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ギルド受付で働いてますが、攻略して欲しいのは自分ではなくクエストです  作者: 柚鼓ユズ


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一難去ってまた一難です

「……ようやく分かりました。最初の爆薬ナイフを投げると同時に、麻痺効果の毒を混ぜて投げていたんですね。それならこの即効性も納得です」


 爆薬の仕込まれたナイフより先に痺れ粉を仕込んだナイフを投げ、爆発によって周囲にそれを霧散させる。大岩より風下にいた刃鱗獣たちは麻痺効果のある爆風を一斉に吸い込んでしまったという訳だ。麻痺して動けずにその場にうずくまったままの獣たちの群れを見ながら思う。


(……正確に麻痺効果が発動する範囲を計算して、更にそれを狙って爆発させる技術も凄い。だが、やはり何より凄いのはその効果の威力と持続性だ)


 仕掛ける手間がかかる分、同じ麻痺でも長時間の拘束が可能な『電撃罠』と違い『痺れ粉』の効果は持続性も短くここまでの効力は発揮しない。せいぜい相手の動きを短時間止めている間に回復や体勢を整える時間稼ぎをするのが関の山だ。だが、ナナカさんの手によって仕掛けられたこの罠は今も刃鱗獣たちの動きを完全に拘束し続けている。


「皆、毒の効果を軽く見過ぎっす。剣や魔法がいくら優れていてもそれを振るう前に毒を仕込まれたらそれでおしまいっす。毒に抗体があったり効き目が弱くても確実に戦力を削ぐ事は可能っすからね」


 そう言って笑ってまた新たなナイフを取り出すナナカさん。……本当にどこにそれだけの道具を仕込んでいるのだろう。


「さ、あとは消化試合っすよアークさん。さくさく仕留めて作業再開といきましょう。しばらく動けないとは思いますが油断は禁物っすからね」


 そう言って動けないままの刃鱗獣の方へと向かうナナカさん。慌てて自分もその後ろへと続いた。


「よっ……!と。これで終わりっすかね。思ったより早かったっすね」


 刃鱗獣の一体を仕留めてナナカさんが言う。自分も苦しめないように目の前の刃鱗獣を一撃で仕留めてから返事を返す。


「ですね。しかし……これだけの数の魔獣が仕留めるまで麻痺が持続するなんて本当凄い効果ですね。これが出回ったらハンター業界の罠の歴史が変わるんじゃないかと思うレベルですよ」


 そう自分が言うとナナカさんがちっちっとナイフを持ったまま指を振る。降った指とナイフからは返り血が飛ぶ。


「駄目駄目。それは無理っすよアークさん。一流の薬師かつエルフの独自のノウハウと知識があっての賜物っすから。並のハンターや薬師なら良くて調合失敗で素材を無駄にするか、最悪調合中に自分に危害が及ぶ事になるっす。手順や分量を教えたところで誰もが出来る訳じゃないっすからね」


 確かに、誰もが手順を踏まえて作れてこそのマニュアルだ。ナナカさんの調合した罠の効果がいくら絶大とはいえど、成功率が低い上に危険が伴うようではとても実用には至らない。その効果を目の当たりにしたからこそ、ナナカさんの言う通り万人が扱う事は不可能なのだと説明を聞いて改めて認識する。


「そうですね……調合の知識は素人に毛が生えたレベルの自分でも複雑な工程や手順があるんだとは何となくですが分かります。今までに何人もの薬師や調合スキルに秀でたハンターは見てきましたが、ナナカさんのレベルの方には出会った事がないですね。師匠がナナカさんの事を認めているのが今の戦闘だけでよく分かりましたよ」


 そう自分が言うと、耳をぴこぴこと上下に動かしながらナナカさんが答える。


「……ほ、褒めても何も出ないっすよ?ただ、クルスさんが認めている方にそんな風に評価されるのは悪い気がしないっすね」


 どうやらあの耳の動きは嬉しさを表現しているようだ。同じハーフエルフといえど師匠からは決して見る事の出来ない新鮮な反応である。


(……打ち解けてみれば思ったより素直な人だな。師匠との関係性が上手くいけば友達とまではいかなくとも、今後仲良くやっていけそうな気がするな)


 そう思っているのは自分だけではないだろうと何となく思う。自分に対しての治療のケアはもとより、調合に関しての詳細を流暢に語ってくれたのが何よりの証拠だ。ナナカさんと師匠と三人で今後は良い感じで関われるのではないかと思う。


「さ、残りの素材もちゃちゃっと集めて帰るっすよアークさん。ん?……でも、この内容で作りたいものってなると……すいません。やっぱりちょっと待って貰って良いっすか?」


 そう言ってリストを手にその場で何やら考え込むナナカさん。自分も残りの素材は頭に入っているため不足している素材を思い返す。おそらくこの周囲を散策すれば容易に手に入る素材だったはずだ。


(……特に入手が難しい物は残っていないはず。それはナナカさんも充分理解しているはずだ。なら、何であんな風に考え込んでいるんだ?)


 そんな事を思い思考がしばし色々と脇道に逸れたのが良くなかった。そのため、不意に近くで湧き起こる殺気に対して反応が一瞬遅れた。剣を抜きながら咄嗟に叫ぶ。


「ナナカさんっ!まだ何者かが近くにいます!気を付けてください!」


 そう叫ぶと同時、ナナカさんの方へと駆け出す。同時にナナカさんの横の岩陰から一体の刃鱗獣が飛び出してくる。その勢いのままナナカさんを体当たりで弾き倒した。


「えっ……何で……!?ひっ!」


 ナナカさんを弾き倒した勢いのまま跳躍し、空中で刃鱗獣が硬化した鱗を放とうとするのが分かった。突然の事態に反応出来ないナナカさん。このままでは刃鱗獣の鱗にナナカさんが貫かれてしまう。


「くそっ……!間に合えっ!!」


 剣を構えていては間に合わないと思い、剣をその場に放り投げて全力で駆け出す。左腕の痛みも無視してナナカさんの元へと向かう。


(迎撃は……間に合わないっ!なら……せめてっ!)


 地面を全力で蹴り上げ跳躍し、その場に固まるナナカさんへ覆い被さる形でぶつかる。

 次の瞬間、脇腹と足に鋭い痛みが走った。


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