事情聴取 前編
柊と夏海。テレサと村上の4人は容疑者たちが集まっている食堂にやってきた。
「謎は解けそうですか」
井田光はテレサに問う。だがテレサは首を横に振った。
「まだ外部犯説を否定する証拠は見つかっていないよ。犯人につながる遺留品も現場にはなかった。ということでこれから事情聴取らしきことをします。これは人間関係を把握しっていない柊さんたちへの配慮です。アンフェアな推理対決はつまらないでしょう」
テレサの一言で事情聴取は始まった。まず話を聞いたのは西木野正樹。
「西木野さん。あなたは関川監督と演出関係のことで口論していましたよね」
テレサからの問いに対して西木野は怒鳴る。
「そんなことで殺人はしないだろう。怪しいのは谷村あかりだ。おかしいだろう。なぜあいつは関川監督の部屋を訪れなくてはならなかったんだ。第一発見者が怪しいと考えるのが自然だろ」
柊は西木野の話におかしな点があると思った。
「ところでなぜあかりさんのことをあいつと呼ぶ」
「あいつは俺の婚約者。だけど半年前に突然婚約が破棄されたから、彼女とは元婚約者という関係だ。そういえばあいつの友達。半年前に自殺したらしいぜ」
「因みに関川監督が部屋に籠ってから遺体発見までの間。どこで何をしていましたか。晩餐会開催中は誰ひとり食堂を離れなかったから、食事をしていた午後6時から午後7時までの1時間のアリバイは全員確保されていますが」
「仮眠をしていたな。一人部屋だから証人はいない」
次に柊たちは谷村あかりに話を聞いた。
「あかりさん。西木野さんはあなたが関川監督の部屋を訪れる道理がないと言っていますが、なぜあなたは彼の部屋に行ったのでしょうか」
「それは明日のロケ地についての確認のためです。私は慎重なタイプだから」
「あなたは関川監督を恨んでいないのか」
柊の問いに対してテレサはあかりの先に答えた。
「忘れたの。先ほど西木野さんが言ってたよね。半年前に私の友達が自殺したって。自殺したのは村上姫香さん。オーディションに落ちて絶望したことが自殺の要因だったと要さんが言っていたから。そのオーディションを主催したのは関川監督。彼が姫香さんを自殺に追い込んだと考えてもおかしくないよね。この事件が彼女の自殺に対する復讐劇なら村上要さんと井田光さんにも動機があるけどね」
テレサの話を聞き柊たちは首を傾げる。
「村上要は妹を自殺に追い込んだ関川監督が許せなかったという動機があるが、なぜ井田光にも同じことが言える」
「村上姫香さんは高校の生徒会長だった井田光さんを慕っていたから。擬似的な姉妹のような関係だったらしいよ」
「それでは晩餐会終了後から遺体発見まで何をしていた」
「部屋に籠って明日のロケ地の確認をしていました」
柊たちが三番目に話を聞いたのは井田光。
「早速だがあなたには関川監督を殺害する動機はあるのか」
「あのセクハラ監督なら殺したいと思っていました。監督はロケハン中も何回かセクハラ行為をしてきましたから。でもそれだけで殺人なんてしないでしょう」
「村上姫香さんを自殺に追い込んだ関川監督が許せなかった。これが今回の殺人劇の動機であると仮定するとあなたにも立派な殺人動機があると言えるが」
「確かにそうです。でも私には鉄壁のアリバイがありますよ。村上要さんと一緒に晩餐会の後片付けをしましたから。その証人は要さんとあなたたち。あなたたちの前を何回か通って食器を片づけていました」




