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ギルド受付で働いてますが、攻略して欲しいのは自分ではなくクエストです  作者: 柚鼓ユズ


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問題解決、新人のアフターケアにも努めます

「はあっ!」


 深く息を吐いてテルマが火炎龍に向かう。火炎龍が反応するよりも早くテルマがメイスで一撃を火炎龍の腹に叩き込む。その一撃の痛みと衝撃で火炎龍が悲鳴のような鳴き声をあげる。その攻防を横目で観察しながら思う。


(……流石だな。昔よりも遥かに一撃が速いし重い。彼らに危険が及ばなければもうテルマだけで充分だろう。まぁせっかくだから自分も手伝おう。このランクの火炎龍なら今の自分でもどうにかなるだろうからな)


 そう思いもう片方の火炎龍の方へと駆け出す。自分の存在を認識したのか即座に自分へ爪を振りかざしてくる火炎龍の攻撃を寸前で回避し翼を切りつける。リーチの短い片手剣での一撃のため翼を分断するとまではいかないものの、確実に翼の一部を切り裂く事に成功する。


(こっちは雌の火炎龍か。雌は前脚の爪に毒を持っているが、先程のテルマの一撃で片方の爪が破壊されているからもう片方の爪にさえ警戒すればまず安心だな)


 そう思い更に相手の懐に潜り込む。片手剣のみで攻めなければいけないため距離を取られる前にインファイトで攻める。


「ふっ!」


 手数を稼ぐ必要があるため、暴れる火炎龍の反撃を避けつつ火炎龍を切りつける。少しずつ火炎龍の装甲である鱗を剥がすように何度も斬撃を繰り返す。着実にそれを繰り返していると、テルマと対峙していた雄の火炎龍の悲鳴のような雄叫びが聞こえる。見ればテルマのメイスの先から飛び出た刃が火炎龍の尻尾を切り落としていた。


(形状変化が可能な特注仕様のメイス。状況に応じて打撃にも斬撃にも対応出来る分、使いこなすにはかなりの鍛錬が必要なのに相変わらずの才能だな)


 あの様子ならテルマの方は仕留めるのは時間の問題だと判断し、自分は目の前の火炎龍に専念する事にした。手数を叩き込んだ甲斐もあり、胴体の鱗を皮膚ごとかなりの箇所の部位破壊に成功していた。

 胴体へのダメージはもう充分だと判断し、ここから翼への攻撃に切り替える。手負いの状態で下手に飛ばれて空中から火球を吐かれるのが一番厄介だからだ。空中からの急降下での攻撃も防げるため一石二鳥である。


「はっ!」


 支給品の片手剣のため、時間はかかったが何度目かの斬撃で翼の破壊に成功する。これで自由に空中を飛び回る事はもう不可能だろう。


(よし。これでもう大丈夫だ。テルマが相手している方の火炎龍は見たところもう瀕死のようだし、こっちも時間の問題だな)


 そう思った次の瞬間だった。テルマがこちらを見ながら叫ぶ。


「馬鹿っ!どうして出てきた!引っ込んでいろっ!」


 テルマの叫びは自分ではなく、物陰から姿を現したバンツに向けてのものだった。がくがくと足が震えているものの、両手で斧を構えながらバンツが口を開く。


「お……俺だって!俺だってやれるんだ!」


 バンツのその叫ぶような声に真っ先に反応したのは自分でもテルマでもなく火炎龍だった。攻撃の対象を自分からバンツに瞬時に変え、口を大きく開き火球を吐き出す構えを取った。


「ひいっ……!」


 勢いで飛び出したものの、我に返ってこの後自分に向けて火球が放たれる事を悟ったバンツが小さく悲鳴をあげる。


(……まずいっ!今のバンツの装備じゃあの火球を一撃でも喰らえば致命傷だ!そうなりゃ回復薬程度じゃ間に合わない!)


 そう思った瞬間、反射的にバンツと火炎龍の間に向かって駆け出していた。


(この距離なら……間に合うっ!だが……)


 固まるバンツの前に立ち、今まさに火球を吐き出さんとしている火炎龍から視線を外さずに剣を握る手に力を込める。


(いや……もう考えている余裕はない。不安だがやるしかない。最悪、バンツだけは守ってみせる!)


