不穏な空気
午後6時。晩餐会の参加者8名は席に着いた。テレサは料理が運ばれるまでの時間を使い5人のドラマスタッフを柊たちに紹介する。
「紹介しないとね。私の右に座っているおかっぱ頭で背が低い男性は、監督の関川義光さん」
関川は柊たちに会釈する。
「よろしく」
テレサは紹介を続ける。
「関川さんの右にいるカチューシャを付けた女性はディレクターの谷村あかりさん。その隣の銀髪のスポーツ刈りの男性はカメラマンのガイ・エドワードさん。ガイさんと私は出身地が一緒で、半年前に来日したばかりだから日本の生活に慣れていなんだよ。その正面に座っているサングラスに七三分けの男性は主演俳優の西木野正樹さん。その隣に座っている黒髪。長髪に巨乳。おまけに赤い眼鏡をかけている完璧な西木野さんのマネージャーさんが井田光さん」
先に紹介された関川以外の4人は柊たちに会釈する。ただ一人井田光だけが顔を赤くしている。
「テレサさん。なぜですか。西木野まで簡単な紹介だったのに、なぜ私だけそんなに詳しく紹介したのですか」
「だってこの中で一番の美人さんだから」
「それは答えのつもりですか」
「そうだけど」
テレサと井田の会話を聞きながら、西木野は煙草に火を付けようとポケットからライターを取り出す。するといきなりオーナーの村上は西木野の腕を掴んだ。
「すみません。この山荘は禁煙になっています。喫煙室もございません」
「そうか。そういえば7か月前のロケハンの宿泊先も禁煙で喫煙室がなかったよな。確か東京ミネルヴァホテルだった」
村上は西木野の話に頷いた。
「はい。実はこの山荘はそのホテルと同じ系列なんですよ。そのホテルには僕の母親と妹が務めています。でも妹は半年前に自殺しましたけどね」
村上の一言で晩餐会会場の空気が一変した。会場中に暗く冷たい空気が流れる。
「自殺とか、暗い話は止めろよ。もうちょっとロケハンを楽しもうぜ」
西木野正樹の一言で晩餐会会場は明るくなりかけた。テレサの一言がなければ暗い話題は消失していたはずだった。
テレサは窓を覗いている。窓の外で白い雪がちらついている。その一言はそんな時に発しられた。
「この山荘で人が死ぬね。ミステリ小説を3万冊以上読んできたから分かるよ。雪が降っている。天気予報によると今夜は豪雪注意報が発令されているそうだよ。たぶんこれ吹雪が発生するよね」
テレサの一言はさらに晩餐会を暗い空気にした。ただ一人テレサだけがウキウキとしている。
「でも殺人事件が発生するという予言は冗談だよ。天気予報は本当だけど。それより谷村さん。柊さんたちに話したほうがいいよね。この山荘に伝わる伝説の殺人鬼の話」
すると関川義光は突然席を立ちあがった。
「自殺とか伝説の殺人鬼の話とか、食欲が低下するような話ばっかりするな。夕食はいらん。俺は寝る」
関川は自分の部屋へと向かった。関川の後ろ姿を見ながらテレサは能天気に微笑んでいる。
「やっぱりあの話は晩餐会の後にしようかな」
テレサの微笑みが暗示していたのかもしれない。これから起こる惨劇を。




