凶器瞬間移動トリック
テレサは急いで食堂へと向かう。食堂にはこの山荘にいる人間全員が揃っていた。
青ざめているテレサの顔を見て柊たちは心配する。
「どうかしたのか。血相を変えて戻ってきて」
「あかりさん。部屋のドアを開けて。あなたの部屋から赤い液体が流れているから」
テレサは谷村あかりを部屋に連れて行く。その後を追うように柊たちはテレサたちに同行する。
確かに廊下は赤い液体で濡れていた。谷村あかりはドアの鍵を開ける。ドアが開きテレサと柊は彼女の部屋に入る。
部屋の中も赤い液体で濡れている。その赤い液体は風呂場から流れているようだった。
テレサは風呂場のドアを開ける。風呂場に一本のナイフが浮いている。そこには遺体がない。
「もしかしたらこれが関川監督を殺害した凶器かも」
「その前に聞くことがあるだろう。谷村あかりさん。あなたはお風呂を沸かたのか」
谷村あかりは首を横に振る。
「いいえ。そんな暇はなかった。それに犯人はどうやってナイフを風呂場に出現させたの。私が関川監督の遺体を見つけてから今までの時間私たちには同じ部屋に集まっていたという鉄壁のアリバイがあるし、この部屋は完全な密室。ナイフを湯船に浮かべた状態でお湯を廊下まで溢れさせるなんて無理」
「あなたが犯人だとしたら辻褄が合うと思うがな」
テレサはドアの鍵穴を観察している。鍵穴はこじ開けられた形跡がなかった。
「状況的にあかりさんが犯人かな。それが真実だとしても、違ったとしても、これは新しい謎だよね。なぜ犯人は谷村あかりの部屋の風呂場にナイフを出現させたのか。そのトリックはどのようなものなのか。でもこのナイフが関川監督を殺害した凶器である根拠もないよね。だったらどうして犯人はこんなトリックを仕掛けたのか」
テレサの推理に耳を傾けた柊はこの状況に違和感を覚える。確かにお湯は廊下まで溢れているが、湯気が出ていない。
「テレサさん。少しいいか。この凶器出現トリックは、この不可思議な状況が語っていると思う。そのトリックを実証するには、村上さんの協力が必要だ。村上さんと俺以外は食堂で待機してくれ。その間何をしてもいいから」
「もう凶器出現トリックが解けたということかな」
「たぶんこれは吹雪の山荘というシュチュエーションを利用したトリック。ここまで言えば推理マニアなあなたにも分かるだろう」
柊の一言を聞いたテレサは頬を緩ませた。
「なるほど。分かった。その間私はあなたとの約束を守ろうかな。あなたの助手の夏海くんと一緒にね」
約束なんてしたかと夏海は首を傾げた。そして容疑者たちとテレサと夏海は現場に柊と村上を残して食堂へと向かった。