 意を決し剣を力強く構える。それと同時に自分とバンツに向かって火炎龍から咆哮と同時に火球が放たれる。一直線にこちらへ飛んでくる火球に向かって思わず吠える。


「……はあああああっ!」


 全力で剣を振るい、火球を分断する。二つに分かれた火球がそれぞれ地面に炸裂し周囲に轟音が響く。同時に自分の手にした片手剣の刀身が粉々に砕け散った。


「……やっぱりこのランクとはいえ、火球の威力には耐え切れなかったか。まぁ、無事に切れただけでも良しとしよう。さてと……」


 後ろを振り返ると、目の前の光景を目の当たりにして腰が抜けたのか手にした斧を取り落とし地面に突き立てたままバンツがその場にへたり込んでいる。そんなバンツに声をかける。


「……悪いね。少しこいつを借りさせて貰うよ」


 そう言って返事を待たずに斧を手に取り、己の吐き出した火球を切り裂かれ戸惑う様子を見せている火炎龍に向かう。


「……斧は得意じゃないんだが、この際贅沢は言えないからね。ま、このランクなら何とかなるだろう……さっ!」


 瞬時にその場を駆け出し、火炎龍の眼前まで移動する。火炎龍が反応するよりも早くその首を斧で両断する。首を失った胴体が地面に倒れ込むのを見届けテルマの方を見れば、既にもう一体の火炎龍を仕留めてこちらに駆け寄ってきた。


「……流石です。やはり腕は全く衰えていませんね、先生」


 どこか高揚したように言うテルマに苦笑しながら言葉を返す。


「いや、本来なら火球を切ると同時にカウンターを仕掛けたかったんだけどね。流石にあの支給品じゃ火球を切り裂くのが精一杯だったよ」


 そんな会話をテルマと交わしていると、物陰からサンジとマンジが姿を現した。高級回復薬が効いたのかマンジの様子も落ち着いているようだ。物陰から一部始終を見ていたのか恐る恐るといった様子で自分に声をかけてくる。


「い……今のはいったい……!?け、剣で火球を切り裂くなんて……」


「そ、それも確かに凄いがその後だ!火炎龍の首を一撃で切り落とすなんてありえねぇ!ただの受付のおっさんがそんな事出来るなんて……」


 そんな二人を見てため息混じりにテルマが言う。


「……お前たち、少しは先人の過去の資料を見て知識を学べ。大方、クエスト攻略とランク上げに躍起になってそれしか頭にないのだろうがな。脳筋のお前たちでも聞いたことくらいはあるだろう。伝説のクラン『月光陽光』という名を」


 テルマの言葉に今までその場にへたり込んだままのバンツが我に返ったのか口を開く。


「な、名前くらいは聞いたことがあります。げ……『月光陽光』ってあのクエスト成功率九割超えの伝説のクランですよ……ね?」


 バンツの言葉にテルマが頷き言葉を続ける。


「そうだ。まだ我々ハンターに正式なランク制度が無かった頃、当時攻略不可能とされたクエストを次々と攻略していったクランがいた。もしあの頃に今のようなランク制度があったならあの時点でSランクどころかSS……いや、未だ見ぬSSSランクに祭り上げていられてもおかしくなかっただろう」


