大変だけど、やりがいのある職場です
「ほら、見えにくいけれどあそこの陰に採掘ポイントがあるのが分かるだろう?素材ツアーで回るならここのポイントは覚えておいた方が良い」
そう言って普通に歩いていただけでは見落としがちになる採掘ポイントを指差しながら言う。バンツたちが真剣に地図にチェックを付けながら頷く。
「よし、じゃあ皆であのポイントを交代で採掘しておいで。全員の採掘が終わったら戻りながら次のポイントに向かおう」
そう自分が言うと三人が元気よくピッケルを手に採掘に向かう。少し時間がかかるだろうと地面に座りタバコに火を付けるとテルマが自分の隣に座る。
「……改めてお疲れ様でした、先生」
そう言ってテルマがこちらに向かって微笑む。テルマの方に煙がいかない事を確認してから煙を吐き出し言葉を返す。
「いやいや。テルマこそお疲れ様。大変だったろうけど何とか無事に終わって良かったよ。彼らの意識も変わってくれたからね」
そう言って採掘真っ最中の三人を見る。どうやらレアな鉱石を採掘出来たらしく三人で盛り上がっている。そんな彼らを眺めているとテルマが声をかけてくる。
「……やはり、先生の腕は全く衰えていませんね。今回改めて先生の凄さを目の当たりにしました」
そう言って真剣な顔でテルマがこちらを見る。テルマが更に何か言おうとする前に自分が口を開く。
「いやいや。この歳だし昔の様にはいかないさ。今回だってやっとの思いで対処したんだからね」
そう自分が言うものの、テルマがすかさず言葉を返す。
「いえ。先生の腕は決して衰えておりません。それどころか歳を重ねてより円熟したように見受けられます。事実、私にはまだ先生の様に支給品の粗末な武器や下位装備であのように火炎龍に対処は出来ません」
どうにも自分を過大評価しがちなテルマを宥めるためにもう一口タバコを吸ってからテルマに声をかける。
「おいおい。天下のSSランクハンターが口にする台詞じゃないだろう。上位や特級の火炎龍ならともかく、あのクラスの火炎龍ならテルマにだって余裕で仕留められるって」
自分の言葉にテルマが間髪入れずに言葉を返す。
「えぇ。確かにそれは可能かと思います。ただし、先生とは違い彼らの安全や気遣いを完全に無視して対象を仕留める事だけに専念すればの話ですが」
どうにもこちらを持ち上げるような発言が続くため、むず痒い気持ちになる。そう思っているとテルマがこちらを見て真剣な表情で言う。
「……先生。改めてお願いです。今からでもハンターに返り咲く事は出来ないでしょうか。出来ればその……わ、私とクランを組んでいただきたいのですが」
テルマの言葉にタバコの煙を吐き出し、吸殻を携帯灰皿にしまいながら言葉を返す。
「……悪いね。何度言われてもそれは無理だよ。そもそも引退して何年も経っている俺が引く手あまたのテルマと一緒にクランを組むなんて事は協会や他のハンターが許す筈がないからね」
現役を退いた自分と、ハンターとして最盛期のテルマではとても釣り合いが取れない。ただでさえ名の知れたハンターたちからクランの誘いが殺到しているテルマならもっと適任なパートナーがいるはずだ。そもそも自分にその気がない。そう思い自分がそう言うとテルマが語気を荒げながら言う。
「誰が何と言おうと構いません!私は……また先生と共にクエストに出たいのです。私が今もクランに属する事なくソロメインでハンターを続けているのは先生以外にクランを組む気がないからです!」
真剣な表情でそう言うテルマに対し、こちらもしっかりとテルマの目を見て話す。
「うん。そこまで俺の事を思ってくれるのは素直に嬉しい。……ただ、俺はもうハンターである事を辞めたんだ。今の俺はただの受付兼雑用係だよ。ハンターである俺はあの日で終わったんだ」
そうはっきり言うと、テルマが少し躊躇いがちになりながら口を開く。
「……先生があの事を今も悔やんでいる事は承知しております。ですが、あれは決して先生のせいでは……」
なおも会話を続けようとするテルマを手で遮って会話を中断する。そのままこちらへ戻ってくるバンツたちを指差しながら言う。
「それにね、今の自分も結構楽しいんだよ?未来ある若者の成長や挑戦を見守れる今の状況がね。後進を育てるっていうのも案外悪くないもんさ。テルマは勿論、今の彼らみたいにね」
そう言ってバンツたちを指差す。欲しかった強化素材を見事採掘で掘り当てたのであろう三人が、手に鉱石を抱えて満面の笑顔でこちらに戻ってくるのが見える。そんな彼らを見て苦笑しながらテルマが言う。
「……分かりました。今は素直に引き下がる事にします。……ですが、私もまだ諦めていませんので。いつか必ず先生には私と共にクランを組んでクエストに出て貰いますから。私の諦めが悪い事は先生が一番良くご存知でしょうから……ね?」
そう言ってテルマがこちらに満面の笑みを浮かべて言う。……それが分かっているだけに自分としては苦笑する他なかった。
「……まぁ、覚えてはおくよ。ただ、俺の考えは変わらないって事だけはそっちも覚えておいておくれよ?」
その後、更にいくつかの採取ポイントを巡り、三人がその後採取ツアーを回る際の注意点を念入りにレクチャーして無事にクエストを完了させた。
