表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
110/120

第11章ー5

「一刻を争う事態だ。呉と佐世保両鎮守府海兵隊の常備兵力を青島市へ派遣し、済南市にいる横須賀鎮守府海兵隊を救援せよ。また、空母を中心とする艦隊も派遣する」

 海軍軍令部は、田中義一内閣の承認を得て、速やかに上記の手続きを進めたが、日本国内はともかく、諸外国の対応は混乱を極めた。

 米国はともかく、それ以外の国の政府は日本の更なる派兵に顔をしかめた。


 何故なら、そもそも日米両海兵隊が済南市にいたのが国際法に反することだからだ。

 自分で火をつけておいて、火事が大きくなったからと言って、更に人を送り込むようなものではないか、という意見が中国新政府寄りの独ソ両国はともかく、それ以外の国、仏伊等からも上がるのは当然だった。

 こうした諸外国の政府の意向も受けて、立憲民政党は、速やかに済南市からの撤退を主張した。


「日中関係が必要以上に悪化することはよくありません。一旦、済南市から全ての居留民を避難させましょう。また、それ以外の長城以南からも全ての居留民を引き上げるべきです」

 立憲民政党の濱口雄幸総裁は主張した。

 そして、この主張に日本の国民の多くも、その時は同意を示した。

 更に、田中首相の内意も、それと一致していたことが事態を更にややこしくした。


 実は、山東省では日米両国の軍隊の存在が、山東省への中国新政府軍の本格的な侵攻を阻んでいたが、山西省から河北省へと進軍する中国新政府軍は馮玉祥軍等の協力もあり、雪だるま式に兵力を増して、張作霖率いる北京政府軍を追い立てていた。


 こういった状況下、張作霖をどこまで支持するのが相当か、で日英米等諸外国の意見が錯綜していたことも事態の混迷を深めることになった。

 更にそれぞれの国内でも意見が割れていた。


 日本では田中首相以下の多数派は、長城線以北を張作霖率いる奉天派に確保させ、奉天派の庇護の下、満蒙の日米の権益を維持しようと考えていた。

 長城線以南の日米の権益を軍事力によって確保することは、コスト的に引き合わないという判断もあり、一時的な長城線以南の日米権益放棄もやむなしと言う考えだった。

 これは皮肉なことに、立憲民政党の考えに一致しており、また、米国政府も同意していた。

 

 だが、政友会の主流や陸軍の一部と言った少数派は、軍事力による長城線以南の日米権益維持を唱えた。

 これまでの中国新政府の「北伐」の経緯から言って、中国新政府への譲歩は日米両国の権益を侵害する、断固とした態度こそ、日米両国の権益維持に資するという考えだった。

 そして、この意見に米国の世論の多数派や韓国政府等は賛成していた。

 こういったねじれが、事態をややこしくすることになる。


 ともかく、呉、佐世保両鎮守府海兵隊の常備兵力が山東省に駆け付け、日本艦隊も出撃したことが、「済南事件」の転機になったのは事実だった。

 このような状況に至って、人命最優先を唱える永野提督の主張に異を唱える居留民がほとんどいなかったこともあり、呉、佐世保両鎮守府海兵隊の支援の下、横須賀鎮守府海兵隊や米海兵隊に護られ、済南市の日米居留民は数十人単位の死傷者を出しつつも、青島市への脱出に基本的に成功することになる。

 中国新政府軍は、これを阻止しようとしたが、「伊勢」「日向」等の空母航空隊の協力も受けた日本空軍航空隊の妨害により、阻止に失敗した。


 横須賀鎮守府海兵隊が、青島市に全ての部隊を辿りつかせるまでに、中国新政府軍や済南市民等は、1万人を超える死傷者を出していた。

 一方の日米の居留民も、財産的損害は数え切れず、暴行、陵虐を受けた者は100名を超えるという事態が起きた。

 このため、日米と中国新政府の関係はますます冷え込むことになったのである。

 ご意見、ご感想をお待ちしています。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