 そこまで言ってテルマがこちらを指差して言う。


「その『月光陽光』のメンバーであり、クランのリーダーだったのが先生……アーク=ペンレッドだ。お前たちがいかに無礼な態度を取っていたかこれで分かったか?」


 テルマの言葉に信じられないといった様子で三人が絶句する。慌てて三人に声をかける。


「……昔の話だよ。皆、変にかしこまらなくて良いからね。それにご覧の通り、今はただの受付のおじさんだからさ」


 そう自分が言うものの、三人の緊張は解ける様子はない。そんな中でバンツが恐る恐る自分に声をかけてくる。


「で……でも何でそんな凄腕のハンターが今ギルドの受付なんかで働いているんですか……?」


 ……その質問に答えることを躊躇っていると、テルマが即座に自分に代わって三人に声をかける。


「……今はそんな事より結果を受け入れろ。お前たち、この結果を見てどう思う?予期せぬ乱入は確かに私も想定出来ないイレギュラーな事態だったが、それ以前に最初の火炎龍と対峙した時に誰も何も出来なかったな?私が庇う間もなく早々に一人が倒れ、他の二人は撤退も反撃も出来ずに固まっていた。……まぁ、私も不測の事態でとにかく危機を凌いで救援を呼ぶのが精一杯だったからあまり強くは言えないがな」


 声の調子を少し落としてテルマが言う。顔にこそ表さないものの、自分に任されたにも関わらず三人を一時的にとはいえ危険な思いをさせたことに負い目を感じているのだろう。話題を逸らすためとテルマのフォローに回るために自分が咄嗟に口を開く。


「まぁまぁ。そんなに気にするなよテルマ。そもそもこのエリアに別のモンスターが乱入するなんて事態が百回に一度あるかないかの確率なんだからさ。今回はイレギュラー中のイレギュラーだ。結果的に解決したから良しとしよう」


 そうテルマに言った後、三人の方に振り返って声をかける。


「さて……もう呼び捨てで呼ばせてもらうよ。サンジ、マンジ、バンツ。いざ実際に火炎龍と対峙して分かっただろう?今の君たちの装備や立ち回りじゃまだまだだって事が。仮の話になるけれど、君たちが装備をきちんと整え事前に準備しておけば少なくとも今と同じ状況だったとしても確実にダメージを抑えられた。それを怠ったから今回いきなり大ピンチに陥ったんだ」


 自分の言葉に三人が俯いたまま無言で話を聞いているのを確認し、更に続ける。


「もし君たちが今の時点で整えられる範囲での装備をしっかり整えていれば、最初に一撃を喰らったとしても各々でリカバリーが出来たはずだ。君たちが今こうして無事なのは傍にテルマがいたからだ。紙装甲の君たちを守りつつ俺やギルドに危機を知らせてくれた。それについては改めて感謝するように。いいね?」


 そう言って慌てて頭を下げようとする三人をテルマが手で制して言う。


「……構わない。先生はそう言ってくれたが私が付いていながらお前たちを危機に晒した事は間違いないからな。その点についてはは私も詫びさせてもらう」


 そう言ってテルマが頭を下げようとした瞬間、三人が慌てて口々に叫ぶ。


「や、やめてください!テルマさんは悪くないです!」


「そうです!お、俺たちがアークさんの言う通りしっかり段階を踏んでクエストに挑んでいれば!」


「俺たちが間違ってました!お二人に謝るのは俺たちです!」


 そう言って必死になる三人を見て、もう大丈夫だと思った。危機が去り問題が解決した事をギルドに知らせるためにクエスト完了の合図の狼煙を上げてから皆に声をかける。


「……さてと。君たちには悪いけどテルマが最初に言った通り、テルマと俺が介入してしまった以上せっかく仕留めたこの火炎龍の素材は提供出来ない。それは理解して欲しい」


 三人が真剣な顔で頷く。その顔に不満そうな様子は見受けられない。安心して言葉を続ける。


「うん。理解が早くて助かるよ。ただ、このまま帰ったんじゃ君たちも気の毒だ。だから、せめてこの辺りの素材の採取ポイントや採掘ポイントを教えておこうと思うんだけれど……どうかな?聞いておくかい?」


 自分の言葉に三人が目を輝かせ揃えて口を開く。


『はいっ!是非よろしくお願いします!アーク先生!』


 三人の言葉にテルマがすかさず叫ぶ。


「……だから!気安く先生と呼ぶなと言うのに!……まぁ、今だけだからな。あと、お前たちはもう少し先人の歴史やクエストに関する知識を勉強するように。次はないからな」


 やれやれといった様子でテルマが言う。かくして、予定されていたクエストの終了時間までの時間を利用して三人のための素材ツアーを急遽開催する事となった。


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