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ギルド受付で働いてますが、攻略して欲しいのは自分ではなくクエストです  作者: 柚鼓ユズ


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何か良からぬ事が企まれていたようです

「これは……本当に美味いですね。肉自体の質も良いですが下処理が完璧です。それにこの肉にかかったソースが絶品です。これは真似してみたいですね」


 表面を炙りつつ、中心はレアを保った塊を薄くスライスした肉を頬張り飲み込むと同時に思わず声が出る。そんな自分を見て師匠が葡萄酒を飲み干して口を開く。


「うんうん。良い食べっぷりだよアーク。さ、どんどん食べるといい。肉も麦酒もまだまだあるからね」


 師匠の言葉に甘え、更に肉を皿に乗せつつナナカさんの方を見て声をかける。


「ナナカさんは食べてますか?肉は……避けておいた方が良いですよね」


 そうナナカさんに声をかけると、野菜と果物をせっせと皿に乗せていたナナカさんが自分の方を向いて答える。


「あ……そうっすね。お気遣いありがとうございますアークさん。自分も好きなものを食べますんで大丈夫っす」


 そう言って新鮮な野菜と果物を皿にてんこ盛りにし、豆と野菜のスープを注ぎながらナナカさんが答える。


(ナナカさんはハーフエルフといってもエルフ寄りだと思ったけど、食の嗜好もそうみたいだな。肉や魚はほとんど手をつけていないようだから自分はそっちの方を片付けようかな)


 一般的にエルフは肉や魚を好まず、種族によっては卵や牛乳すら受け付けないと聞く。ナナカさんはそこまでではないにしろ、やはり一部の例外を除けばエルフは野菜や果物が好みのようだ。


「なんだナナカ。これだけ美味いというのにさっきから果物と野菜、それに穀物ばかり食べているじゃないか。もっと食べないとボクのようにはなれないぞ?」


 言いながら串に刺した焼き魚にかぶりつき、牛肉がごろごろ入ったスープを飲み干しながら師匠が言う。三人の中で誰よりも喋りながら誰よりも飲んで食べている。


(……例外中の例外が一番身近にいるんだよなぁ。普通エルフは動物性の食物を極力避けるって文献で見た時は最初信じられなかったからな)


 自分が料理を担当するようになってからというもの、二日に一度は鶏肉を使った料理を求めたり、当たり前のように卵を溶いて米の上にかけて頬張る師匠を目の当たりにしていただけに最初は文献の方を疑ったくらいである。そんな事を思い返しているとナナカさんが口を開く。


「私は好きなものを美味しくいただいているので大丈夫っす。お二人は気にせず自分の好きな物を召し上がってください」


 言いながらもナナカさんが自分の皿を置き、綺麗な皿に野菜を乗せて自分の方へ差し出してくる。


「アークさん?さっきから見ていましたがお肉ばかり食べてないっすか?野菜もちゃんと食べなきゃ駄目っすよ?自分の事を棚に上げてしまう感じで恐縮ですが、私たちエルフと違って人間はちゃんとバランス良く食べないとっす。さ、お肉の前にこちらも食べてくださいね」


 そう言って自分の元に野菜の皿をすっと差し出す。野菜が苦手なわけではないためありがたくいただく事にする。


「了解です。ではこちらを頂きますね。ありがとうございますナナカさん」


 そう言って野菜を口にしていると、師匠がジト目でこちらを睨んでくる。


「……随分と仲良くなったようじゃないか二人とも。本当に二人きりの時に何もなかったんだろうね?」


 師匠の言葉に二人で慌てて答える。せっかく落ち着いたのにここでまた変な風に邪推されて暴れられたらたまったものではない。そう思って慌てて答える。


「そんな事ありませんから!気遣いを変な風に捉えないでください!」


「そ、そうっすよ!アークさんだけじゃなくてクルスさんも野菜をちゃんと摂って欲しいっす!そもそもクルスさん、エルフなのに肉と魚をそれだけ食べて体を壊さないってどういう事っすか!?」


