殺人劇への招待状
それは殺人への招待状だったのかもしれない。その招待状が柊探偵事務所に届いたのは先日のことだ。
柊探偵事務所の従業員は2人。半年前この2人の探偵は洋館を舞台にした連続殺人事件を解決した。にも関わらず、依頼は相変わらず少ない。実際の連続殺人を解決した実在の探偵としてマスコミに取り上げられた期間は一か月しかなかった。それ以来柊たちはひっそりと探偵業務をしている。
そんな探偵事務所に一通の手紙が届いた。一週間ぶりの依頼に柊たちは喜んだ。その手紙は白い封筒に入れられていた。夏海は早速手紙を開封する。
「何の依頼だ」
柊は夏目が手にしている手紙を覗き込む。
『柊探偵事務所の皆様。初めまして。突然のお手紙に驚いていることでしょう。私はテレサと申します。今回貴方達を晩餐会に招待いたします。日時は2月某日。会場は新潟県にある短冬山荘。交通費や宿泊代は全額負担します。お手数ですが同封しましたはがきで返信してください。テレサ・テリー』
柊たちは首を傾げた。これは晩餐会への招待状。しかし柊たちとテレサと名乗る人物は面識がない。果たして初対面の人間を晩餐会に招待するだろうか。
「夏海。テレサというのはお前の知り合いか」
「違いますよ。柊さんの知り合いかもしれないでしょう。探偵サミットと称する合コンに参加したと、この前言っていましたよね」
「テレサなんて外国人探偵はあの合コンに参加しなかった。参加者は全員日本人だった」
「それでは誰なんですか。テレサって」
夏目は白い封筒に同封されている返信用のはがきを取り出す。そのはがきに真実が記されていた。そのはがきのあて名を見た夏目の思考回路は停止した。
「まさか。そんなはずは」
動揺している夏海はスマホを使い、あて名に記された名前を検索した。
「やっぱり。でもどうして」
「どうした」
「謎が解けました。テレサと名乗る謎の人物の正体。その答えはこの返信用はがきに記されていました」
夏海は返信用はがきのあて名を指差す。
「テレサ・テリー」
「そうです。その名前をインターネットで検索したらヒットしました。テレサ・テリーさんは顔出しNGの敏腕脚本家。主に2時間ドラマの脚本を書いているそうです。そしてテレサさんとあの人物には繋がりがあります。月森学園卒業。もう分かりますよね」
「江角千穂ちゃんか。彼女もその学園の卒業者だったな」
「そうです。テレサさんと江角千穂さんは同じ年に卒業した同級生。もしかしたら江角千穂さんの紹介でこの招待状が送られたのかもしれませんね」
夏海の推理を一通り聞いた柊は万年筆を取り出した。
「すぐにでも参加すると返事しよう。江角千穂ちゃんも招待されているかもしれないからな」
柊はルンルン気分で返信はがきを出しに行く。その姿を見て夏海はため息を吐いた。
「こんな理由で晩餐会に参加してよかったのでしょうか」