第5章
ワタシはママが外出した際、いけないことだと思いながらも、無断でママの部屋に置いてあった例の手紙を読んだ。
手紙はママ宛の、〇〇 ヒカリという送り主本人の結婚を知らせる内容だった。すぐにワタシは、ヒカリが双子の兄弟に間違いないと推察した。結婚の知らせをもらってママが泣く相手は、やはり離れて暮らしている我が子しか考えられない。 ──正式な結婚式への招待状は後日お送りする旨の記載があり、お相手の名前が男性だったことから、ヒカリが女性であることもわかった──
ワタシはマンションのベランダに出て、午前の清流のような薄青い空を見上げた。太陽は南の空の高いところにあり、いつもより燦々と光を放射している気がした。
すぐにワタシはブルーでツバの短いキャスケットを手にとり、マンションを飛び出した。やはり初夏の日差しは烈しかった。
キャスケットをまぶかにかぶりカレらのところへ行こうと思った。カレらの声が聴きたかった。そう、定禅寺通りの豊潤な葉叢のケヤキたちの囁く声を……
マンションへ戻って来ると、ワタシは決心して封筒に記載されてあったヒカリの住所に、会いたいと手紙を書いた。
生まれてから一度も会ったことのない兄弟とはじめて会うことが、太平洋を泳ぎつづけて、大海原で出会うことと同等に稀有なことだと自覚しながら、そして、もっとも最低のウゾウムゾウのこんなワタシを、ヒカリは軽蔑するだろうと自嘲しながら……
──但し、事前に連絡を取り合うことを避けたかったから、強引だったけれど、ワタシがママと同居していることもワタシの住所も記載せず、ひとりで待ち合わせ場所に来ることを求めた(もし来なくても仕方がないと考えて)。 なぜなら意図的に音信不通だった双子のふたりが会うことを、ママに知られたくなかったし、なぜかしらママはふたりの再会を望んでいないように思えたから──
それからワタシは、洗面台の鏡に映った自分の顔を凝視しながら、ワタシと同じ顔の双子のヒカリを想像した。 ──おそらく髪型ぐらいは違うだろう── ワタシと同じ年齢で結婚が決まった彼女を、常識ある堅実な女性だと思った。男に身体を売りリストカットを繰り返すワタシのようなウゾウムゾウな人間とは、大きくかけ離れた存在だろう。きっと美しく利発な妻となるだろう!
鏡に映ったワタシはいつになく微笑んでいた。




