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シーとまことのひかり  作者: ユッキー


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第1章



 最低条件は、5万円!

 

 中年男性は、ワタシを見るなり醜く微笑み声を細めていった。


 ──きみ可愛いね、5万円でいいんだね!



 初夏の日差しが容赦なく、一番町商店街の歩行者専用通路は沸騰したように膨張していた。行き交う有象無象(うぞうむぞう)(やから)も日差しを避けて屋根のあるアーケード下に集中している。有象無象とは、世にたくさんあるくだらないもの。種々雑多なくだらない人間や物。ろくでもない連中のことだ。

 もちろんワタシも有象無象のひとりだろう。たいした努力もせずに流されて生きているのだから……


 待ち合わせの時間にまだ余裕があったので、近くのスターバックスに入り、ホットコーヒーを注文し一番奥の席に座った。

 ベージュで丸いテーブルにマグカップを置き、愛用している爽やかなブルーでツバの短いふっくらとしたフォルムのキャスケットをぬいだ。

 あまり汗をかかない方だが、左手首の白いサポーターにも若干汗が(にじ)んでいる。やや薄暗い照明の下、CHANELのコンパクトで顔の化粧を確認し、読みかけの文庫本を取りだした。


 駅のコインロッカーに捨てられた二人の乳児がやがて成長し、自分が何者かを希求したすえ、都市への復讐を果たすという物語。胎児または嬰児(えいじ)の時期に母性的なものとの接触を決定的に障害された人間がたどる純粋理念的な必然を、豊潤で狂暴なイメージで描かれている。


 ワタシは双子だったが、乳児の頃に両親が離婚したため、もうひとりの兄弟には一度もあったことがない。ワタシはママのもとで育てられ、もうひとりは男のもとで育てられていると聞かされた。世の中にもうひとり同じ顔をした人間が生きているなんて、とても信じられないし不思議だった。


 ──いつの日かあうことがあるのだろうか?


 ──ずっと太平洋を泳ぎつづけていれば、偶然、大海原(おおうなばら)の真ん中で会うことがあるのだろうか?


 大都会の真ん中で、偶然同じ顔を見かけたらどんな思いがするのだろう。ワタシは思わず顔を(そむ)け、キャスケットをまぶかにかぶりなおし心臓が破裂しそうになりながら急いで立ち去るかもしれない。

 ほんとうは話してみたかったはずなのに……




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