ドラマ監督殺人事件
まもなくして夕食がテーブルの上に並べられた。晩餐会というと洋食のイメージが強いが、テーブルの上には、鯖の味噌煮に肉じゃが。わかめの味噌汁。白いご飯。どれも和食ばかりだ。
「上手い料理だな。とても男が作った料理とは思えない」
柊は調理した村上を褒めた。村上は照れる。
「本当はテレサさんに気を使って洋食にしたかったのですよ。テレサさんが帰国子女だということを知っていたから、使い慣れているナイフやフォークを使う料理にした方がいいかなと思って。でも電話連絡でテレサさんが和食でも構わないとおっしゃられたので、得意料理が多い和食にしました」
晩餐会の料理が和食になったのはそういう経緯があったのかと夏海は納得した。
午後7時。晩餐会は和やかに終わった。それから柊たちとテレサ以外の人々は食堂から出て行った。一人は食事の後片付けのために。一人は仮眠をするために。一人は電話をかけるために。一人は部屋で地図を広げロケ地を確認するために。
テレサは椅子に座りこの山荘に伝わる説神亀の話を柊たちに聞かせた。
「この山荘は元々ある大富豪の別荘だったらしい。その大富豪は世界各地のナイフや短刀をコレクションしていた。20年前その別荘であの事件は起きた。当時主はその別荘に親戚たちを集めた。経緯は分からないが当時その別荘に集まった人々は全員一晩の内に殺害されたそうだよ。殺害方法は刺殺。だけど現場に収容していたどのナイフからも被害者の血液が検出されなかった。事件はもちろん迷宮入り。つまりここには見えないナイフを持った殺人鬼が潜んでいるという訳。今回のロケハンはこの事件をモチーフにしたドラマの制作をするため」
窓の外で吹雪が発生した。吹雪は山荘の周りを包み込む。
その頃谷村あかりは山荘二階にある関川義光の部屋を訪れた。
「関川さん。明日のロケ地について確認をさせてください」
谷村はノックをした。だが反応がない。仕方なく谷村はドアを開ける。
「失礼します」
谷村あかりは後悔した。彼女の視線の先には関川義光の遺体が転がっている。
谷村あかりは思わず悲鳴を上げた。その悲鳴は外の吹雪と共鳴するかのようだった。
悲鳴に驚いた柊たちは関川義光の部屋を訪れる。彼らは関川の遺体を目の当たりにした。
「とにかく警察と救急車を要請した方がいい」
柊の意見に全員賛同した。一方テレサは不謹慎に微笑んでいる。
「すぐには来ないと思うよ。警察と救急車。外は吹雪だから到着はかなり遅れそう。つまり犯人はこの山荘内にいた人間ということになるよね」
「内部犯だと言うのか」
西木野正樹はテレサの犯人は内部犯であるという推理を聞き疑問を投げかける。
「その証拠に窓を見て。外部犯の侵入経路があの窓だとしたら、雪がこの殺害現場に落ちていないとおかしいでしょ。そしてこの部屋の窓は内側から鍵がかけられていた。外から窓をこじ開けられた形跡がないことを踏まえると犯人はこの山荘にいたこの8人の中にいるという訳」