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ギルド受付で働いてますが、攻略して欲しいのは自分ではなくクエストです  作者: 柚鼓ユズ


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テルマ=テリーナの手記 其の二

 アーク=ペンレッド。それが彼の名だ。結成されてまだ日が浅いながらもギルドが達成困難と思われたクエストを次々と達成しているクラン『月光陽光』のリーダーである。

 自分がこれから向かおうとしている黄金龍の討伐はおろか、白銀龍との番いの同時討伐クエストまで達成したという評判は自分も耳にしていた。当然、自分が未だ対峙した事の無い魔獣や龍種を数々討伐している。


「ちょうど彼のクランのメンバーの一人が先のクエストで負傷したらしくてね。しばらくクランの活動を休むようで君の話を伝えたらちょうど手が空いているらしく彼一人ではあるが快く今回君との同行を了承してくれたよ」


「……わかりました。お名前と評判は私も聞いております。彼ほどの実績を持つ方であれば問題ありません。では、クエスト前の面談手続きをお願いします」


 こうして当日、教官より聞かされた待ち合わせ場所に向かうと、先に着いていた先生が外でタバコを吸っており、先程の挨拶となった次第である。


(……思えば、そんな失礼な態度を取ったのにクエストに向かう道中も先生は私に黄金龍の注意点や特性を事細かに説明してくれていたというのに、最初の印象で先生を軽んじて話半分で聞いていたな……愚かにも程があるぞ、当時の私)


 本当にこの人があの『月光陽光』のリーダーなのか。仮にそうだとしても、あの活躍はこの人以外のメンバーによるものなのではないか。失礼にもそんな事を考えていた。


「……メンバーと仲が良いというだけで、手柄や素材のおこぼれに預かるような者がいるクランを山ほど見てきたとはいえ、先生の秘めたる強さと凄さを初見で見抜けなかった私は本当に馬鹿だったな」


 ともあれ無事に初めての顔合わせと挨拶を済ませ、日時を調整して黄金龍の討伐へと向かう事となった。


 赤の月 十八日


『メバツ方面へ向かう道はすこぶる順調。気候も安定しており、道中に魔獣や盗賊の類は見受けられず。強いて言うならば途中で見かけた荷馬車を使う商人たちが岩場の多い道を迂回していたのが見受けられたため、国の方へ道路の整地を進言する余地があるかと思う』


 夜も更けてきたため一旦歩みを止め野営の準備を始める。程なくしてテントと焚き火を用意し、焚き火の前に座り日記を書きとめた後、手にした御守りを見つめながら再び物思いにふける。


「……あの時の出来事がきっかけだったな。私が先生をお慕いする事になったのは」


 クエストが始まりいざ黄金龍と対峙したものの、机の上で学んだ当時の資料はまるで役に立たなかった。

 二連続で火球を放つと書いてあったはずが実際は三連続で放たれたり、他の龍種とは異なり尻尾に猛毒の棘が仕込まれている事が戦闘の際に巻き添えをくらった小型獣を目の当たりにして知るなど、予想外の行動を取る黄金龍に対処するのがやっとであった。


「いいかテルマ!最初の火球を避けたらそのまま前に進めっ!横に避けると次の火球が飛んでくる!それとあいつが地面で後ろ脚を引いたら絶対に正面に立つな!回転して尻尾を前に繰り出してくるぞっ!」


 黄金龍の猛攻を回避するのがやっとの自分に、確実に攻撃を叩き込みながら自分にアドバイスする先生。程なくして黄金龍の注意は完全に先生一人へと向けられていく。相手にとって自分は恐れるに足らない対象と認識されたと悟り、思わず叫ぶ。


「くそっ……!くそっ……こんな筈ではっ!」


 叫びながらこちらに背を向ける黄金龍へ一撃を叩き込もうと地面を蹴り跳躍する。龍種の共通の弱点部位とされる翼に向かってメイスを叩きつけようとした瞬間、先生の声が響く。


「馬鹿っ!やめろテルマっ!そこで踏みとどまれっ!」


 その声にびくっと反応してしまい、メイスを振りかぶる手が一瞬止まる。せっかくの不意打ちのチャンスを止められた事に抗議の視線を向けようとしたその瞬間、黄金龍が翼をくねらせ螺旋を描くような動きでその場で垂直に跳躍した。眼前に迫る翼を文字通り紙一重で回避した形となった。


「くうっ……!」


 間一髪のところで翼の一撃は喰らわなかったものの、間近で羽ばたかれた風圧の衝撃を受け、そのまま地面へと勢いよく叩き付けられてしまう。呼吸が詰まり意識が飛びそうになるのを必死で堪える。


「か……はっ……!」


 どうにか立ち上がるものの、先程の一撃でメイスを取り落としてしまったため慌ててメイスを探す。視線を動かし地面に転がるメイスを視界に捉え、そこに駆け出そうとした瞬間、黄金龍がこちらに飛び掛かってくる。


「しまっ……!」


 突如標的を自分に変えた黄金龍の動きにまったく対処出来ずにその場に固まる。黄金龍の鋭い爪が自分の四肢に食い込むことを覚悟したその瞬間、先生の咆哮にも似た絶叫が響く。


「うおおおおぉぉぉっ!」


 自分の体に食い込むはずの爪が先生の両手に構えた剣によって食い止められている。少しの膠着の後、先生が黄金龍の一撃を弾き返す。


「アークさんっ……!」


 思わず叫ぶと先生はこちらに振り返る事なく叫ぶ。


「簡単に諦めるなテルマっ!今すぐ武器を取って右斜め前に向かって走れっ!」


 その言葉に飛び退くように体が動く。言われるがままメイスを手に取り、言われた方向へと走り出す。背中に先生の声が響く。


「そこで思いっきり前に飛べっ!飛んだら振り返って武器を構えろ!」


 言われた通りに走り幅跳びの要領で地面を蹴り前へと飛ぶ。着地と同時にメイスを構え振り返ると同時、先生が黄金龍の尻尾を切り落としていた。尻尾を切られた痛みと衝撃で黄金龍がこちらへと真っ直ぐ向かってくる。先程の記憶が蘇り思わず横へ逃げたくなる衝動を必死で抑える。


(……逃げない!あの人が指示を出したという事はきっと何かある!)


 そう思った次の瞬間、こちらに駆け出そうとした黄金龍の足元からばちばちと激しい音を立てて電流が黄金龍を包む。電撃の衝撃をまともに受けて黄金龍の動きが止まる。おそらく先生が隙を付いて仕掛けた『電撃罠』が発動したのだと悟った。


(……黄金龍の隙を付いて咄嗟に罠を仕掛け、なおかつ私を庇い罠の方へ誘導した!?馬鹿な!だが……これは間違いなくあの人の仕業だ!)


 そう自分が思っていると、先生の大声が響く。


「今だテルマっ!黄金龍は眉間が弱点だ!お前の全力の一撃を叩き込めっ!」


 先生の声を聞いた次の瞬間、全力で跳躍し渾身の一撃を黄金龍の眉間へと叩き込む。ぐしゃり、と頭部を砕く感触がメイスを通して伝わる。断末魔の悲鳴を上げながら黄金龍が地面へと崩れ落ちた。



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