自分の思いを伝える事は大事です
ナナカさんの叫びに近い声に、師匠も自分も思わずナナカさんの方を見る。ナナカさんが続ける。
「……最初、クルスさんから話が来る以前から私はアークさんに対して良い感情を持ってなかったっす。その態度を隠す事なく振る舞う私にもアークさんは丁寧に接してくれました。その後、アークさんのお陰で打ち解けて話せるようになったっす。その事に浮かれた自分のせいで最初のトラブルを起こしてしまいました」
黙ってナナカさんの話に耳を傾ける師匠。自分もナナカさんの言葉を黙って見守る。
「……刃鱗獣との対処の仕方もそうっす。自分がアークさんに良いところを見せようとアークさんの行動を制限して罠を仕掛け、狙い通りに事が進み油断していたところへ突如現れた亜種の存在に動揺した自分を庇って更に怪我をさせてしまいました。あの状況を乗り越えてこの結果が許されないんだったら原因は全て……私の責任っす。罰を受けるなら私っす……お仕置きでも再び出禁でも全て甘んじて受け入れるっす」
そこまで言うと俯いて涙をこぼすナナカさん。我慢出来ずに自分も口を開く。
「それを言うなら俺も同罪です。素材を採取する際にもっと強引に引き止めれば良かったですし、その後ナナカさんの判断に従ったのは俺自身の判断です。ナナカさんに罰を与えるようであれば自分もそれを受けます。師匠の仰る通り、自分の鍛錬不足ですからね」
自分がそう言うと、やれやれと言った様子で師匠が口を開く。
「はぁ……参ったね。ここでこれ以上何か君たちに何かすれば完全にボク一人が悪者になってしまうじゃないか」
その通りです、とは口が裂けても言えないため黙っていると、師匠が再びナナカさんに声をかける。
「……一つ確認するよナナカ。君は二度の命の危険に晒された。でもそのどちらもアークによって救われた。それは間違いないね?」
師匠の言葉にナナカさんが顔を上げる。涙を拭いながらはっきりと答える。
「……はい。どちらもアークさんのお陰で私はほぼ無傷です。一度目はともかく、刃鱗獣に関しては私一人だったら間違いなく殺されていたと思います」
そうナナカさんが言うと、師匠がぼそりとつぶやく。
「……今回は救えた、って訳だね。……分かったよ。素材自体の回収も完了しているし、刃鱗獣の亜種の生息地見直しという調査報告という副産物まで出来たという事だ。それも踏まえて今回の依頼は成功としようじゃないか。さぁ、そうと決まれば二人とも早く着替えて食事にしよう。アークはその前に手当てをしてからだけどね。積もる話はそこからゆっくり聞こうじゃないか」
師匠の言葉にナナカさんが恐る恐るといった様子で声をかける。
「ク、クルスさん……私の処遇は……」
ナナカさんの問いかけに師匠が答える。
「はぁ。だから今回の依頼は成功と言っただろう?もうそれで良いじゃないか。何より、それでお前に何かしようものなら後ろでボクを睨み付けている後ろの愛弟子に何を言われるか分かったもんじゃないからね。言っておくが、ボクの世話係を務めるのなら全てが彼基準になる事を今から覚悟しておきなよ」
そう言って自分を指差す師匠。睨んでいるつもりはなかったのだが。ただ、本当に師匠がナナカさんに何か罰を与えるのならば自分がそれを受けるつもりでいたし、腹いせに師匠のお世話をしばらくの間ボイコットしようと心に決めていた。
「ナナカさんにお咎めがないなら自分は問題ないです。……っていうか師匠、こうなる事を最初から分かっていませんでしたか?」
途中から師匠の口ぶりで何となくそう察した。考えてみればそもそもナナカさんのパートナーに真っ先に自分を指名した事自体が不自然である。師匠の命なら互いに断れない事が分かっているからこそ今回の依頼を自分たちに命じたように思えた。
「ん〜?何の事かなぁ。ま、君もボクも何かと忙しいし、身の回りをお世話してくれる存在がもう一人いたら助かるかなとは思っていたけどね。そんな存在が互いに仲良くなってくれたら嬉しいなとも思っていたよ。予期せぬトラブルはあったものの、結果そうなったのならボクとしては万々歳さ」
……食えない人だ。最初から己のために自分とナナカさんの仲を円滑なものにしたかったのだ。まぁ、結果的にその目論見は成功だった訳なのだが。
(……まぁ良いか。ナナカさんとは今後も師匠を通じて色々とお世話になる事になるだろうからな。それに、今後師匠のお世話を一緒にしてくれる人がナナカさんならこれ以上ないくらい俺にとっての適任だ)
並大抵の精神力では師匠の相手は務まらない。その点師匠に惚れ込んでおり師匠も心を許しているナナカさんが共にお世話係になってくれるならこんなに心強い事はない。そう安堵しているとナナカさんが喜びのあまりにこちらに抱き付いてきた。
「アークさんっ!ありがとうございますっ!私……アークさんには何と言ったら良いか……本当に感謝っす!私、師匠とアークさんに一生お仕えするっす!」
そう言って自分を真正面から力強く抱きしめるナナカさん。当たり前ではあるがそれによって自分の体にナナカさんの柔らかな温もりが全身に伝わる。
「ちょっ!当たってますナナカさん!色々と当たってますから!それにお仕えするのは師匠だけで大丈夫です!ひとまず落ち着いてください!あと早く離れてください!でないと……」
慌ててそう言おうとするものの既に遅し。自分たちを見て師匠が肩を震わせているのが見える。
「……あ、終わったなこれ」
自分が思わずつぶやくと同時。
「お前たちーっ!今すぐ離れろーっ!くっつくなーっ!」
師匠の全力の叫びが雷撃と共に館に響き渡った。




