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ギルド受付で働いてますが、攻略して欲しいのは自分ではなくクエストです  作者: 柚鼓ユズ


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テルマ=テリーナの手記 其の三

「はぁ……はぁ……」


 肩で息をしながら黄金龍が絶命したのを確かめたと同時に緊張の糸が切れ、思わずその場に膝を付く。そんな自分の肩に手を置き先生が声をかけてくる。


「お疲れさま。少しひやりとした場面もあったけど及第点ってところだね。最後の一撃は本当見事だった。あの状況で会心の一撃を放てるのは流石だよ。評判に偽りなしだね」


 そう先生は言ってくれたが、この時の私は己の無力さに打ちのめされていた。


「いえ……私はただ拘束された相手を攻撃しただけです。……アークさんがいなければ私は黄金龍の餌食になっていたでしょう。……情けない。私はただ、アークさんの足を引っ張っただけです」


 ただ単純に立ち回れなかっただけではない。ここに向かうまでの間、先生は道中でも黄金龍に関しての注意点を自分に色々と語ってくれていた。先生の実力を訝しんでいた自分はそれを話半分で聞き流していた。あの時先生の話に真摯に耳を傾けていればもう少しは上手く立ち回れていたはずである。


「いやいや。初見であれだけ立ち回れるなら大したものだよ。君ならきっとあと数回ほどすればソロでもこいつと戦えるだろうね」


 落ち込む自分を横目に、先生が黄金龍の素材を回収すべく解体の作業に入る。その手付きには無駄がなく、通常種よりも硬いはずの黄金龍の剥ぎ取りを瞬く間に進めていく。気付けば自分はその作業に見入っていた。


「コツは肉と鱗の付け根の間にまず刃先を横に入れておくこと。通常種のようにいきなり剥ぎ取ろうとすると骨や神経が悪さして途中で引っかかっちゃうからね。そうすると傷が付いて素材の価値が下がっちゃうんだ。今回はそのまま横で俺の作業を見て覚えておいて」


 言われるがまま先生の作業を見守る。程なくして先生が解体を終え、少し離れた場所で部位を整理してから自分の元へと戻ってくる。自分の手を差し出すように言われ、その手に黄金龍の爪を握らせる。


「報酬の分配はギルドに戻ってから改めて行われるけれど、これはおまけ。初めての黄金龍討伐、おめでとうテルマ」


 手のひらに握らされた爪と先生の顔を交互に見て、慌てて口を開く。


「そんな……受け取れません!そもそも、私はアークさんの足を引っ張っただけです。最後の一撃だってアークさんのお膳立てで放ったに過ぎません!」


 そう言って渡された爪を返そうとするものの、先生は笑って首を振る。やがて真剣な表情に戻って言う。


「気持ちは分からなくはないよ。でも、それは駄目だテルマ。内容がどうであれ、君は命を掛けてこのクエストに臨んだ。それは俺も同じだ。君が危険を避けて安全な場所でひたすら逃げ惑うようなら俺は君に止めを任せる事はしなかった。だが君は覚悟を決めて俺の指示を見事にこなし、結果自分の手で黄金龍を仕留めたんだ。これはその君の覚悟に見合った対価だよ」


 そう言って再度自分の手に黄金龍の爪を握らせながら先生が少し間を空けて言葉を続ける。


「そうだな……もし君がそれでも納得がいかないのなら、いつか君がこの先のハンター人生の中で後輩を導く側になったら彼らに同じようにしてあげておくれ。君ならきっと立派なハンターになれると思うからね」


 そういってはにかむように笑う先生。……敵わない。ハンターとしても、人としての器の大きさも。この人があの『月光陽光』のリーダーである事をこの短い時間の中で痛感する。自分は所詮井の中の蛙であった。そして、自分にとって尊敬すべき存在にようやく出会えたと思った。


「……アークさん。お願いがあります。私を……弟子にしてください。そして、貴方の元で共に戦わせてください」


 そう自分が言うと、先生は少し困った顔で笑いながら答える。


「……うーん。ちょっと難しいかな?俺もクランを組んでいる事は知っていると思うけど、面子に少し癖のある奴らばかりでね。テルマみたいに真面目なタイプは気疲れすると思うよ?それに、このレベルよりもっと危険なクエストにも当たり前のように挑まなければいけないしね」


 先生はそう言うものの、こちらも後には引けない。初めて自分が師と仰ぐべき存在を見つけたのだ。その勢いで更にまくし立てる。


「い、今すぐとは言いません!私は……これから更に強くなります!アークさんを師と仰ぎ、アークさんやクランの方々に認めてもらえるだけの実力を身に付けます!ですから!どうぞこれからよろしくお願いしますアークさん!……いえ、先生!」


