不測の事態も臨機応変で対処します
「……なるほど。ひとまず事情は分かりました。彼等は今すぐにでも火炎龍の討伐クエストに向かいたい。先生はそんな彼等を不安だから止めたい。この認識で合っていますね?」
テルマが先程までのやり取りを聞いた後に淡々と口にする。相変わらずクールな様子とその成長ぶりを見て何となく誇らしくなる。
(……初めてテルマと出会った時からは想像出来ない姿だな。この子は自分以外のハンターへの対応や状況を確認してコミュニケーションを取る気なんて全くなかったからな。それが今では若手が憧れる超一流のハンターだ。大して関われた訳じゃないが当時の姿を知っているだけに嬉しくなるな)
しみじみとそんな事を思っていると、不意にテルマがクエスト受注書を手に取り口を開く。
「……分かりました。彼等がこのクエストを受注するレベルに値する存在かを見極めるため、私が彼等に同行しましょう。それなら構わないですよね先生?」
そう言って受注欄で空白になっている項目に自分の氏名を記載するテルマ。自分も驚いたがそれ以上の反応を起こしたのは自分に怒鳴っていた彼等三人であった。
「は……はあぁぁぁ!?あ、あの伝説級ハンターのテルマさんが俺らのクエストに同行だって!?」
「い、一流クランや国からのクエスト同行依頼が引く手あまたのテルマさんが!?こ、これってとんでもない事だぞおい!」
「お、俺たち『無敵の不沈監』の伝説のスタートにこれ以上ないくらいの門出じゃないかこれ!」
興奮する三人をよそに、淡々とした口調でテルマが言う。
「勘違いするな。私はあくまで同行するだけ。お前たちが本当に自分らだけでやれるかどうかを見守るだけだ。私が少しでも手を貸さざるを得ない状態に陥った際には素材は全て没収させて貰う」
有無を言わせぬ迫力でそう告げるテルマに一瞬三人ともたじろぐが、それを振り払うように三人が口々に言う。
「そ……そうだよな!か、構わないですよ!元々俺たちだけで挑むつもりでしたからね!」
「そうだ!それにSS級ハンターに自分たちの狩りを見てもらえる機会なんてそうそうないからな!それだけでも貴重だしな!」
「あぁ!俺たちのDランクデビューの門出に相応しいぜ!」
話しているうちに先程までの調子を取り戻したのか、次第に三人のテンションが上がっている。それを横目に眺めているとテルマが自分に声をかけてくる。
「心配しないでください先生。下位であるDランクの火炎龍程度ならば彼らに何かが起きる前にどうにでも対処出来ます。いくら口で説明しても先生の意図は彼らには伝わらないでしょう。先生の手間を省くにはこれが一番早いと思いますので」
……確かに、いまや世界で十指の指に入ると称される凄腕ハンターであるテルマが同行するなら彼等のリスクは限りなくゼロに近いだろう。例えるならば幼児同士との喧嘩に大人が出てくるようなものだ。
「……まぁ……お前さんがいるなら確かにクエスト自体に対して不安はないな。むしろ、この辺りのエリアならお前さんが参加してクリア出来ないクエストを見つけるほうが難しいだろうしな」
そう自分が言うと、テルマが一瞬だけ顔をぱあっと明るくして笑顔になる。が、何故かすぐにまたクールな表情に戻って口を開く。
「……先生にそのように思っていただき光栄です。では、彼等の準備が整い次第クエストに同行いたしますね」
そう言って自身もクエスト前に装備や所持品を確認し始めるテルマ。その様子を見ながら改めて思案する。
(……うーん。確かにこれで三人の安全は確保されたも同然だ。だけど、どうにも気になるな。どうにか出来ないもんかね)
そんな事を考えながら全員の署名が記された受注書を見ながら考える。クエストのフィールドや環境、支給品の有無や詳細を眺める。そこである一つの方法を思いついた。
「……うん。これならどうにかなりそうだな」
そう一人つぶやき、彼らの名前が記されたクエスト受注書に狩猟許可の判を勢い良く押した。
「……で、テルマさんはともかく何でおっさんまで付いてきてるんだよ」