「……はい。確かに支給専用の道具の返却を受け付けました。これにてクエストは完了です。皆様お疲れ様でした」
無事ギルドに戻り、諸々の手続きを済ませる。解散する前にバンツたちが自分とテルマの前に集まり声をかけてくる。
「アークさん、テルマさん。本当にありがとうございました。俺たちが間違っていました。これからはしっかり段階を踏まえてクエストに挑む事にします。そして、次は必ず自分たちだけであのクエストをクリアします」
三人の様子がクエストに出る前とはがらりと変わっているのは誰の目から見ても明らかであった。これからの彼らの成長が楽しみだと思いながら声をかける。
「うん。君たちの今後の活躍に期待しているよ。まずはさっき集めた素材でしっかりと武器や防具を強化して次のクエストに行くように。まだ足りない素材があれば採取クエストを何回か回れば集まるだろうしね。くれぐれも無理をしないように。……それと、仲間を大切にね」
自分の言葉に全力で頷く三人に、テルマがこほん、と咳払いをしながら声をかける。
「……お前たち、今の先生の言葉を忘れるなよ。もしお前たちが今の気持ちを忘れて以前の様な状態に戻った際には私が直接指導するからな。それこそ死んだ方がマシだと思うレベルでな」
その一言で空気が一瞬で張り詰める。壊れたおもちゃの様に全力でこくこくと頷く三人に、少し照れくさそうな顔でテルマが何かを三人に差し出す。順番にそれを受け取り、それを見た三人が驚いて口々に声を上げる。
「こ……これは火炎龍の逆鱗じゃないですか!?こ、これって狙っても中々取れないレア素材ですよね!?」
「し、しかも俺たち全員にですか!?ほ、本当にこれ貰って良いんですか!?」
「……これ、俺たちが自分たちだけで火炎龍を狩れるようになっても、十回に一回……それも誰か一人が手に入ればラッキーってくらいの素材ですよね……?」
興奮しきりの三人を見て、慌ててテルマが三人に向かって叫ぶ。
「静かにしろっ!周りに聞かれたら色々面倒な事になるだろうが!……まぁ、今回の火炎龍の報酬素材は先生が全て放棄したから全て私の手元に入る事になったからな。無効とはいえ、お前たちが初めて火炎龍と対峙したのは事実だ。その記念として受け取っておけ。他の足りない素材はお前たちが実力で今後集めていくように」
そう言ったテルマを見て、受け取った逆鱗を大事に手に取り三人が口々に興奮を抑えながら言う。
「俺……いや、俺たち一生テルマさんとアークさんに着いていきますっ!」
「はいっ!何年先になるか分かりませんが、お二人のようなハンターになれるように頑張りますっ!」
「これ……俺たちの御守りにしますっ!どんな時もこれを見て励みにします!」
そう言って自分たちに再度礼をいい、互いの逆鱗を手にして盛り上がる三人を見ながらテルマに声をかける。
「……ありがとな。一つ……いや、下手すりゃ二つはお前さんの持ち出しだろ?あの逆鱗」
そう言ってテルマのほうに振り返る。自分の問いににこりと笑って言葉を返す。
「……私にはもう余るくらいの素材ですので。上位の火炎龍の素材ですら持て余すくらいの数を仕留めているんですよ?まぁ、若手に少しぐらいのエールを送るくらいの事はしても良いでしょう。かつての先生のように」
そう言って興奮しながら加工家へ向かう三人の後ろ姿を見つめるテルマ。後進を育成したいと思う自分の気持ちが少しは伝わっただろうか。そう思っているとテルマが不意に口を開く。
「さ、彼らの件はこれでひとまず終了です。先生も明日はお休みですよね?今日はこれからとことん付き合って貰いますから。まずは軽く食事をして、それから飲みに行きましょう。……今夜は寝かせませんよ?」
シチュエーションこそ違えばテルマの様な美女に言われて嬉しい言葉なのだが、全然嬉しくないのは何故だろう。
「……いや、程々にしておいて貰えないですかねテルマさん?きっとまたハンター復帰云々の話になると思いますし……」
そう自分が言うものの、自分の腕をがしっと掴んでテルマが言う。
「当然です。ですが、それだけではありませんけどね。様々な業務やクエストを済ませてようやく久しぶりに先生のところに来れたんです。積もる話もありますしゆっくり付き合って貰いますから。……それに、やっと二人っきりになったんですし」
後半は声のトーンが小さくなり、テルマが何を言っているのか聞き取れなかった。だが、こうなったら誘いを断る事は無理だと早々に諦め、やれやれといった感じで口を開く。
「……分かったよ。ただ、あんまり高い店は勘弁してくれよ。日々節制している自分には厳しいものがあるからな」
自分の言葉にテルマがぱあっと顔を明るくして答える。
「はい!代金は気になさらずに!伊達に多くのクエストを日々こなしている訳ではありませんので!なんなら店ごと貸し切りますので!」
そういって胸を張るテルマ。彼女なら本当にやりかねないと思い慌てて止める。
「いや、それは流石に大丈夫だよ。それに年下の子に奢られるってのはなぁ……ま、ひとまずタバコが席で吸える場所ならどこでも良いか。もちろん割り勘でな」
こうして、ひとまず新人たちの件が落着し、テルマに引きずられる様にして自分は酒場へと向かう事になった。道すがら時計を見てため息をつく。どうやら、自分が家に帰れるのはまだまだ先になりそうである。




