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第4章ー5

 鈴木貫太郎海兵本部長が自分の下を辞去した後、秋山好古参謀総長も(文言上だが)走り回っていた。

 自分が参謀総長の間にやることが溜まっているからである。


 欧州から帰国して、参謀総長に就任した秋山参謀総長は、今後の陸軍のあり方について深刻な懸念を覚えていた。

「このまま行くと、日本では、軍令と軍政の二元体系がまかり通ってしまう。そんなことを甘受していては独と同じ運命を日本もたどり、何れ戦争に敗れるのではないか」

 ブリュッセル会の初代領袖を務めた梅津美治郎元帥(最終階級、この話を秋山参謀総長と交わした当時は少佐)は、当時の秋山参謀総長は上記のように懸念していた、と第二次世界大戦後に回想している。

 ブリュッセル会には、戦車師団の実現を実際にもたらしたこと等から、秋山参謀総長のお気に入りの面々が揃っており、秋山参謀総長はその面々には腹を割って本音で話すことが多々あった。

 そして、ブリュッセル会の面々も、世界大戦で陸軍士官学校の同期生を大量に失ったこと等(海軍兵学校の同期生を、海兵隊は遥かに高い割合で失っていたが)から、秋山参謀総長と危機感をかなりの面で共有していたのである。


「確かにいろいろと問題が起こっていますな」

 ブリュッセル会の一員、前田利為大尉は、ブリュッセル会の面々が集った席でぼやいていた。

「陸軍内、いや海軍だけと協力するだけではとてもやっていけない。政治と軍事と、更に経済とも関連して処理しないといけないことが多すぎる。世界大戦で大量の死者を我が陸軍は出していますな」

 ま、あいつは戦場で死ねて良かったがな、前田大尉は冷たく内心で思った。


 東条英機大尉、東条英教中将の息子で、自分の同期生だが、頭が悪く、先の見えない男だった。

 精神論を振りかざしていて、名誉の戦死を遂げていた。

 馬鹿が、戦車や航空機が活躍する時代に、白兵突撃を掛ければ勝てると公言して、実際に自分が指揮官ならやれると言い、周囲の反対を押し切って、やりやがった。

 案の定、あっさり戦死した。

 あいつが、将官とかになっては、日本はおしまいだ。


 ちなみに、前田大尉は、梅津少佐や永田鉄山大尉と陸大では同期生で、卒業の順位は、梅津が1位、永田が2位で、前田大尉は3位だった。

 東条大尉より4年早く、陸大に合格もしている。

 前田大尉の東条大尉への酷評もむべなるかな、といったところである。


「軍内部の統帥権の問題から、陸軍の規模や今後の装備の見通し、更にそれを支える国力の問題、それこそ交通網や工業生産等々、問題は山積みです」

 梅津少佐から、会議の司会を任された前田大尉は、更にぼやいて見せた。

 もっとも、これには演技も含まれている。

 梅津少佐から予め示唆を受けていた前田大尉は、会議に参加している面々に、裾野が広く様々な問題に陸軍が今後は取り組まないといけないことを、暗示して見せていたのだ。


「うーん」

 前田大尉の演技を見た永田大尉は自分もそれに半分は合わせて唸った。

 なぜ、半分かと言うと、自分もかなり前田大尉の意見に共感していたからだ。


 例えば、戦車を今後、国産化して量産し、整備していく過程一つとっても、いろいろと永田大尉は問題点に気づいていた。

 まず、安定して均一化した性能のある戦車を量産化するとなると、今の日本では、まず工作機械から大量に米国等から輸入せねばならなかった。

 そして、工作機械を安定して動かすとなると、できればだが、国内の電流周波数を統一することも望ましかった。

 そして、鋼鈑やエンジン等も良質のモノが必要不可欠になってくる。

 あれも、これも必要だ、そして、人材の整備は更に必要か。

 永田大尉は、今後の日本について暗い展望を覚えて仕方なかった。 

第4章の終わりです。

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