の地で払う必要があったのか、という疑問が世論に巻き起こるのは仕方なかった。

 もし、日英同盟が無ければ、日本は欧州に派兵せずに戦死者を出さずに済んだというのだ。

 更に中国世論も気がかりだった。


 中国国内では、ロシア崩壊にもかかわらず、日英が同盟を存続させるのは、中国への侵略の為だという世論が高まっていた。

 実はこれはあながち否定できない話でもあった。

 日英両政府は最近高まりつつある中国国内の反日、反英運動に対処するために秘密裏に日英同盟存続が必要であると考えていたからである。

 だが、日英同盟存続によって、ますます中国国内の反日、反英運動が高まるようでは却って困る。

 中国政府は、その世論に完全に煽られており、日英同盟廃棄を訴えている。


 一方、英国政府は日英同盟存続を内心ではかなり望んでいる。

 何しろ西部戦線で日本軍は勇名を馳せた。

 中国情勢は不穏であり、インドでもガンジーらが率いる国民会議の動きが急になっている。

 いざという際、日本の軍事力援助を望んでいたのである。

 本国政府に加え、豪州を筆頭にカナダや南アといった自治政府も日英同盟存続を希望している。


 微妙なのが米国政府だった。

 日英同盟は米国を敵視していないとはいえ、米国にとって何となしに居心地が悪い同盟である。

 中国世論が日英同盟廃棄を求めていることもあり、米国世論では日英同盟は廃棄されてもいいのではという声がそれなりにあった。

 また、日英同盟が中国民衆の反英、反日行動を煽っており、米国民がそれに巻き込まれることも実際に起こっていた。

 だが、日英に対し、同盟を廃棄しろと言うのは内政干渉であるという良識的な声もあることから、取りあえず日英の対応を見てと言う雰囲気がワシントンの米国政府では漂っている。


 そうした中で、英国政府から提示された日英米三国協定試案があった。

 内田外相は、この協定試案に賭けてはどうか、と考えていた。


「英国政府から次のような協定試案が出ております。

 第1項 この協定の目的は、太平洋地域の日英米の領土権等の擁護とする。

 第2項 それが第三国によって脅かされる場合は、日英米はそれを護るべき手段につき、相互に充分かつ

    隔意なく協議する。

 第3項 前項の場合、二国はそれ以外の国に通告することを条件に純粋に防衛的な同盟を締結できる。

 私としては、英国の協定試案に乗るべきだと考えております」

 内田外相は、自らの意見を披歴した。


 つまり、日英同盟を廃棄する代わりに、自らの権益が脅かされると判断された時は、いつでも日英米は積極的な協議を行うとともに、防衛同盟を他国に通告することにより、もう一方とも締結できるという協定試案だった。

 表向きは日英同盟を廃棄しつつ、もし中国等で自国の権益が侵害されたと日英米どこかの政府が判断すれば、他国に対して防衛同盟締結を訴えることができるという協定試案である。

 英国政府の老練さが垣間見える協定試案であり、これに乗れば、いざという際に日英防衛同盟を締結できる案だった。 

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