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第5章ー12

「どうかなさいましたか」

 秋山好古参謀総長は、金子直吉に声を掛けた。

「いや、さすがの私と言えど聞いたことが無い大きな話なもので考え込んでしまいました」

 金子は答えた。

「何か裏があるのではないかと」

「大ありだぞ」

 後藤新平が口を挟んだ。


「陸軍が国産車を買う大前提が、米国車並みの性能と値段の車を完全国産で量産と言うのだからな」

 この中では中立的立場の後藤が更に言うと、金子は腰を抜かした。

「無茶苦茶だ。日本の現状からすると夢物語だ」

 金子は呻いた。

 実際、この頃の日本の工業生産能力からすると、金子の反応は当然のものだった。

 何しろ、日本では、国産自動車の試作が細々と行なわれている段階なのだ。


「やはり、鈴木商店でも無理か」

 林が口を開いた。

「無理なものは無理です」

 金子は断言した。

「GMやフォードと鈴木商店が手を組んでも無理か?」

 秋山は更に言った。

「何と言われました」

 金子は問い返した。

「GMやフォードと鈴木商店が手を組んでも無理かと秋山参謀総長は言われたが」

 後藤が口を挟んだ。

「ふむ」

 金子は更に考え込んだ。


 暫く沈黙の時間が続いた。

 沈黙の時間を破ったのは、金子だった。

「よろしいでしょう。鈴木の社運を賭けてみましょう」

「有り難い」

 秋山は頭を下げた。

「但し、時間が掛かりますよ。最低10年は見ていただかないと」

 金子は念押しした。

「幾らGM等と手を組んでも、いろいろ生産設備から工員から育成の必要がありますから」

「それは覚悟している。日本が軍艦の国産化に幕府の頃からどれくらい掛かったか覚えているからな」

 林が口を開いた。

「その覚悟は忘れないでください」

 金子は念押しした。

「優秀な車を作ってくれ。そうすれば、鉄道省も買うからな」

 後藤は横から口を挟み、金子に約束した。

「軍部と鉄道省に期待されては敵いませんな」

 金子は笑いだした。

 皆も笑った。


 金子を支援するために、秋山参謀総長は軍部を動かし、原内閣を更に動かした。

 自動車の輸入に高関税を掛ける等により、国内自動車産業の保護を図ったのである。

 原内閣も、この動きに乗り、国内自動車産業の保護を図った。


 この後、金子は約束を守った。

 鈴木商店の人脈を駆使し、GMと合弁の上で、1921年に鈴木重工業自動車部を創設した。

 金子や軍部、原内閣の動きを見て、三菱も動いた。

 三菱はフォードと手を組んで合弁し、1922年に三菱重工業自動車部を創設した。

 共に当初は米国から車を輸入していたが、1923年に自動車工場を日本に揃って完成させた。

 それでも、生産当初の自動車部品は完全に米国製で、日本で組み立てだけを行う有様だったが、鈴木も三菱も共に徐々に部品の国産化を進めることに成功する。

 それに合わせ、日本独自の形式の車の試作生産も両社で競い合うように試みるようになった。

 1927年の金融恐慌で、鈴木重工は鈴木本体と共に破綻の危機に見舞われるが、何とかGMの支援も受けて切り抜けることに成功した。

 1931年、完全に日本の国産部品のみを使った国産車の量産化に、鈴木重工と三菱重工は、ほぼ同時に成功する。

 まだまだ、部品の安定製造等について問題を抱えており、完全米国製の輸入車に比べると格落ちで、GMやフォードから派遣されていた当時の米国人に言わせれば、やっと独自の日本版T型フォードを安定して作れるレベルに鈴木と三菱は達したか、と評されるレベルだったが、金子や秋山にしてみれば、本当に夢が実現した瞬間だった。

 このために、工作機械の大量購入から流れ作業の導入等々、様々な方策を鈴木重工や三菱重工は競い合うように講じたのだから。

 その成果は徐々に日本の他の産業界にも及び、総力戦の際に役立つことになった。 

 この世界では、鈴木自動車と三菱自動車が、トヨタと日産の役割を果たすことになります。

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