第8話「旅立ち前夜①、王国の影はさらに深く」
光審庁
王国教会直属の宗教審問機関。
王アーサーの“光の理”を絶対とし、
それに反する者を “異端” として審問・排除する。
表向きは
「光の教えを守るための宗教行政機関」
だが、実態は
光に適合しない者を裁き、消し、世界を“光だけの秩序”に揃えるための異端審問所。
光戒師団が“武力の光”なら、
光審庁は“信仰の光”。
二つが揃うことで、王国の光の支配は完成する。
教師生活最後の夕方が、あまりにも静かすぎた。
校舎の窓から差し込む茜色が、妙に胸を締めつける。
生徒たちは帰宅し、校庭には誰の声もない。
だが、その静けさが“終わり”の足音のように思えた。
(俺が……ここを離れるのか)
現実感がまだ薄い。
でも、今日の光戒師団の襲撃を思えば逃れられない判断だ。
(俺が残れば、生徒が危険に巻き込まれる。
……分かってはいるんだ)
だがそれでも、心は粘つくような迷いを捨てきれなかった。
「先生……」
後ろから小さな声。振り返ると、ミナが立っていた。
制服の袖をぎゅっと握りしめ、必死に涙をこらえている。
「本当に……行っちゃうんですか……?」
「……まだ決めたわけじゃない。
ただ……王国の命令には逆らえないからな」
「でも……先生がいなくなったら、
学校も、私も……!」
言葉が詰まり、ミナは俯いた。
その肩が、小さく震えている。
(……守りたい)
その想いが胸に強く浮かぶ。
「ミナ。もし俺がここを離れるとしても……
お前らを見捨てるわけじゃない」
「……なら……」
ミナは顔を上げた。
目に涙を浮かべながら、はっきりと言った。
「先生は、絶対に……絶対に戻ってきてください!」
胸が締めつけられた。
こんなにも真っ直ぐ信じてくれる生徒がいるのに、
俺は逃げることを選ぶのか?
(でも……俺が残れば、生徒は死ぬ)
揺れは増えるばかりだ。
「リオ」
校舎裏から声がした。
ガルスだ。
今日は何度目だというくらい、彼は現れていた。
「……状況は悪化した。お前の決断を急がせる情報がある」
「嫌な予感しかしないが、聞こう」
「光戒師団は“第一波”だ。
本命は——“光審庁”だ」
胸が冷える。
「……光審庁って……まさか」
「ああ。
王国教会直属、“光の理”を司る宗教審問機関だ」
「なんでそんな連中が動く」
「陛下が言った。
“あの男は、光の理に逆らう匂いがする”と」
(光の理……?
なんだそれ……)
ガルスは続ける。
「光審庁は、異端と認定された相手には容赦がない。
光戒師団とは違い……あいつらは“処分”が早い」
「……そうか」
もはや逃げるしかない。
残れば、生徒全員を危険に晒す。
ミナが袖を引いた。
「先生……もう、行かないと……?」
「……ああ」
その言葉は、思ったよりも重かった。
「少し、散歩しないか」
「うん……!」
ミナと校舎周りを歩く。
夕暮れの影が長く伸び、地面が赤く染まる。
「先生、昔の話してくれませんか」
「昔?」
「なんで……騎士団をやめて、先生になったのか」
少しだけ、考える。
(なんで……だ?)
「……疲れたんだよ、戦うのに。
人を守るはずなのに、いつしか“守る理由”がなくなっていった」
「理由……?」
「戦うより、教えたかったんだ。
子どもは……救いだからな」
「先生……」
「だから、教師になった。
戦いの世界から逃げてきた……とも言える」
「逃げてませんよ」
ミナははっきりと言った。
「だって……先生は、今“戦ってる”じゃないですか。
私たちを守るために」
——胸が熱くなった。
(この子……やっぱり強いな)
言葉を返す前に、風が鳴った。
――ザァァン。
「……っ!」
塔の方向から、強烈な“脈動”。
時間が一瞬だけ歪む感覚。
「せ、先生!? 今の何……!」
「……分からない」
本当に分からない。
ただ——塔が呼んでいる。
まるで俺に反応しているように。
(なんなんだ……俺は……)
そのとき、校舎の正門で声が上がった。
「光審庁の者である!
リオ・ヴェルナー殿はおられるか!」
全身を白い法衣で固め、
胸に巨大な光紋を刻む者たち。
光戒師団とは違う。
もっと、濃い“信仰の光”。
(——来たか)
光審庁は、王国の“宗教権力の牙”だ。
罪の有無ではなく、“危険かどうか”で動く。
「先生……!」
ミナが腕を掴む。
「行かないで……お願い……!」
「……ミナ」
(連れて行くべきか……
でも、子どもを一人巻き込むなんて——)
「リオ!」
ガルスが走ってきた。
「光審庁が動いた以上……今夜中に出るんだ!
お前をここから連れ出す!」
「……分かった」
もはや選択肢はなかった。
「ミナ——置いていくしかない。
お前は生徒だ。危険な旅に連れていけない」
「…………」
ミナは、何かを飲み込むような表情をした。
「でも……」
「でも……」
「……行かせたくない……!」
涙をこぼすミナを前に、胸が締めつけられる。
(守りたかったのに……
守りたいからこそ……離れるしかないのか)
光審庁の足音が近づく。
——その瞬間。
ミナが俺の手を強く握った。
「……連れて行ってください。
先生を……守りたいんです!」
叫びではない。
ただの、静かな願い。
だが、その強さは本物だった。
(……ミナ……)
リオは、答えようとした。
その時——
空が脈動し、塔が再び微震を放った。
“——連れて行け”
と言われているかのように。
この夜、リオは決めた。
生徒を危険に晒さないために学校を離れる。
そしてミナは、リオの最初の同行者となる——。
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※本作の執筆にあたっては、
一部のアイデア整理や設定構築にAIを活用しています。
物語の最終的な構成・文章表現・キャラクター描写は、
すべて作者自身の手で仕上げています。