クエストの目的地である密林へと向かう途中、歩きながら自分の方へと声がかかる。背中に背負った荷物を極力揺らさぬように気を付けながら言葉を返す。
「悪いね。ギルドからの支給品を用意する補充兼運搬役を自分が担当する事になったからさ」
そう言いながら自分も同じペースで後ろを歩く。会話に答えながら三人の資料を脳内で復習する。
三人の名前はバンツ、サンジ、マンジ。この三人でバンツをリーダーとしてクラン『無敵の不沈監』を結成。クエスト達成率はハンターとしてデビューしてからEランク到達まではそれなりに順調だったものの、Dランクへの昇級認定クエストで足踏み。理由としてはメンバーの負傷であったり与えられた制限時間内での討伐がかなわず時間切れであったりと様々であったが、その後も決して諦めず挑んだ結果がようやく実を結びDランクへの昇級を果たしている。
(……挫折する事なく幾度も挑戦し念願の昇級が叶い、一足飛びで次のランクへの昇級に挑むべくこの状況になったって訳だ。三人とも揃いのバンダナを頭に巻いているぐらい彼らの絆が強固なのは分かる。だからこそ、いきなり無謀な挑戦ではなく着実に経験を積み重ねて欲しい。今回はテルマがいるから大丈夫だとは思うが、彼らの意気込みを削ぐ事なくここからどう軌道修正したら良いのか……)
そう思っていると、先程のバンツの言葉に続くようにサンジとマンジが自分に声をかけてくる。
「そういやおっさん、俺らの受注にあれだけ難癖つけたくせに俺らのクエストの支給品担当なのかよ。支給品はちゃんと全部揃っているんだよな?到着してからあれが無かったとか忘れたとか言わないでくれよ?」
「そうだな。それかさっきのやり取りの腹いせに支給品の回復薬や携帯食料を少なくするとか勘弁してくれよ?おっさ……」
そこまで彼等が口にしたところでその場の空気が瞬時に凍り付く。マンジが言葉を言い切る前にテルマが手にしたメイスをマンジの眼前に突きつけたからである。三人が硬直している中、テルマが重々しく口を開く。
「……お前たち。いい加減にしておけ。何も知らない新人故に今まで大目に見ていたが、それ以上先生に対して無礼な口を利くようであれば私が黙っていないぞ」
そう言って三人を睨み付けるテルマ。その威圧感に思わず固まる三人。やれやれと思いながらもテルマに声をかける。
「……大丈夫だよテルマ。俺は別に気にしてないよ。そのくらいにしてやってくれ。ほら、三人とも固まっているじゃないか」
自分がそう言うとようやくメイスをマンジから離すテルマ。その表情は未だ不満そうではあるものの、メイスをしまいつつ口を開く。
「……分かりました。先生がそう言うのでしたら……だがお前たち、くれぐれも目上の者への口の聞き方に気を付けろ。次はないからな。覚えておけ」
そう言って三人をぎろりと鋭い目で睨むテルマ。慌てて三人が一斉に声を上げる。
『は……はひっ!』
背筋を伸ばし再び前を向いて歩みを進める三人。歩きながらもバンツがおそるおそるといった様子でテルマに声をかける。
「で……でもテルマさん、なんでそのおっ……アークさんを先生って呼んでいるんですか?」
バンツの問いにテルマがじろりとバンツを睨みながら答える。
「……お前たちに言う必要はない。余計な無駄口を叩く暇があったらさっさと歩け」
有無を言わせぬ口調のテルマの気配に気おされびくっと身をすくめるバンツが気の毒に見えて自分が口をはさむ。
「おいおい。その辺りにしておけよテルマ。……バンツくんだったね?代わりに俺が答えさせて貰うけども、テルマとは昔何度かクエストに同行した事があるんだよ。その時の事があってテルマにはそう言われているんだよ。俺は前からずっと先生なんて呼び方は止めてくれって何度も言っているんだけどね」
そう自分が言うとバンツが意外だという表情を浮かべて自分を見る。
「……え?……っていう事はアークさんもハンターだったっていう事ですか?」
バンツの言葉に自分が一瞬言葉に詰まると間髪入れずにテルマが口を開く。
「……お前たち、お喋りはそこまでだ。ほら、着いたぞ」
そう言ってテルマがすっと指差したその先にはクエストの拠点となるベースキャンプが設置されていた。




