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ギルド受付で働いてますが、攻略して欲しいのは自分ではなくクエストです  作者: 柚鼓ユズ


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思うことは多々あれどどうにか落着です

「あははは!な……なんだこれ……どうして急に笑いが……あははは!」


 グラスを手から落として笑いながらその場にうずくまる師匠。何が起きたのか理解出来ずにいるとナナカさんが口を開く。


「計算通りっすね……クルスさん。体力、武術、魔力に実戦経験。それら全てにおいて私は貴女に敵いませんが、唯一私が貴女に勝るものがあるっす。それが薬に関する知識とスキルっす。葡萄酒と貴女のグラスに無味無臭の笑い薬と若干の麻痺効果のある薬を仕込んでおいたっす。見抜かれないかと緊張しましたが気付かれなくてホッとしてるっす」


 ナナカさんのまさかの言葉に呆気に取られていると、うずくまって笑い続けている師匠がやっとという状態で笑いながらどうにか答える。


「あははは!ひっ……ひぃ……ナ、ナナカお前ボクにこんな事をして……あはっ!あははは……!」


 怒ろうにも笑いと麻痺が体を蝕んでいるのだろう。師匠が必死に立ち上がろうとするが動けずに地面でお腹を抱えて笑う光景は中々シュールである。


「クルスさんが何か食事に仕込もうとしているのはすぐに分かったっす。やけに私にここを離れるようにあれこれ指示を出していましたからね。アークさんに何か仕掛けるようならと私も事前に用意しておいたっす。残念ながら予想が当たったので遠慮なく私も隙を付いて仕込ませて貰ったっす」


 二人の会話に口を挟む事が出来ず立ち尽くす。ひとまず二人のやり取りを見ているとナナカさんが懐から小瓶を取り出して言う。


「さて、ここに解毒薬があるっす。これを飲めばすぐに笑気も麻痺も解けるっす。私の言う事を聞いてくれたらこちらをすぐにお渡しするっす」


 師匠の前でナナカさんが自分の時と同じような小瓶を取り出し師匠の前に見せる。


「わ……分かった!あははは……はっ、早くそいつをよこせナナカ……!ひっ、ひぃ……お腹が痛いぃ……」


 笑いすぎで息が苦しくなっているようで苦しげな師匠。流石に少し気の毒になってきたのでナナカさんに声をかけようとすると、ナナカさんが先に口を開く。その口元には歪んだ笑みが浮かんでいる。


「よこせ……ですか?クルスさぁん……まだ反省が足りないんじゃないっすかぁ?こういう時は何て言うか……貴女ほどの人なら分からない訳じゃないっすよねぇ……?」


 そうつぶやくナナカさんの顔は紅潮しており、声にもどこか熱を帯びている。まるでこの状況を楽しんでいるようだ。その証拠についには動けなくなった師匠に対して近付き、その顔を寄せて更に攻め立てるような口調で続ける。


「ほらほらクルスさん……こいつが欲しいんすよねぇ……?ほら、欲しかったら何て言えば良いですかぁ?私に聞こえるようにちゃんと大きな声で言ってくださいよぉ……」


 ……ナナカさんの心に秘めた一面を垣間見てしまった気がする。彼女の中でどうやら何かいけないスイッチが入ってしまったようだ。その間にも笑いと麻痺で痙攣し始めている師匠を見て流石にこれ以上は良くないと思い、ナナカさんの肩に手を置いて声をかける。


「……ナナカさん。もうその辺で許してあげてください。師匠も流石に堪えたと思うので」


 自分の声に我に返ったようにびくりと肩を震わせ、すぐにナナカさんがいつもの様子に戻った。


「……はっ!す、すみませんっ!つ、つい目の前で悶えるクルスさんに興奮して良からぬ事を口走ってしまいました……そうっすね。私のためにもこの辺りで止めておくっす」


 そう言いながら懐から一枚の紙を取り出し、びくびくと震える師匠の前に置きながらナナカさんが話しかける。


「ただ、その前に約束してくださいクルスさん。もう二度とアークさんに良からぬ事でエルフの技術を悪用しないと。あと、今の私の件については師匠を諌めるためのやむを得ない行為のため不問に付すと。それらを約束してここに署名して欲しいっす。そしたらすぐにこの解毒薬をお渡しするっす」


 さらりと今の行為の報復を回避するための条件も盛り込むあたりにナナカさんのしたたかさと危機回避能力を感じる。ナナカさんのその言葉に震える手でどうにか署名し、即座に手渡された解毒薬を一気に飲み干す師匠。その様子を見て頷くナナカさん。


