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第4章ー2

「世界大戦で大量の血を流し、士官や下士官の不足に海兵隊は悩みました。そのことは秋山好古参謀総長もよくご存知とは思います。陸軍の方針をお伺いしたい」

 鈴木貫太郎海兵本部長は、率直に秋山参謀総長に尋ねた。

 秋山参謀総長は考え込んでしまった。


 実際、日露戦争でも陸軍士官、特に尉官クラスの損耗率は極めて高く、奉天会戦後に陸軍が進撃をこれ以上続けられなかった一因となった。

 実質、1年で終わった日露戦争でさえ、そうなったのだ。

 将来、日本が参戦した戦争が第一次世界大戦型の長期戦となったら、陸軍は士官の損耗に耐えられるだろうか、現在の陸軍ではとても無理だろう。

 秋山参謀総長は、しばらく思いを巡らせたが、結論としてはそう考えざるを得なかった。


「かなりの数の予備役士官を予め確保しておく必要がありそうですな」

 秋山参謀総長は、鈴木海兵本部長に問いかけた。

「どういった方策があるとお思いですか」

 秋山参謀総長の方が格上だが、鈴木海兵本部長も海兵隊を代表する役職についており、また、独皇太子からの逆感状を賜った「鬼貫」に秋山参謀総長は敬意さえ覚えていたことから、対等に丁寧な口をきいた。

「高等商船学校卒業生を、海軍本体は海軍予備員とし、有事の際には士官として動員しています。似たようなことが何とかできないものか、と海兵隊は検討しています」

「ほう」

 秋山参謀総長は、素直に感嘆の声をあげながら考えた。

 陸軍も、そのような制度の採用を検討するべきだ。

 ついでに、軍縮に伴う士官の転職先の確保が多少なりともできるのではないだろうか。

「諸外国では、どのような方策を講じているのか、共同調査をして、それらも踏まえて、予備役士官の確保について、陸軍と海兵隊で検討するのはいかがでしょうか」

「それはありがたい」

 秋山参謀総長の提案に、鈴木海兵本部長は飛びついた。

 海兵隊と陸軍で組んでやれば、海軍本体も巻き込み、内閣さえ動かせるだろう。


「それにしても、丁度良い所に来られました。陸軍からも海兵隊にお礼方々、相談したいことがあったのです」

「何でしょうか」

 秋山参謀総長の相談事とは何か、鈴木海兵本部長は内心で構えた。

「世界大戦で大量の兵器を欧州から海兵隊は持って帰って来られており、それらの多くを陸軍に譲渡して下さり、本当にありがとうございます。しかし、問題は今後の整備や運用です。その点をご相談したい」

「確かに難問ですな」

 鈴木海兵本部長は、虚を衝かれたが、秋山参謀総長の悩みは自分でも分かった。


 世界大戦で欧州から海兵隊が持って帰った兵器は膨大なものだった。

 また、西部戦線参戦のお礼も兼ねて、戦後の英仏米の余剰兵器を陸軍と共同で格安で買いつけたり、独が連合国に引き渡した兵器の一部を譲ってもらったりということもした。

 各種戦車約300両を筆頭に、野砲や自動車、機関銃等々、英仏米等でも第1線師団6個を完全装備できる兵器の量だった。

 その内の約5個師団分が、陸軍に譲られた。

 何しろ4個海兵連隊基幹にまで縮小される海兵隊にしてみれば、兵器を退蔵するくらいなら、陸軍で活用してもらおうと考えたのだ。

 もちろん、19個師団もいる陸軍全体には到底行き渡る量ではないが、それでも全体の4分の1に相当する兵器の量である。

 田中義一陸相も含めて陸軍の首脳部は、これで陸軍の装備の近代化が進むと愁眉を開いた。


 だが、受け取ってみると問題が多発した。

 まず、陸軍が戦車等を運用しようとする以前に、日本の国土基盤を整備せねばならないことが判明した。

 例えば、狭軌の日本の鉄道では、30トン近い英仏の第一線戦車を運ぶことは極めて困難だった。

 陸軍首脳部は、その対策に苦悩していたのである。


 

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