 いきなり先生呼ばわりされた事に面食らったのか、ぽかんとした表情になった先生が苦笑したように言う。


「先生って……まぁ、期待しておくよ。いつか、同じクランで戦えると良いな」


 先生のその言葉に、言質を取ったといわんばかりに腹の底から大声で言葉を返す。


「はいっ!これからよろしくお願いします!先生っ!」


 かくして、先生との始めてのクエストはこうして終わりを告げた。



(……結局、先生と同じクランに加わることは叶わなかったな……いや、あくまで今は、だが)


 それ以降、忙しそうな先生の作業の合間を縫ってはクエストでの立ち回りや未知の魔物との注意点を教わった。端から見れば世間話や演習に毛が生えたものかもしれないが自分にとってはどんなクエストや座学よりも実りのある時間であった。あの時の学びがあったからこそ今の自分があると胸を張って言える。


「……今の私なら、きっと先生の隣に立つ資格はあると思うのだが、な」


 歩きながら自嘲気味にぽつりとつぶやく。


 それからの自分は更にハンターとしての高みを駆け上がっていった。先生との時間で自分の中の驕りや妙なプライドが消えたことで伸びしろが増えた事を実感した。数年後、自分が着実に成果を上げると共に、風の噂で先生のクランの話を耳にした。


「聞いたか?クラン『月光陽光』のメンバーの一人が未調査クエストに挑戦中に死亡。それによってクラン『月光陽光』は解散だとさ」


 話を聞いた時は耳を疑った。すぐにでも先生の元へと駆けつけたかったがその頃には自分もハンターとしてそれなりに名が知られていたために案件をこなすのに時間を要した。ようやくクエストを達成し、故郷に戻った先生のところに時間を確保し駆けつけたのは三ヶ月ほど経った頃であった。


「……久しぶりだねテルマ。見ただけで分かるよ。もう一流のハンターだね」


 そう言って笑う先生は少し年を取られたものの、あの頃と変わらぬ優しい笑顔で自分を迎えてくれた。


「先生……お話はお伺いしました。ですが……一度の失敗でクランを解散するというのは……」


 自分の言葉に先生が一瞬悲しげな顔を浮かべてから自分に言葉を返す。


「俺の判断ミスで救えるはずの命を失い、クエストも失敗した。もう俺にはハンターを続ける気になれないのさ」


 そう力なく話す先生に、それでも慎重に言葉を選びながらいつかハンターとして復帰して欲しいという気持ちを何度も伝えた。だが、自分だけではなく多くの人からも散々言われたであろう先生の首を縦に振らせる事は出来なかった。


「では……先生はこれからどうされるおつもりですか?」


 自分の問いに、先生が少し考えてから答える。


「そうだね……ひとまずは地元のギルドの受付でお世話になろうと思うよ。つい先日、そんな話を貰ってね。クエストに向かうハンターへのサポートやアドバイスも出来るし、未知のクエストの調査にも役立てる事はあるだろうからね」


 先生のその言葉に一抹の希望を見出す。ギルドに属する以上、完全にハンターの世界から離れるわけではないからだ。……なら、今の頑なな状態の先生に即座に復帰を求めるのは逆効果だと思った。


 ならば、今は自分の強さと立場を磨き続ければ良い。いつか先生の帰る場所を私が築いておけば良い。先生はいつか必ず帰ってくる。なぜなら、先生は自分が認めた数少ない生粋のハンターなのだから。


「……わかりました。今は先生の気持ちを尊重いたします。それと、これから定期的に顔を出しに来ますからね」


 自分の言葉に、先生がまたあの日の時のように笑った。



「……街が見えたな。宿を取ってからギルドに向かうか、それともこのまま真っ直ぐ先生の元に向かうべきか……」


 昔を思い出しながら歩いていく間にも街はどんどん近付いていく。少し悩んだものの先生の顔を思い浮かべるうちに、やはりこのまま先生の元へと向かうことにする。


(……朝のうちに水浴びと着替えは済ませたし、汗もかいていない。そ、それに先生が仕事終わりの時間まで待てば二人で食事や他にも……)


 そんな事を思いながら歩いていると、気付けば目的地である街の前へと辿り着いていた。我に返って慌てて先生のいるギルドに続く道を早足で向かう。


「……いかんな。平常心だ私。半年以上ぶりとはいえ浮かれる事のないように挨拶をせねば。……うん?何やら中が騒がしいようだが……何だ?」


 何やら若者の騒ぎ立てる声が外にまで響いてくる。何かあったのだろうか。


(……落ち着け私。先生がいきなり中にいてもクールに振る舞うのだ。私なら出来る)


 そう自分に言い聞かせ、ギルドの扉へと手をかけた。


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