第7章
約束の時間がせまり、緊張のためか鼓動が速くなってきた。愛用のツバの短い爽やかなブルーのキャスケットをさらにまぶかにかぶりなおし、落ち着こうと息を吐いた。 ── 挨拶はどうしよう? やはりはじめまして、というべきか? それとも結婚おめでとう、というべきか?
突風に、ケヤキたちの豊潤な葉叢がサアーと大きく風に揺れた瞬間! ──ゆったりと大きくやわらかに──
東側のスクランブル交差点から遊歩道に入って来る若い男女の姿が目に止まった。
しかも男性を残したまま女性だけが、こちらに向かってゆっくりゆっくりと歩いて来る。どうやら薄青いワンピース姿の若い女性は杖をついているようだ。
白い杖で地面を軽快に叩きながら歩く姿は、視覚障害者にしか見えない……
──まさかアナタがヒカリ! アナタは、目が見えないの?
白杖を叩く音が大きくなり、ワタシの心の奥底にまで響いてくる。薄青いワンピース姿の若い女性の顔が、潤みはじめた視界にもはっきり確認できるようになった。
髪はワタシよりも長いけれど、そこにはワタシと同じ顔の人間がいた。若い女性は、間違いなく双子の姉妹のヒカリだった。
ケヤキ並木の木漏れ日のなか、長い黒髪が靡き、ヒカリはとても美しかった。
もう言葉もなく、立ち上がったワタシが白杖を持ったヒカリの細い手を握ると、ヒカリもワタシの手を握りかえして微笑んだ。
そしてワタシたち双子は、そのまましばらく抱きあった。
ケヤキたちの葉叢が囁くように風に揺れる音と、ワタシとヒカリのすすり泣く声だけが、都会の喧騒に紛れていた。




