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午後の部前編 巨大水槽~軟骨魚類展示まで





更新ペースは落ちる一方……

―12:38・巨大水槽―


 昼食を済ませた一行は、この水族館で最も広大な展示たる円筒形の巨大水槽を訪れていた。大洋の縮図とも言うべき巨大さ故か、水槽の周囲には螺旋階段が配置されており、水中を思うままに泳ぎ回る海洋生物達を無理なく鑑賞することができるようになっていた。


「あれがオニイトマキエイ、通称は英名の外套エイマンタ・レイからマンタだ。横幅8m、体重3tを誇りエイとしては最大級、熱帯の温暖な海の表層部を泳ぎ回りながら小型のプランクトンを食べる濾過摂食性動物だ」

「ダイバーにも人気なんだっけ?」

「よく知っているな。エイというのはその殆どが人間にとって脅威たる動物なのだが、このオニイトマキエイは例外的にダイバー達から愛されているのだ」

 続けてコドセルは、水槽上部を泳ぎ回る別のエイを指差して言う。

「オニイトマキエイと同じトビエイ科の代表種があのマダラトビエイだ。見ての通り背面に中々素敵な斑点を持っていてな。あの口を見ればわかると思うが奴らはあれで獰猛な捕食動物で、主に貝類から甲殻類、小魚や蛸等を捕食した例もあるという」

「名前にトビってある所を見るに、やっぱり飛ぶのか?」

「ああ。字は""より"チョウ"かもしれんが、確かに名前の由来はそれで合っているぞ。というのもトビエイはイルカのように海面を飛び跳ねることが多々あるのだ。目的についてははっきりしないが、恐らくはマンボウがそうするように身体へついた寄生虫を払い除けるのが目的だろうな」

「そうなんだ……」

「つーか俺、マンボウが飛び跳ねるってのを今初めて知ったんだが」

「そこまで公になっていない故、それも仕方あるまい」

 適当に語らいながら進んでいると、ふと一同の眼前を大ぶりな回遊魚が素通りした。

「何だあいつ?マグロの癖に一匹で泳いでやがる」

「いや、シオン殿。あれはマグロではなくアジだ」

「あ、アジ!?アジって、あの開きとかフライにするアジかよ?」

「そうだとも。正直、展示されている生物を食すような話題を水族館で出すと愚劣な連中から白眼視もされるが……まあいい。奴の名はロウニンアジ。アジ科にあって最大級とされる大型魚で、全長1.7mの体重80kgにもなる。ちょうどあの辺りをマアジが泳いでいるが、あれで全長が精々30cm。その差は実に6倍近くと言ったところか。開いてフライにしようものなら俎板まないたから包丁、鍋に調理担当者に至るまで何もかも規格外でなければなるまいな」

「包丁じゃなくて刀が要るわねー」


 その後、階段を下って行った一同は雄大な海を再現したかのような景色を存分に堪能し、次の展示へ向かった。


―13:20・有毒生物展示エリア―


 巨大水槽に続いて一行が訪れたのは、海に生息する代表的な有毒生物を展示したコーナーであった。

「さて、俺が事前に確認した情報が確かならこのコーナーに展示されている筈なんだが……」

「何探してるの?」

「サンゴ礁展示でテッポウエビを見た時『飛び道具を使う海洋生物がいる』と言ったろう?あれだ」

「お、マジで居るのか」

「居らねば言わんさ。ほら、こいつだ」

 そう言ってコドセルが指し示したのは、掌に乗るほどの小さな巻貝であった。その殻は中々に派手な色合いをしており、形も何やら一般的にイメージされるような巻貝の形はしていない。

「これは……貝か?」

「何かジャガイモみてーな形だな。おいコドセル、こんな奴が飛び道具を使う海の生き物だってのか?」

「ああ、その通りだ。この巻貝の名はタガヤサンミナシ。シオン殿が言うように、殻の形が芋を思わせる所から『イモガイ』と名付けられた貝類の一種でな」

「名前までいまいちパッとしないわね……」

「確かに名称こそ今一だが、その実こいつは恐ろしい能力を秘めているのだ。まあ、勿体ぶらずに言うとイモガイは貝類の中でもトップクラスの猛毒を持っていてな。管状の毒針を獲物に突き刺し神経毒で仕留めるのだが、このタガヤサンミナシはそれらを飛び道具として射出・連射できるのだ」

「うぉ、マジかよ?それは確かに飛び道具持ちって言われても違和感ねぇな」

「だろう?俺も最初知った時はよもや斯様な存在が実在しようなどとは思わなんだが、然し自然とは面白いもので、斯様なまでに人知を超えたような――或いは人間の空想を見透かしたかのよう、とでも言おうか――兎も角、奇異にして奇妙奇天烈なる生物の存在とその発見は後を絶たんのだ」

