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第5章ー10

 産業改善策の目玉というか重点として、原敬内閣も軍部も取り上げたのは、重工業の一つ、自動車産業だった。

 もっとも、見事なまでの同床異夢状態で、原内閣も軍部も共に自動車産業を重点と見なしていた。


 原内閣としては、鉄道改軌を取り上げざるを得なくなった以上、地方への利権誘導政策の一環としての地方での鉄道敷設、いわゆる「我田引鉄」は取り止めざるを得ないと基本的に考えていた。

 だが、単純に鉄道敷設は取り止めましただけでは支持者が納得しない、代わりの利権を支持者には提示しなければならなかった。

 そこで着目したのが、道路だった。

 鉄道敷設の代わりに、道路を整備することで、利権を誘導する。

 これからは、鉄道では無く、自動車の時代だと支持者たちに説き、地方には鉄道では無く道路整備を進めるべきだと説明することで、支持者をつなぎ止めようと原内閣は考えたのである。


 原内閣にとって幸いなことがあった。

 何しろ、世界大戦において西部戦線に日本は派兵していた。

 そして、日本の海兵隊の戦車師団隷下の自動車部隊は、米英仏の国民にさえ感銘を与えるだけの活躍を行った。

 日本の国民に与えた衝撃は言うまでもない。

 そして、自動車の運転等、自動車の取り扱いに慣れた将兵が十万人以上、世界大戦終結に伴い、欧州から復員してきたのである。

 更に、海兵隊は完全自動車化され、陸軍にも自動車化歩兵1個大隊が全ての師団に配備された、

 戦車部隊も全ての師団に小規模とはいえ配備され、国民の目に戦車が触れるようになった。


 そういった事情から、世界大戦終結に伴い、自動車が大量に日本の国民の目に触れるようになった。

 そのために原内閣を支える立憲政友会の代議士達が、支持者に対して、今後は自動車の時代であり、鉄道では無く道路整備を進めるべきだという主張が通る余地があったのである。

 自動車に関係する特別税を掛け、その税金は全て道路整備に遣うことで、利用者負担を唱えることで道路整備に関する異論を差し挟め辛くするという方策も、高橋是清蔵相の提言から原内閣は採用している。

 そのため、原内閣崩壊後も、自動車が普及するに伴い、道路整備が進むという相乗効果がもたらされた。

 日本の自動車化の起こりは、原内閣によるというのもむべなるかな、といったところである。


 一方、軍部が自動車産業を重点と見定めたのは、いろいろと生臭い事情によるものだった。

 世界大戦において、米国は自動車産業を航空産業に大幅に転用することで、航空大国化した。

 その米国の成功体験を見聞し、更にリバティエンジン搭載の米国製DH4大量供与により、実際に大戦果を挙げた日本の軍部にしてみれば、日本でも平時の自動車産業を整備しておいて、戦時に航空産業に転用するというのは、極めて魅力的なことだった。

 更に言うまでもないことだが、自動車産業が質的に向上していれば、戦車等も質的な向上が見込める。

 そして、自動車産業は色々な面で波及効果が大きいと軍部から見込まれていた。


 例えば、民間で競争できる自動車を作ろうと考えれば、安価で良質な鋼鈑が当然、求められる。

 そして、民間で売ろうとすれば、当然、価格競争で勝てるように人件費を削り、大量生産可能なようにしなければならない。

 更に熟練工に頼っていては、大量生産等は不可能なので、工作機械等の改善も進めねばならない等々。

 自動車燃料の観点からすれば、ハイオクガソリン等、高品質の燃料も供給できねばならない。


 こういったことから、軍部にしてみれば、軍事費を削り、民間競争を活発に行い、工業化を進めるのには、自動車産業を重点として発展させるのが一番望ましいと考えられたのだ。


 更にこの時の日本には、人材がいた。 

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