「……はい。これでオーケーっすね。あ、お手数ですが証人としてアークさんのサインをここにお願いするっす。……はい、結構です。じゃ、ひとまず先にクルスさんと私が薬を入れた食材と酒を処分してくるっす。アークさんは気にせず食事を続けていて欲しいっす。残されたやつは安全な食材なので飲み食いしいても問題ないですよ」


 そう言って師匠と自分のサインがされた書類を懐へとしまい、カートへ一部の食材と酒をひょいひょいと積んで奥へと向かうナナカさん。その背中を見送りつつ足元の師匠へ声をかける。


「……大丈夫ですか師匠?立てます?」


 薬が既に効いてきたのか、笑いは止まったもののいまだに床にうずくまった状態で息も絶え絶えに師匠が答える。


「はぁはぁ……わ、分かったかいアーク。ボクがあいつを一時追い出した理由が。時折あいつはボクですら制御出来なくなるんだよ。まさかここでこの規模のものをやられるとは思わなかったけどね……」


 流石に師匠をこのまま回復するまで床に這いつくばったままにしておくのは気の毒だと思い、師匠を抱え上げてソファーへと向かう。


「……ふふっ。ここにきてようやく役得かな。何ならこのままボクをベッドに運んでくれても構わないんだよ?」


 軽口を叩けるほどには回復してきたようで、お姫様抱っこの形で抱き上げたと同時に師匠が言う。


「……今すぐ背中から落とした方が良いですか?それともこのままナナカさんの元へお届けしましょうか?」


 自分の言葉に師匠が思わず腕の中で身を震わせて答える。


「……ソファーで良い。いや、ソファーでお願いします」


 先程の事があるからか素直にそう言う師匠。ソファーに寝かせて程なくしてナナカさんが戻ってくる。自分たちを見てナナカさんが口を開く。


「おや、もうそこまで回復しましたか。さすがクルスさんっすね。さ、何も入っていない葡萄酒と麦酒を持ってきたっすよ。ここからは遠慮なく飲んでくださいっす」


 そう言って自分に麦酒の入ったジョッキを手渡してくれるナナカさん。ありがたく受け取りそれを口にする。飲み干してからナナカさんに声をかける。


「ありがとうございます。……しかし、色々ありましたが今回の任務は勉強になりました。何より、エルフの知識や秘薬に関しては自分がハンターだった時には知る事が出来ない事だったので。ナナカさんには感謝ですね」


 自分がそう言うとナナカさんが飲んでいた水をテーブルの上に置いてから言う。


「わ、私も良かったっす。ずっと一方的に偏見と嫉妬の感情を持っていたアークさんとこうして打ち解ける事が出来て……正直、全ての人間に対してそう思えるかは疑問ですがクルスさんが認めた人がアークさんで嬉しいっす……」


 そう言ってにこりと微笑むナナカさん。その笑顔に思わずドキッとしてしまう。改めて思うがナナカさんもかなりの美人である。エルフなので自分よりも年上ではあるが、見た目が幼く見えるため美女というよりも美少女という言い方がしっくりくる。慌てて目線を逸らすものの、それに目ざとく気付いた師匠が横になったまま叫ぶ。


「こらー!ボクがまだ動けないからって……何か二人で良い雰囲気になるなー!ずるいぞナナカ!ボクの知らないところで異性にアプローチの仕方まで学んだのかい!?お前なんて村にいた時は地味で暗くて友達がいなかったくせに!」


 師匠の言葉にナナカさんが慌てて言い返す。


「い、今それ言う必要ないっすよね!?しかもよりによってアークさんの前で!ク、クルスさんだって村では異性に恐れられて『男勝りのクルス』って渾名を付けられてたっすよね!?村を出たのも村では伴侶が見つからないのが本当の理由だったっすよね!」


 そう言い返された師匠がまたナナカさんに言い返すという二人の舌戦を横目で見ながら淡々と麦酒を口に運ぶ。ぎゃあぎゃあと言い合う二人だが、どこか楽しそうに見えるのは自分の気のせいではないと思いたい。なおも続く二人の舌戦を横目に麦酒のお代わりをジョッキに注ぐ。


(……ま、何にせよこれから上手くやっていけたら良いな)


 そう思いながらも二人の会話を肴にし、何杯目かの麦酒を口に運びながら思った。


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