 などと語りながら、コドセルはある生物を指し示す。透き通ったその生物は、袋状のもので水面に浮きながら水中へ捻くれた青い蔓のようなものを垂らしている。

「このカツオノエボシもまたそんな生物の一つと言えようか」

「カツオノエボシ?また変な名前ですね」

「烏帽子に似た形で、カツオが到来する時期になるとそれを追うように海流へ乗って表れる事からその名がついたという。触手に猛毒を持ち、刺された瞬間の激痛が電撃のようであることから『電気海月』等とも呼ばれる。非力なプランクトンだからと言って、断じて軽視してはならん相手であろう――だが、そんな猛毒の存在さえも霞む程に衝撃的なのが、これを始めとする『クダクラゲ』の成り立ちでな」

「成り立ち?」

「そうだ。クダクラゲはクラゲの名こそ持つが、その実隣に展示されているアカクラゲやウンバチクラゲとは全くの別物でな。というのもこのカツオノエボシ、見て呉こそ一匹に見えるがその実は微小なるポリプ――即ち、クラゲの幼生とでも言うべきものども――が繋がり合うことであたかも一つの生物であるかのように振る舞っている、一種の"群れ"なのだ」

「つまり、馬鹿でかい船に大勢の乗組員が乗り込んで動かしてるような感じか?」

「うむ。それぞれが浮き袋や毒針、生殖器や消化器等の部位を担いながら、その一方で独立した生物でもあるわけだ。俺の説明下手もあってか意味不明にも思えようが、紛れもない事実なのでな……」


 かくして奇々怪々な有毒生物の展示を見て回った一行は、次の展示へと向かう。


―13:45・軟骨魚類展示エリア―


 有毒生物エリアを抜けた先にあったのは、サメ及びエイ――即ち軟骨魚類についての展示を行っているスペースであった。然しそこに生きたサメやエイは殆ど居らず、模型や標本等が展示物の大半を占めていた。


「コドセル、ここは?」

「軟骨魚――即ちサメとエイについて重点的に扱った展示だ。原始的であるが故に強大な力を誇るにも関わらず"悪逆非道の無法者"だとか"薄平たく味気ない脇役"として扱われる事の多いこれらについて、その起源や形態・生態に秘められた魅力を伝えたいという館長の思いから設けられたと言われている」

「へぇ。サメはともかくエイってそんなに凄いのかしらね?今一ピンと来ないんだけど」

「っていうか、サメも最近じゃ案外大したことないとか言われてますよね。どっかじゃタコに食われたとか何とか」

「確かにサメやエイも生物である以上完全無敵ではなく敵も存在するが、だからと言って大したことのない奴だというのも間違いだぞ。そも、軟骨魚の起源は約4億年前の古生代デボン紀にまで遡る。その始祖は海の浅瀬に生じた鮫であるとされ、それ故かサメやエイは淡水との親和性が高く、今も淡水に生息していたり、淡水域へ進入する種がいるほどだ」

「あー、そういや確かに。熱帯雨林の所に居たよな淡水エイって。あれは何か地理的な事情も絡んでるらしいが」

「でも、普段は海に棲んでいるのに川まで上ってくることもあるなんて驚きましたよ」

「うむ。サメやエイは何も海だけの生物ではないということだな。さて、古生代後期の石炭紀になると、地上で昆虫と植物が栄えたように海では軟骨魚の多様化が進み、化石生物の例に漏れず面白い形態の種が数多く生じたようだ。ただ残念なことに、こうした古生代の軟骨魚はその多くはさほど長続きもしないまま絶滅し、海の覇権は中生代に現れた現代型のサメと海中へ進出し出した爬虫類どもに取って代わられることとなる。サメというものは出現したときにはすでに現在とほぼ同じような姿をしており、以来さして変化もしていないので生きた化石としても扱われる」

「エイはどの変で出現したんですか?」

「エイの起源は紀元前一億五千万年前の中生代ジュラ紀、サメの一部が海底への適応を試みた結果、分岐して生まれたものだという。そのためか、カスザメのようにエイ類とほとんど区別がつかないような種が存在する一方、ノコギリエイのような一見サメにも見えてしまうエイも存在する。見分け方として最も簡単な基準は鰓の位置だな。軟骨魚類は切れ込みのような鰓こと"鰓裂"を五対持ち、これが側面にあればサメ、下面にあればエイとなる。サメの形態は続く白亜紀にほぼ完成したとされ、恐竜絶滅後の新生代にはそれらが全世界の海という海に種類を増やし、特にパニック洋画で知られるメジロザメ類が繁栄したというのが通説だ。また、獰猛な大型のネクトンというイメージのサメだが、エイ共々実際は多様な環境に適応したた為その生態は非常に多岐にわたる」

「ほう」

「次にサメの能力について話させてほしい。体表は歯と相同の、楯鱗或いは皮歯と呼ばれる鱗で覆われている。これが俗にいう鮫肌の正体で、泳ぐ際には水流の乱れを軽減、層流を保つことで水の抵抗を減らし加速をしやすくしているのだとされている。ただ、その反面能動的に泳ぎを止める能力に乏しく、またネクトン型のサメは泳ぎ続けていないとそのまま沈んだり、最悪呼吸困難で死亡する事さえあるので、そこが弱点と言えばそうなるな」

