表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/1

プロローグ

日が気持ちよく差し込む古民家の朝。

トントントン……ジュワーー。 


「ばあちゃーん!今日の飯何?」


 朝目を覚ますと俺、一ノ瀬ハルトは一番にばあちゃんに今日の献立を聞く。

高校生にもなって毎朝献立を聞きに行く俺は、世の中的には珍しいらしい。

生まれてこの方、反抗期というものが来たことがない。来る気配すらない。

むしろ

「ばあちゃん今日も元気?」

とか言っている。我ながらどうかしてると思う。 


「今日は味噌汁とご飯と筑前煮だよ!ハルト好きだろ?」


目の前に置かれたのはホカホカと湯気を上げる味噌汁とご飯、そして味の染みた筑前煮だった。

うまい。うますぎる。れんこんのシャキシャキ感、ごぼうの香り、しいたけの出汁。一口ごとに 

「あ、生きてて良かった」

という気持ちになる。しっかり咀嚼して飲み込むと、不思議と力が湧いたような気がしてくる。


今日の放課後、絶対レシピ聞くぞ。


そう意気込んで家を出た。

朝日が土の道を照らす中、片手には都会の書店で買った異世界転生物語。


チートスキルがもらえるなら異世界転生も悪くないよな——


なんて考えながら読み進めていると。

滅多に通らない高級なベンツに轢かれた。

わりとあっさり死んだ。


意識がふっと宙に浮くような感覚があった。


(あ、死んだ。)


妙に冷静に状況を把握しながらぼんやり浮遊していると、急にパンッという音が響いた。

驚いて目を開けると、白い羽と光り輝く輪っかを装備した子供がいた。どこからどう見ても天使だった。

「……やっと起きたんですか。めちゃくちゃ重かったんですけど」


天使が半眼でこちらを見ている。

どうやら意識のない俺を天使がずっと背負って運んでいたらしい。大変申し訳ない。 


「まあいいです。ハルトさん、本来ならチートスキル持ちで異世界転生の予定だったんですけど——あ、もう時間だ!じゃあ頑張ってください!楽しんで!」

「ちょっと待て、チートって何、何のスキル、あとチートって言った?言ったよね?」

暗闘に堕とされていくような感覚。

天使の

「細かいことは現地で!」

という声が遠ざかっていった。


目を開けると、そこは別世界だった。

頭から猫耳を生やして二足歩行する獣人。 異様に耳の尖った人。

目の色、髪の色は美しいほどにカラフル。高い煉瓦造りの建物がそびえ立ち、

そして——

全員が剣やら盾やら斧やらを当然のように持ち歩いていた。

銃刀法、概念ごとなさそう。

とりあえず一段と高くそびえ立つ建物に入ってみた。中は広く、大勢が行き交っている。奥に受付らしいカウンターが見えたので近づくと——


「あの……すみません……」

「はいっ!」


受付から飛び出してきたのは、頭にぴょこぴょこと三角形の耳を立て、背中にふさふさの尻尾を生やした、猫の獣人の女性だった。 


「お客さん初めてですねっ?!見ない顔!ということは新入り!ということは登録!登録ですね!?」

「え、あ、はい、あの——」

「名前は!?」

「一ノ瀬ハルト、ですけど——」

「ハルトさんね!スキルは!?」

「それが、さっきまで天使と話してて、チートスキルがあるって言ってたんですけど何か分からなくて——」


「ふむふむ!じゃあ鑑定しますね!」


バシッ。

気づいたら俺の手に何かが触れていた。光った。終わった。

「えーっとえーっとえーっと……」 


受付の獣人がすごい速さで目を走らせてる。そして突然、


「——っっっ!!」 


声にならない声を上げて固まった。


「あの?」

「……ちょっと待って。今の読んだ?私ちゃんと読んだ?」

「何が書いてあったんですか俺の」

「……料理スキル・極、です」


沈黙。


「……は?」

「料理スキルが、極、ですね。この国で料理スキルが極なのはたった三人で、その全員が伝説の料理人として歴史書に——」

「チートって料理のこと?」

「はい!」

「天使に文句言っていいですか」

「それより!!」


猫耳がぴんっと立った。


「勇者パーティー、今ちょうど旅立ち前でメシ担当がいなくて困ってたんですよ!ハルトさん、今から行けますか!?」

「……は?」

「荷物は?」

「ないですけど——」

「じゃあ即戦力ですね!!案内します!!」

「待って待って待って!?俺の話聞いてます!?」

「聞いてますよ!!聞きながら歩いてます!!こっちです!!」

猫耳がぴょんぴょん揺れながら受付嬢は小走りで歩き出す。尻尾がご機嫌そうにふりふり揺れていた。

俺は異世界に来て5分も経たないうちに、勇者パーティーへと連行されていった。



——あ、筑前煮のレシピ、聞き忘れた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