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第4章ー4

「ともかく世界大戦の戦訓はいろいろ膨大です。今後の戦争は、国家総力戦の形態をとることを前提に我々は戦争というものを考えるべきでしょう。今後は1年以内に戦争が終わるという甘い期待から戦争を始めるようなことは止めねばなりません」

 鈴木貫太郎海兵本部長は更に言い、秋山好古参謀総長もその言葉に肯いた。

 世界大戦が終わるのに4年余りの歳月が掛かるのを眼前に見せられたこと、直接は日本はそんなにも世界大戦に関わっていなかったにもかかわらず、結果的には日本人の膨大な血を流してしまったことが、2人にその想いを共通して抱かせていた。


「ともかく国家総力戦を前提に、国の基盤から少しずつ変えねばならないでしょう。その前に世界大戦の傷を日本は癒さねばならないでしょうが」

 秋山参謀総長は言い、鈴木海兵本部長も同意した。


 鈴木海兵本部長は、秋山参謀総長の下を辞去して海兵本部に戻った後、百武三郎海兵本部次長や腹心の部下である米内光政大佐を、自分の執務室に呼び、秋山参謀総長との懇談の内容を詳細に語った。

 2人共、その内容に唸った。


「軍人は政治に関与せず、と思っていましたが、今後は大いに関与せねばならないようですな」

 百武海兵本部次長が言った。

「私も本音としては、政治に関与したくないのですがね」

 米内大佐も百武海兵本部次長に同意した。

「だが、世界大戦の経験からすると、国民、国家は戦時には一丸とならねばならん。治にいて乱を忘れずの精神で、それなりに我々は政治に関与していかねばならないだろう」

 鈴木海兵本部長は2人を諭して、今後の方策を部内で検討するように指示した。


 海兵本部内は、鈴木海兵本部長の指示を受けて、幾つか調査や部内での議論に乗り出した。

 幸か不幸か、海兵隊の政治力は、建軍以来の周囲との軋轢もあって鍛えられてきていた。

 斎藤実が海相を務めたこともあるし、鈴木海兵本部長にしても海軍次官の経験を持っている。

 そして、海兵隊の大御所、林忠崇は、元老の山県有朋、山本権兵衛にパイプを持ち、西園寺公望とも顔はつないでいる。

 また、林自身もこの世界大戦の功績で、伯爵から少なくとも侯爵に陞爵されるのは確実と見られていた。

 そうなると予備役の軍人なので、林は貴族院議員になるし、歴戦の英雄という顔を持っているので、軍事面での発言については、かなりの重みをもつ存在になる。

 こういった政治力をフルに生かして、海兵隊の首脳部は、今後、海兵隊の再編制を行い、また、それを生かせる社会ができるように動こうと考えていた。


 そうした海兵隊にとって、新しく首相になった原敬はいろいろな意味で厄介な存在だった。


 原首相は、政友会を基盤とした政党内閣を日本で初めて築いた政治家だった。

 その政治力は、大正時代のこの時期では傑出した存在と言って良かった。

 本来、政党を蛇蝎のように嫌っていた山県有朋でさえ、原に高い評価を与え、寺内正毅首相が辞任した後の後継首相として、原を他の元老達と共に推挙したくらいである。

 

 原は首相になった後、4大政綱を推進していた。

 4大政綱の内容だが、教育制度の改善、交通機関の整備、産業及び通商貿易の振興、国防の充実を訴えるものである。

 これは原首相の所属する政友会が長年にわたって主張してきたことで、原内閣成立に伴い、この動きを強力に原首相は進めようとしていた。


 この4大政綱について、海兵隊はいろいろと個別に対応せねばならない状況になりつつあった。

 ある部分では賛成するが、ある部分では反対するという細かい対応が必要となっていたのである。

 しかし、海兵隊単独の政治力だけには限度がある。

 海兵隊は、陸軍や海軍本体との協力が必要不可欠となりつつあった。

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