 ナナカさんの言葉に師匠がふふん、と胸を張って答える。


「ふん。ボクを普通のエルフと一緒にしちゃいけないよ。そもそも、野菜や果物より美味しいものを食べて何が悪いんだい?エルフの村から出て初めて肉を口にした時は感動で打ち震えたよ。この世にこんな美味いものがあったのか!ってね。お店にあった鶏肉の在庫を空にしたのも今では良い思い出というものだよ」


 どうやら話の対象が自分たちから食へと移ったようで内心で胸を撫で下ろしつつ、この機を逃してはいけないと会話に加わる。


「……言われてみれば師匠、自分に調理の手ほどきを教える時も肉料理がメインでしたね。あの時は覚えるのに必死でしたけど、最初の頃は言われるがままに作っていたら肉尽くしの料理になったのを覚えていますよ」


 そう自分が言うと、師匠がうんうんと頷きながら言う。


「うむ。君はその点でも実に優秀だったね。失敗してもすぐに反省を活かして最後には必ずボクが満足する料理を作ってくれたからね。それどころか教えてもいない野菜をメインにした料理までいつの間にか覚えて食卓に並べてくれるようになったね。あの時は我が弟子ながら成長振りに泣きそうになったよ」


 当時の事を思い出しているのか物思いにふけり出した師匠。ナナカさんがこちらにひそひそ話をするように声をかけてくる。


「……アークさん。それってクルスさんが野菜を食べないからっすか?」


 ナナカさんの言葉に自分も声のトーンを抑えて答える。


「……はい。当時は師匠が台所に立つ時もありましたがそれはもう見事なほどテーブルが茶色一色に染まりまして……俺もですが、師匠にも野菜をもっと摂取して貰うためには野菜を美味しく食べられるレシピを自分で身に付けざるを得ませんでした」


 そう自分が言うとナナカさんがため息混じりに言う。


「アークさん、あとでその野菜レシピを教えて欲しいっす。多分、アークさんが不在時には私が作る事になると思うんで……」


 その言葉に頷く。そうなる可能性は高いので師匠が好む味付けの野菜料理のレシピは特に細かに記しておこうと思った。


 そんな事を考えていると、師匠がまた自分に声をかけてくる。


「さぁさぁアーク。喋ってばかりであまり箸が進んでいないじゃないか。まだまだ肉も魚も麦酒もたっぷりあるんだからどんどん食べて飲んでおくれよ」


 そう言って次々と自分に料理と酒を勧めてくる。その様子に何か引っかかりを感じるものの、言われるままに料理と酒を食べて飲んでいると、やはり師匠の様子がおかしい。自分も同じように食べてはいるのだが、こちらの様子をしきりに気にしているように見える。


「……うーん。この鶏肉の揚げ焼きも絶品だね。ただ、やはりボクの舌には君の作った料理が一番だね」


 言いながらもやはり自分の様子を伺っているように思える。そんな事を思っていると師匠がこちらに声をかけてきた。


「……ねぇアーク。何か変わった感じはないかい?その……体が火照ってきたりとか、その……興奮したりとかさ」


 師匠の質問の意図が分からず、口にしていた麦酒の手を止め言葉を返す。


「体が火照る?いえ、特にはありませんが。酒を飲んでいるので多少顔は赤くなっているかもしれないですけど……」


 とはいえ、この程度の量では自分がいくら病み上がりとはいえども前後不覚に陥るような酔い方はしない。それは師匠だってよく分かっているはずだ。自分の言葉に師匠が更に困惑した様子で続ける。


「おかしいなぁ……あの量ならもうとっくに効果が表れてもおかしくないはずなんだけれど……」


 師匠が何を言っているのか分からず困惑していると、ナナカさんが静かに口を開く。


「……やっぱり何か企んでたっすねクルスさん。残念ながらその計画は失敗っす。用心しておいて本当に良かったっす」


 ナナカさんの言葉に師匠と自分が同時に振り返り、ナナカさんの方を振り返った。


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