「だが、常に早く泳いでりゃ問題ないんだろ?」

「そうだな。さて、次に歯だが、多くの場合その先端は鋭く尖り、一種の刃物を思わせる。これ故サメは低い筋力で獲物を効率的に食いちぎれる。円錐形で強度があり、力をかけやすいワニとは真逆と言えような。更に有名な話だが、この歯は何列にも並んでおり、現在使われている歯列のすぐ後ろには既に新しい歯列が用意されている。何らかの要員で歯が欠けたり抜け落ちたりしようものなら、新しい歯列が古い歯列を押し出し、歯列ごと新しいものと交換されるようになっているというわけだ。更にこの歯列は何回でも生え変わり、サメ一尾が生涯に使う歯の数は最大で数千にのぼるとの仮説さえ存在するほどだ」

「数千……機関銃の弾丸かよ……」

「まさにそうだな。さて、次に鼻の話だが、まずサメの嗅覚は大変に鋭い。その鋭さは25mプールに満たされた水で希釈された血の一滴さえ嗅ぎ分ける程らしい。また、サメの鼻先には『ロレンチーニ器官』なる微弱な電流を感知する電気受容感覚器官が存在する。これにより連中は100万分の1ボルトという極僅かな電位差さえ感知できるというわけだ。この感覚器官があるからこそ、サメは深海の暗闇や海底の泥をも物ともせず正確に発見、捉えることができるというわけだ。ただ、この電流感知能力を逆手にとれば、サメの嫌がる種類の電流を周囲に流すことで追い払うこともできる。長所は時に弱点にもなるという事だろうな。ロレンチーニ器官はそれそのものが弱点にもなりえてしまうし」

「両刃の剣か」

「そういう事だ。さて次にエイだが、先程も述べた通りエイとは要するにネクトンからベントスになったサメが更にベントス然とした形態になったものだ。それ故に基礎はサメと変わらず、静止したまま鰓へ水を送り込むシステムを確立させた点ではサメより優れていると言えんこともない。そもそもエイの全てがベントスということはなく、先程見たオニイトマキエイやマダラトビエイのようにネクトンへ分岐した種もいる程だ。サメ時代には立派だった尾を徹底して退化させ鞭のように細長く仕上げ、時には背鰭さえも退化させた」

「あ、あれが……サメの尻尾?」

「そうだ。その証拠にエイながらサメのような尾を備えた種も存在するからな。先程名の出たノコギリエイの他にはサカタザメが有名か。サカタザメはサメの名こそ付くが実際はエイなのでな」

「然し進化の分岐ってのは恐ろしいな。サメの尾もああなるとは……」

「それ故自然とはわけがわからず、一言で断言などしきれんというわけだ。有毒生物展示エリアに居たアカエイを覚えているか?」

「ああ、あの尻尾に毒針があるって奴だろ?何でも古代人があれを引き抜いて鏃にしたとかの」

「そうだ。あの毒針もサメ時代は背鰭だったというからな。更にその裏付けとも言えるサメまで居てな……こいつだ」

 そう言ってコドセルはある模型に歩み寄る。それは一見サメとは思えないような、然しそれでいてサメの特徴を備えた奇妙な姿をしていた。

「こいつの名はネコザメ。その名は眼の上にある皮膚の隆起を猫の耳に見立ててのことという」

「猫、か……」

「猫には見えないけど……」

「心配するな、俺も未だにこれを猫耳とは思えん。現に異国の学者は牛の角に見立てた――と言っても、牛の角にはより見えんだろうがな……尖らぬ鼻先や下向きの口からも判る通り、こいつの生態はベントス寄りだ。棘状の前歯と臼歯状の後歯は甲殻類や巻貝を噛み砕くのに適し、それ故に栄螺割サザエワリの別名を持つともいう。そして尚注目すべきはこいつの背鰭だが……」

 一同がコドセルの指し示すままに目を凝らすと、背鰭前縁に何やら刺のようなものが見えた。

「これって、まさか……」

「そう、毒針だ。これに加えてオニイトマキエイにもサメのような背鰭がある事から考えて、恐らくはアカエイの尾にあった代物と同質のものだろう。まぁ、ネコザメとアカエイの関連性についてはあくまで俺の推測に過ぎんがな」

「だとしても何も知らねぇ奴からしたらスゲーよ」


 等と語らいながら一同が適当に進んでいると、何やら円筒形をした水槽のようなものが現れた。然し水槽と言うには些か水位やそれそのものの背は低く、また天井が取り払われ外部から手を入れられるようになっていた。中には小型のサメが幾つか泳ぎ回っている。


「コドセル、これは?」

「タッチプールだな。こうして池のような水槽を設け、客と生物とが直に触れ合えるようにした施設だ」

「あー、何かあるって聞きますね」

「でも普通そういうのって、貝とかヒトデなんかを置いてあるものなんじゃ……」

「臆すことはない。ここを泳いでいるのは温厚な小型種ドチザメだ。良識と常識の範囲内で接していれば噛まれるようなことはまずない」

「そ、そうだよね……」


 かくして一同は順番にドチザメを撫で回し、本物の鮫肌を肌で感じ取った。

次回、何だかんだで最終回!

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