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第10章ー12

「さて、諸君としてはどうするのが最善の作戦計画と考える」

 土方勇志大将は、指揮下にある海兵師団長を眺めながら問いかけた。

 そして、内心で良い部下が揃ったものだ、と土方大将は思わず感慨にふけった。


 実際、日本海兵隊は、日清、日露、世界大戦と10年と空けずに戦争を繰り返していた。

 この場に居る師団長は、皆、日露戦争から世界大戦へと実戦経験を積み、生き延びてきた猛者揃いだ。

 これだけ実戦経験豊富な将官を揃えた部隊は、世界の陸軍でも珍しいだろう。


「単純な作戦こそ最良です。爆撃に砲撃、大量の火力を叩きつけ、中国国民党軍を粉砕しましょう」

 永野修身第1海兵師団長が言った。

「我が海兵隊だけでは最前線に赴ける兵力は5万人に満ちませんが、英米等の海兵隊を最前線に投入すれば、7万人に達します。制空権を確保し、揚子江の制水権が我が方にあることを考えれば、中国国民党軍の主力が10万人近いとはいえ、兵の練度等を加味すると、我々が圧倒的な優位にあると言えます。集中した戦車部隊を先頭に立てて、中国国民党軍の陣地の正面突破を断行、南京へ進撃すべきです」

 加藤隆義第4海兵師団長も豪語した。


「気持ちは分かるが。犠牲が少ない方がいい。少しは策略を巡らそう」

 顔に似合わず、米内光政第3海兵師団長は黒いことを言った。

「ほう。どう考えるのだ。米内」

 土方大将は、わざと揶揄するような口調で問いかけた。


「山本五十六大佐からの意見具申もありましたが、まず、中国国民党軍の補給線を叩きましょう。それによって、中国国民党軍を動揺させます」

 米内少将は発言した。

「そして、左翼、南側に全ての戦車部隊を集中し、中国国民党軍の右翼を突破、揚子江を鉄床にして、中国国民党軍を包囲殲滅するのです。その際には、駆逐艦や砲艦を総動員して、中国国民党軍に艦砲射撃の雨を浴びせて、追い討ちを掛け、完璧を期します」


「成程な」

 土方大将は、そう言いながら、これまでの航空偵察の成果を頭の中で思い描いた。

 

 これまでの航空偵察を見る限り、蒋介石は無錫周辺に世界大戦の中盤以前(具体的には航空支援や戦車の投入が無い以前)なら、理想に近い防御線を築いていた。

 三線に渡る手厚い防御線は、下手に日本海兵隊が攻撃を掛ければ、以前なら大損害は必死だった。

 だが、土方大将の目からすれば、旧式極まりない時代遅れの代物だった。


 今の日本海兵隊には、戦車があり、航空支援もあるのだ。

 更に揚子江には味方の砲艦や駆逐艦が遊弋している。

 

 航空隊の直協支援や艦砲射撃の支援の下、戦車を前面に押し立てて日本海兵隊が進撃すれば、兵力差がそうないことも相まって、3日もあれば防御線は崩壊するだろう。

 航空偵察結果を信じれば、中国国民党軍に対空陣地は無いも同然で、対戦車砲も無いのだから。


「損害を出さないで勝つのが最善だからな。米内少将の案で基本的に中国国民党軍に対する攻撃は行う。それから、英米の海兵旅団を予備として後置する。我が海兵隊3個師団が中国国民党軍を崩壊させたら、英米の海兵旅団が追撃を行う。詳細は司令部で再度詰めたうえで、具体的な指示を出す」

 土方大将は、そう決断を下した。

 もっとも、内心では別の想いもある。


 英米の海兵旅団は、基本的に徒歩旅団で、自動車を保有していない。

 徒歩歩兵で逃げる兵を追撃するのは困難だ。

 追撃任務にこそ自動車化された部隊を当てたいが、政治的な問題を考慮すれば、英米の海兵旅団の将兵に追撃任務を任せるしかあるまい。


「了解しました」

 土方大将の指揮下にある各海兵師団長は次々と、土方大将の決断に従う旨を述べて、自らの指揮する海兵師団の下に戻った。

 土方大将は想った。

 さて、どんな結果になるかな。 

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