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第5章ー5

 原敬首相は、床次内相の後任を速やかに選ばねばならなかった。

 後任人事に苦慮している原首相の下に、田中義一陸相と加藤友三郎海相が連れだって訪れ、ある要求を出した。


「鉄道院を鉄道省にし、その初代大臣に後藤新平を据えろだと」

 原首相は、陸海軍の要求に目を剥いた。

「何か問題があるのか」

 加藤海相は涼しい顔で言った。

「後藤さんは、鉄道院総裁を何回も務め、鉄道に詳しい。戦後の平和の配当として、日本国内の鉄道整備を進めるのにうってつけの人材だろう」

 田中陸相は言葉を継いだ。

 原首相は、床次内相辞任を策した陸海軍首脳部の真意を覚った。


 後藤新平を初代鉄道相に据える。

 それは原内閣が鉄道改軌を進めると公言することに近かった。

 1920年に始まる帝国議会で、原首相としては鉄道改軌計画を放棄し、更に「我田引鉄」を完全にするために鉄道敷設法を改正して、日本全国に鉄道網を張り巡らすことを計画していた。

 だが、後藤が鉄道相になっては、どうにもならない。

 後藤は陸海軍の支援を受けて、鉄道改軌計画放棄を主張する原首相の意向に反対するだろう。

 後藤単独なら無視できるかもしれないが、陸海軍がバックについていては原内閣は内閣不一致ということになり、総辞職することになる。


 しかし、その裏では田中陸相と加藤海相も苦労していたのである。

 これまでに何度も閣僚を務めている後藤新平である。

 単に鉄道院総裁にするだけではなく、原内閣の一員に迎えないと、後藤に対して礼を失することになる。

 だが、幾ら何でも重要閣僚の内相に後藤を原首相が就けるわけが無かった。

 田中陸相が苦慮していると、元老の山県有朋が乗り出した。


「後藤を鉄道相にすればよかろう」

 山県は、田中陸相に提案した。

「鉄道院を鉄道省にすることは、寺内(正毅前首相)も検討したことがあるからな。この際、原内閣に、鉄道院を鉄道省にする官制を作らせれば済むのではないか。そして、後藤を初代の鉄道相にすればいい。後藤にとっても名誉なことではないか」

 田中陸相は、手を打って喜んだ。


 次に田中陸相と加藤海相は、後藤を水面下で口説いた。

「私に初代鉄道相になってほしいですと」

 後藤は目を丸くして驚いた。

「しかし、原首相が私を鉄道相として内閣に迎えるわけがない」

 後藤は首を傾げた。

 何しろ、鉄道改軌論者の後藤である、鉄道改軌反対論者の原首相にとっては天敵ともいえる。

「もし、あなたが鉄道相になった暁には、鉄道改軌を積極的に進めていただけますかな。陸海軍も支援しましょう」

 加藤海相の言葉に、後藤は力強く肯きながら言った。

「それは、お約束します」


 原首相は、嫌な予感を高めながら、田中陸相と加藤海相に確認した。

「後藤さんの内意は確かめてあるのですか。鉄道相候補として後藤さんを私が呼んだが、断られたというのは避けたい」

「後藤さんは、鉄道改軌を原首相がお約束して下さるのなら、鉄道相になると述べております」

 田中陸相は素知らぬ顔で述べた後、言葉を継いだ。

「軍部は鉄道改軌には全面賛成です。後藤さんを初代鉄道相にしていただきたい。鉄道改軌は将来の対ソ戦を考えると何としても軍部としてはやっておきたい。少々ならば、人員予算面でも軍部は鉄道改軌に協力しましょう」

 その横では、加藤海相もその言葉に肯いている。

 原首相は、田中陸相が、陸軍では無く軍部と言う言葉を使っていることも併せ考えた。

 これは、陸海軍が完全に手を組んで、鉄道改軌を進める後藤鉄道相を推していることを意味する。

 原首相は、後藤を鉄道相に就けるほかなく、更に鉄道改軌を進めざるを得ない状況に追い込まれたことを覚った。

 まさか、陸海軍が手を組むとは、原首相は呆然とする思いに駆られた。

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